表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/443

残り1ヶ月

大阪公演から二週間。


あのお笑いコンビがあちこちのメディアで、雪見のライブと打ち上げの様子を

面白おかしく話題にしてくれたお陰で、名古屋公演も大盛り上がりで幕を閉じ、

雪見も今やすっかり時の人である。


もちろん健人と当麻は、お笑いコンビとは対極にいるイケメンゆえに、

これまた面白おかしくおとしめられるのは致し方ないのだが、雪見とワンセットで

いつも話題にしてくれるので、三人の人気はさらにヒートアップし、

超多忙な毎日を送っていた。



雪見が今野から言い渡された「三月中に有名になれ!」は、期限を一ヶ月残して

すでに目標を達成し、今野も事務所も思わぬ特需に上機嫌である。


「いやほんと、あの二人のお陰でこんなに『YUKIMI&』が売れるとはな!

カメラマンの雪見も話題にしてくれるから、健人の写真集まで大増刷とは嬉しい誤算だよ!

ま、苅谷翔平の写真集もかなり売れてるらしいがね。」

常務の小野寺が、仕方ないかという苦笑いで今野を見た。


「ええ。今やカメラマンとしても、人気一流どころに名を連ねるぐらい

成長したんですから…。

なんだかそう考えると、あと一ヶ月で雪見がこの事務所からいなくなるのが

どうにも悔やまれますねぇ。

アーティスト活動は、これ以上続ける気はまったく無いようですけど、

カメラマンとして、このまま契約延長と言うわけにはいきませんかね、常務。」

今野が、折角の人気絶頂期に雪見を手放すのは、事務所としても痛手であることを

小野寺に向かって力説する。


「実は俺も、そう思ってたとこだ!

近々雪見を呼んで、このまま事務所に残らないか交渉してみようと思う。

その時は今野、お前もよろしく頼むぞ!」


「わかりました。任せて下さいっ!」




水面下でそんな話になってるとはつゆ知らず、雪見は残すところあと一ヶ月で

元のフリーカメラマンに戻れる事を、毎日楽しみにしていた。


「あー、やっと三月になるぅ!あと二週間で福岡公演でしょ。

で25、26日がツアー最後の東京公演で、四月には自由の身だぁ!やったー!!」

雪見はヘアメイクの進藤に髪をセットしてもらいながら、鏡の前で大声を上げた。


「そんなに嬉しい?私は寂しくなっちゃうけどな…。」

進藤が本心から寂しそうに、うっすら笑みを浮かべて鏡越しの雪見を見る。


「ありがとう。進藤さんと牧田さんには、本当にお世話になりました。

二人がいなかったら私、きっと途中でこの世界から逃げ出してたかもしれない…。

本当に感謝してるの。ありがと!」

雪見の言葉に進藤は、目にいっぱい涙を浮かべてた。


「やだ進藤さん!まだお別れまで一ヶ月もあるのに、つられて泣きそうになるじゃない!」

雪見までもが目を潤ませる。


「だめだめっ!メイクが取れちゃう!泣くのはお互い最終日にしよう!

雪見ちゃんの送別会しなくちゃねっ!」


これから健人、当麻と三人で、東京公演でだけ行われる特別写真展のための

スチール撮影が行われようとしている。

雪見は写される人であり、写す人にも回らなくてはならないので大忙しだ。


「よしっ!『YUKIMI&』一丁上がりっ!

これ終ったら、カメラマンバージョンにチェンジするから、急いで戻って来てね!」

進藤に送り出され、雪見はスタジオ入りする。


「おはようございまーす!よろしくお願いします!」


衣装もヘアメイクも『YUKIMI&』バージョンは、ナチュラルカラーが基本の

ふんわりとした大人可愛い雰囲気だ。

今や大人気の雪見の登場に、スタジオ中が一瞬どよめく。

程なくして健人と当麻も、衣装に着替えてスタジオに入って来た。


「おはようございまーすっ!」

明らかに燦然と光り輝くオーラに、女性スタッフはもちろん、

男性スタッフの目さえも釘付けとなる。


「おはよっ!ゆき姉。今日も変わらず美しいねぇ!」

二週間ぶりに会った当麻が、嬉しそうに雪見に歩み寄る。


「もしかして最近翔平くんと遊んだ?なんか翔ちゃん化してる気がする!」

「うそっ!?マジでっ?おととい一緒に飲みに行った!ヤバイ!」


雪見と当麻のやりとりに、健人が「マジうけるっ!」と大笑いしてる。

気心の知れた仲良し三人組の様子は、周りで見てる者も自然と笑顔になった。


「さーて、準備が出来たから始めようかー!」

カメラマン氏の一声で、和やかな空気がぴりりと引き締まり、三人も一瞬で

写されるプロの顔つきへと変貌する。


これまで四ヶ所のツアー会場は、健人と当麻だけの写真展だったが、

今の雪見人気を受けて急遽東京会場は、『YUKIMI&』の写真プラス

カメラマン浅香雪見による健人、当麻の撮り下ろし写真も加えた

大規模な写真展の開催が決まった。

その為の新しい写真を、これから撮影するのだった。


レンズを向けられた時、雪見は仕草や表情までもがキャラクタープロデュースされた

『YUKIMI&』に成り切り、ポーズをつける事も今では恥ずかしくなくなった。


この写真が、みんなの記憶に残る最後の『YUKIMI&』の姿…。

そう改めて思うと、歌の世界に未練はないけれど、やはりどこか寂しい気もする。

どうか心の片隅にでも覚えておいてね、『YUKIMI&』のこと…。

そんな気持ちで、いつもより丁寧に撮られようと思う。


「思いっきり可愛く撮ってくださいねー!

もう一生、こんな衣装を着ることはないんだから。」


「おっ!ゆき姉、気合い入れ直してる!俺らも負けてらんないねっ!」

当麻の言葉通り、三人一緒のショットは今までで一番の出来になった。



次は雪見がカメラマンになって、健人と当麻を写す番。

三人とも衣装を替えて、再びスタジオに登場。

先ほどの大人可愛い『YUKIMI&』スタイルから一転、髪を無造作にアップにし

真っ白なシャツにカーキ色の細身のワークパンツ姿で現れた雪見は、

すでに凛々しいカメラマンの顔になっていた。


「ゆき姉って、もしかして二人いる?」

さっきまでここにいた雪見とは別人のような雪見を見て、当麻が笑いながら健人に聞く。


「かもな!あっちのゆき姉も捨てがたいけど、俺はやっぱ、こっちがいいや!」


水を得た魚のように、生き生きと仕事する雪見は自信に満ち溢れ、

プロフェッショナルな格好良さに、健人は勿論のこと誰もが惚れ惚れと見とれてた。

もうどこにも「私は猫カメラマンだから…。」と卑屈に言ってた頃の、

自信なさげな態度は見当たらない。


こんなカッコイイ人が、俺の奥さんになるんだ!

早くみんなに自慢したい!!


思わず顔がにやけて雪見に怒られた。

「ちょっと健人くんっ!今違うこと考えてたでしょ?集中してっ!」


プロフェッショナルな人とは、たとえそれが当代一のイケメン俳優な彼氏にであろうとも、

容赦なく手厳しいものなのだ。


「わー!怒られてやんのー!!」


突然聞き覚えのある声が、後ろから聞こえて振り向いた。

そこには、スタジオのドアからちょっとだけ覗かせた、翔平の顔があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ