HappyBirthday健人!
「あー、気持ち良かったぁ!石垣の砂浜で歌ってる自分が見えた。
なんだか竹富島の夕日が見たくなっちゃったな…。
うん、あなた達にお願いして、ほんとに良かった!」
歌い終え、我に返った雪見はそう言いながら振り向き、五人に向かって嬉しそうに微笑んだ。
五人にとってそれは最大級の賛辞に等しく、みなハイタッチして喜んでる。
そこへ翔平を先頭に、健人と当麻がやって来た。
「ねーねー、俺知ってる!この人達、沖縄のライブハウスの人達でしょ?
この人達がゆき姉のサポートメンバーなの?それって凄くね?」
突然現れたように思えた翔平らに、雪見はもちろん五人組も驚いた。
「えーっ!?なんで翔平くんがここにいんのぉ!?」
「わざわざ陣中見舞いに来たのに、なんではないでしょー!
俺、ゆき姉の最後のライブは絶対見届けたかったんだけどさ、
あさってから映画の撮影で香港なんだ。
だから健人に頼んで、無理矢理くっついて来たってわけ。
ほいっ!前にゆき姉と撮影で行ったカフェの、うんまいワッフル!
みんなの分もあるから、後で食ってねー。」
「あ、ありがとうございますっ!!やっべぇ、本物だぁ!」
五人は、初めて間近で見る人気イケメン俳優三人に、顔を紅潮させて緊張してる。
「健人くんと当麻くんも、お疲れ様っ!」
みんなが健人と雪見に注目してるのを視線で感じる。
なので、さらっと決まり文句を口にはしたが、内心は会えて嬉しいに決まってた。
それは健人とて同じで、二人は合わせた一瞬の瞳で思いを届け合う。
本当はすでに公認の仲なのだから、誰に遠慮もいらないのだけれど。
「ね、紹介してよ!俺らの新しい仲間。あ、三ツ橋当麻です。
俺らの曲にも出てくれるんだよね?今の聞いたら、めっちゃ高まった!よろしくっ!」
そう言いながら当麻は、一人ずつに自ら握手を求める。
その後から健人もみんなと握手をかわした。
「ありがとうございますっ!タクです!よろしくお願いしますっ!」
「ユウです。」「マサキです。」「コーヘイです!」「シンタロウです!」
五人が挨拶し終えるのを待ち構えてたかのように、総合プロデューサーから声がかかる。
「はい!じゃあお次はSJいってみようか!」
そうしてスタジオでの最終チェックも時間の許す限り繰り返され、沖縄の五人組は
健人や当麻と年が近いこともあって、終わり頃にはすっかり意気投合。
今度一緒に飲みに行く約束をして、健人が一足先に次の現場へと移動しようとしたその時!
突然パチンと照明が消え、スタジオ全体が真っ暗闇になってしまった。
「え?えーっ!?停電??なに?ブレーカーが落ちたの?」
辺りが騒然となる。当麻が一人で右往左往してる。
とっさに健人は隣の雪見に手を伸ばし、「大丈夫だよ。」と冷静に声をかけて安心させ、
ギュッとその手を握り締めた。
と、そこへ「ハッピバースディトゥユゥー♪ハッピバースディトゥユゥー♪♪」
の歌声と共に、とっくに現場へと戻って行ったはずの翔平が、ろうそくをたくさん灯した
大きなデコレーションケーキを手に、そろそろとスタジオに入って来るではないか。
次第に周りのみんなも歌声に加わり、健人と雪見の周りには大きな人の輪が出来上がった。
「な、なに!?どーゆーことっ!?翔平、とっくに帰ったんじゃなかったの?」
「いーから、いーから、まずは消せって!ろうそくが垂れてケーキが食えなくなるっ!」
笑いながら翔平が健人に言った。「みんなからのサプライズだよ!」と…。
翔平が手にしたケーキのろうそくを、健人が一息に吹き消す…つもりだったが、
22本のうち2本だけが消えずに残ってしまった。
「だっさーっ!!しょーがねーなぁ!
ねぇ、わざと?わざと残したんでしょ?ゆき姉と一緒に消そうと思って。」
翔平の言葉に、周りの連中がヒューヒュー!と、健人と雪見を冷やかす。
「んなわけないだろっ!」
「そうよ!どうやったらわざと二本だけ残せるのよっ!」
今だ暗闇の中、たった二本の細いろうそくだけがゆらゆらと揺らめいて、
健人と雪見の顔をぼんやりと映し出す。
その顔は言葉とは裏腹に、明らかに笑顔であった。
「いいから早く二人で消しなさいって!ろうそくが垂れるっつーの!」
今度は当麻が二人を促した。
「しゃーない!じゃあ、ゆき姉一緒に消すよ!せーのっ、ふぅーっ!」
健人と雪見は暗闇の中、顔を見合わせ照れ笑いを浮かべてた。
するとその瞬間スタジオの照明が付けられ、みんなから一斉に
「健人くん、お誕生日おめでとー!!」と、クラッカーが鳴らされた 。
「あざーっす!どうもありがと!めっちゃ嬉しいです!」
ろうそくの明かりだけじゃ気付かなかったが、翔平が手にしてるバースディケーキは、
生クリームが苺のクリームらしく、全体が可愛らしい薄ピンク色をしている。
上には艶々の苺がこれでもかと並べられ、ピンク色の食べ物にそそられる健人には
夢のようなケーキだった。
しかしそれもさることながら、チョコレートプレートに書かれてるメッセージに
目が釘付けになり、思わず胸が熱くなる。
『Happy Birthday 健人 みんな君たちが大好きさ!』
「君が」ではなく「君たちが」…。
健人の誕生日ケーキであるにも関わらず、雪見のことも気遣ってくれた。
そうか…。このケーキは、俺たち二人を祝う意味も込められてるんだ。
そう気付いた時、健人は仲間達のさり気ない優しさに感動し、目が潤んできた。
雪見もそのメッセージの意味を理解し、ポロポロと涙をこぼしてる。
「みんな…。ありがとう!今までで一番嬉しいバースディケーキです。」
健人が精一杯の笑顔で、当麻や翔平を始めスタッフ全員に頭を下げた。
笑っていないと泣きそうになるから…。
みんなに祝福され愛されて、この上ない幸せを噛み締めている。
健人は隣で泣いてる雪見の頭をよしよし!と撫でてから、ぐいっと肩を抱き寄せた。
そしてみんなの前でこう挨拶したのだった。
「俺と雪見のこと、これからもどうぞよろしくお願いします!」
そう頭を下げた健人にビックリしながら、慌てて雪見も頭を下げる。
初めて私のこと、「雪見」って呼んだ…。
それはまるで仲間内でのウェディングパーティー会場で、最後に参列者に挨拶する
新郎新婦のごとく、な光景だった。