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ファンのみんなへ

「よしゃ!まずは事務所に連絡しなきゃね。

今野さん、ビックリすんだろうな。さっき別れたばっかだもん。」


玄関を上がった途端、めめとラッキーがゴロゴロ擦り寄って来た。

しゃがみ込んだ健人が、その頭を一匹づつゆっくりとなで回しながら、

手のひら全体で柔らかな感触を楽しんでいる。

雪見にはそれが、心を落ち着かせるための健人の儀式である事がよく判った。

なぜなら、自分も同じような場面で同じ事をするから。


「おしっ!電話するかっ!」

心の準備が整ったらしく、スクッと立ち上がった健人がケータイを取り出した。

が、それを阻止するように、その背中に雪見がふわっと抱き付いた。


「ねぇ…。本当にこれで良かった?後悔してない?」

背中にぺたっと顔をくっつけて、雪見がつぶやくように健人に聞く。


「ゆき姉は…後悔してんの?」


「ぜんぜん!すっごい嬉しかったよ。健人くんは?」


「俺は…もっと早くに言えば良かったって後悔してる。

今までゆき姉に、ずっとつらい思いさせてきたよなって。ほんっとゴメン…。

もしかしたら…またつらい思いさせちゃうかもしんないな…。

けど俺、絶対ゆき姉を守るから。だからちょっとだけ我慢してね。」

そう言いながら健人は、後ろにいる雪見を胸に抱き寄せ、優しいキスをした。


「大丈夫。私のことなら心配しないで。

これから一番大変なのは健人くんなんだから。私は健人くんの方が心配…。」

健人の胸の中で雪見は、浮かれ気分が落ち着いて現実を見つめてた。


「平気だよ。俺はゆき姉さえそばにいてくれたら、なんだって乗り越えられる。

っつーか、今ならなんだって出来ちゃう気分!そーいう子でしょ?俺って。」

健人が、ニコッと笑って雪見に聞いた。


「思い出したっ!昔、ちぃばあちゃんに戦隊ものの変身グッズ買ってもらった時、

成り切って健人くん、滑り台から飛び降りておばさんに叱られてた!」


「なんで今、そんなこと思い出しちゃったの?いつの話だよっ!」

二人で声を上げて笑ったら、幸せで胸がいっぱいになり涙が滲んだ。


私には、私だけしか知らない健人くんの思い出がたくさんある。

誰にも絶対負けない、健人くんへの強い愛もある。

だから私は大丈夫!どんな目にあっても、必ず笑顔であなたを支えてみせる!


そんな決意も揺らぐほどに大変な毎日が待ってるとは、まだこの時は

想像もつかなかった…。



「な、なにぃ!?交際宣言しただとぉぉぉ!?」


小野寺常務は電話の向こうでそう叫んだあと、なぜか黙りこくった。

健人は、小野寺が受話器を握り締めたまま気でも失ったかと、一瞬焦りまくる。


「常務!申し訳ありませんっ!常務っ!」


「……何回も呼ぶな!聞こえとるわっ!

いいか、よーく聞け!お前、自分が何をしたのか判ってんだよな?」


「もちろん判ってます!事務所にも凄い迷惑かけたと思ってます!

けど俺にとって、今一番大事な事だと思ったから、自分の判断で行動しました!

ゆき姉は悪くありません!」


「そんな事、判ってる!すべてはお前の自己責任だ!

だが…お前達の事を知ってたにも関わらず、マスコミからガードしきれなかったのは

事務所にも責任がある。

だから、ここからのマスコミ対応はすべて事務所で処理するからな!

何をどう記者に話したのか、一つ残らず教えろ!」

小野寺は、口調こそきつく早口でまくし立てたが、最後にこう付け加えた。


「お前達は…うちの事務所の大事な宝なんだよ。

そんな宝石を、マスコミごときに傷付けられちゃたまらんからな。」

その言葉に、健人は心から感謝して電話を切った。



それから三日間、毎日ドキドキして過ごしたが何事も起こらず、とうとう四日目の朝。

例の週刊誌が特大スクープとして、ドーンと二人の写真と記事をぶちまけた。

それからの騒ぎときたら、健人と雪見の想像の範疇を遙かに超えていた。


マンション周りは勿論の事、行く先々で大勢の記者にあっという間に囲まれ、

マイクを向けられてはフラッシュを浴びる。

だが二人は事務所の指示で一切口を開かず、世間に向けてのコメントは

唯一お互いのブログでのみ発表することに。

事務所サイドからも、二人を温かく見守ってやって下さい、とのコメントを発表した。


地上での騒ぎもさることながら、インターネット上も二人に関する話題で埋め尽くされた。

あちこちで膨大な数の書き込みがされ、騒ぎは日本中をも揺るがした。

予想通り二人の交際宣言には賛否両論あり、おめでとうの声が多数とはいえ

嫌いになった!最悪!などと手厳しい感想も多くある 。


だが、これほどまでに騒がれるのは、それだけ健人が老若男女を問わず人気者であり、

雪見も今まさに話題の人だと言う証拠だから、と今野が二人を慰めた。

そして今日中にファンに向けてのメッセージを、ブログにアップするよう言い渡される。


その日の夜。

健人も雪見もパソコン前で、ずっと悩みに悩んでる。

どう書けばみんなに伝わるのか、ここ何日もいろんな言葉を探してた。

だが、きっとどの言葉も舌足らずで、すべてを伝えきれる言葉の組み合わせなんて

見つからないに決まってた。


雪見がため息をついたあと、「よしっ!」と言って健人を振り向いた。

「これ以上考えても、これしか思い付かないや。もう決めたから、健人くんも決めて!

せーのーで同時にアップしよう!」


「そだねっ。今日一日で全部伝えようと思わないで、明日もあさっても、

わかってもらえるまで毎日伝えればいいんだ!」

顔を見合わせ、やっと二人とも笑顔になった。



いつも応援して下さってる皆様へ


『未来は誰にもわからないけど ひとつ確かに言えるのは

 君のとなりに 僕がいること

 緑の風に二人でふかれて 今より遠くへ飛んで行けたら

 きっとつないだ手の中に 夢のかけらが入っているはず』


この詞を書いた時、私はすべての思いを込めました。

大切な人への思い。未来への希望。自分を奮い立たせる勇気。

そして今、それらが現実に向かって動き始めたのです。

自分でも信じられないことに…。


来月、夢のかけらを拾いにニューヨークへ行って来ます。

大切な人の夢のかけら。私も一緒に拾って彼に手渡そうと思います。

大切な大切な彼、斎藤健人のために…。


       『YUKIMI&』浅香雪見




ファンのみんなへ


あのですね、このたびはお騒がせしてます!

ごめんなさい!ビックリさせて。

けどね、嘘みたいなホントの話なのです。

夢みたいです。けど夢じゃ困るのです。

中には夢であってくれぇ〜!と願う人もいるかもしんないけど

僕は夢だったら困るのです。

だから、そーっとそーっと寝かしといてね。

眠りから覚めた僕は、きっとパワーアップしてるはず。

あれ?なんか矛盾してる?ま、いいや。


てことで、斎藤健人と浅香雪見をこれからもよろしくっ!


by 斎藤健人          


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