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女子会騒動

母の病院からグラビア撮影のためにスタジオ入りした雪見は、手慣れた仕事ぶりで

予定通りに撮影をこなし無事終了。

時刻はちょうど八時過ぎ。さぁ女子会、女子会っと!


「お疲れ様でしたぁ!じゃ、お先に失礼しまーす!」


「あれ、雪見ちゃん、デートかなぁ?

ツアー帰りで疲れてるはずなのに、やったら元気だよねぇ?」

撤収作業をしていたカメラマンが、ニヤニヤしながら手を止めて雪見に声をかける。


「残念ながら女子会でーす!けど私って、ここんとこ毎日飲み過ぎかなぁ?

明日は休肝日にしないと…。」

独り言のつもりだったが、カメラマン氏から「無理無理!」と言われてしまった。


「飲み会もいいけど、大阪で一気に顔が広まったんだから、少しは周りを気にしないと!

なんせ検索ワードランキング一位って事は、今一番注目されてるって事なんだから!」


「それって、ほんとーに私のことなのかなぁ?

誰か似た名前の人と、間違えてるとかじゃなくて?どうも信用ならない。」

未だに雪見は半信半疑だった。

だがこの後すぐに、ネット社会の凄さを思い知らされる。


「じゃ、帰りまーす!お疲れ様でしたぁー!」

車は今野に乗って帰ってもらい、雪見はタクシーで本日の女子会会場へ。



「こんばんはー!遅くなってごめんなさいっ!お店の外でちょっと捕まっちゃって。」


タクシーを降りてすぐ女の子グループに囲まれた雪見は、みんなと握手したあと

大急ぎで店内へと駆け込んだ。

それにしてもこんな夜に、ひと目見てゆき姉だってわかった!って、

凄い子たちだなぁ…。


「ううん、私も今来たとこ!ごめんねぇ!こんな店しか取れなくて。

よく考えたら、巷じゃ三連休なんだもんね!

どーりで人気のお店は、どこも予約が一杯なわけだ!」


「悪かったなっ!連休なのに空いてる、こんな店で!」

そこは花屋のママの義兄の店『どんべい』だった。


店内を見渡すとテーブル席はさすがに満席で、ママはカウンターに座ってた。

「あれ?いつもの部屋空いてるんだよね?マスター、あっちでもいいでしょ?」


「俺もそう言ったんだけど、こいつがカウンターでいいって。

ほら、豚串とつくね!取りあえずビールでいいんだろ?」


「だってあっちは雪見ちゃん達の特別室でしょ?悪いもの。

それに久しぶりに、辰巳ちゃんとも飲みたいじゃない。」

ママがマスターの事を「辰巳ちゃん」と呼んだのが可笑しくて、雪見がクスクス笑ってる。


「笑うんじゃないっ!しゃーないだろっ!昔っから『辰巳ちゃん』なんだからっ!

ほらっ!由紀恵の好きな海鮮サラダ。ホタテ大盛りバージョンだ!」


「やった!さすが辰巳ちゃん!さ、食べよ食べよ!

あ、その前に乾杯がまだだった!じゃ雪見ちゃん、お疲れ様でした!」


「ママもお疲れ様でした!カンパーイ!」


「おーいっ!俺と飲みたいとか言ってたくせに、乾杯には入れてくんないわけっ!?」


「だって今日は女子会だもんねーっ!

たまには会話に参加してもいいけど、基本、女子会ですからっ!」


「お前ねぇ!そんな大声で女子会女子会って、連呼すんじゃねーよ!

一体いくつだと思ってんの?みんながこっちをジロジロ見てんだろっ!

しっかし、女子会って言葉に年齢制限無くていいのかね?」


「相変わらず失礼ねっ!昔っから辰巳ちゃんて……。」

二人のやり取りを、本当に血の繋がった仲良し兄妹みたいでいいなぁと、

雪見がビールを飲みながら、微笑ましく見ていたその時だった。


「あのー、浅香雪見さん…ですよねっ?」

突然後ろから男の人が寄ってきて、声を掛けられた。


「あ…はい、そうですけど…。」


「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」

「あ…。」

雪見が判断に困ってマスターの顔を見る。


「悪いねぇ!店内は撮影禁止なの。

あ、個室とかで自分たちだけしか写らないなら構わないんだよ!

けどホールじゃ他のお客さんも映り込んで、迷惑かかる事もあるから。

雪見ちゃんのファンなの?握手してもらいなよ。」

マスターがにこやかに、やんわりと断ってくれた。


が、その人は写真撮影を断られると「じゃ、いいです。」と、握手もせずに

あっさりと戻って行くではないか。


「なんだい!あれ。ただの冷やかしかいっ!

雪見ちゃんも、だいぶ顔が知られるようになってきたみたいだから、

変な奴には気を付けろよ!

昔は変な奴って見た目で判ったもんだけど、最近の変な奴は普通の顔してっからな!

しかもネット社会とやらで、噂話なんてあっという間に世界中に広まるってんだから、

恐ろしい世の中になっちまったもんだ。

まぁ俺なんてパソコンいじれねーから、ぜーんぜん関係ねぇ話だけど。

ほいっ!手羽先お待ちっ!」


熱々の手羽先にかぶりついたところで、またしても声をかけられた。

「ゆき姉ですよねっ!私達ファンなんです!握手してもらってもいいですかぁ?」

今度は二十代の女の子四人組だ。


「いいですよ!応援してくれてありがとうございます!」

雪見が一人ずつと握手してやると、四人はキャーキャー言いながら戻って行った。


「ごめんなさい!なんだか落ち着いて飲めないなぁ。」

雪見が隣りのママに頭を下げて詫びた。

どうやらみんなにジロジロ見られてたのは、女子会を連呼したママのせいではなく

雪見がここに居るのを気付かれての事らしい。


「凄い事じゃない!だって、こんな店にいるのにみんなが気付いてくれるんだから!

それだけ有名になったって事でしょ?嬉しいじゃないの!」


「こんな店って、何回も言うなっ!」

マスターがママを睨み付けたので、雪見が大笑いする。


いいなぁ!こういう時間。昔に戻ったみたいだ。

昔はよくここに座って、マスターや常連客仲間と馬鹿話して大笑いしたっけ。

まわりなんかひとつも気にせずに…。


少ししか顔の知れてない自分でさえ、落ち着いては飲めないのだから、

健人や当麻の生活とは、いかに不自由で心休まらない暮しなのだろう。

有名になることと引き替えに失う自由…。


私はやっぱり、自由の方がいいや!

有名になんかならなくても、いい仕事を地道に重ねて密かにみんなが認めてくれたら

少しは健人くんのお嫁さんとして、堂々としていられるかな?

そうだよね!健人くんと二人して有名人になっちゃったら、どこに行っても

目立ってしょうがない。

良かったぁ!テレビの仕事なんて断って。

ぜーんぜん有名になんかならなくたって、いいじゃん!


そう思ったら、有名に有名にって言ってた昨日までの自分がバカバカしくて、

一人で思い出し笑いをしたようだ。


「あ!今、俺らの話聞かないで、健人のこと思い出してただろ!

いやらしー顔でにやけてたぞっ!」

マスターに指摘され、雪見は慌てて否定する。


「うそだーっ!昨日なんて何にもしてないもんっ!」

「なに自分から白状してんだよっ!そんなこと聞いちゃいねーからっ!」


三人が笑っていられたのもここまでだった。


雪見が、有名にならなくていいやと思ったのも手遅れで、店の外では

大変な騒ぎがすでに始まっていた。


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