突然やって来た二人組
「申し訳ありませーん!残念ながらリハーサルの時間となりましたので
これで本日の取材は終了とさせて頂きまーす!ありがとうございましたぁ!」
ロビーの写真展ブースを背にして行われた、各社一斉の囲み取材。
タイムアップにより取材を強制終了させた今野は、最後の最後まで
粘って質問を続けようとするインタビュアーから健人と雪見を引き離し
二人に早くステージへ移動するよう、背中をグイッと押す。
「ありがとうございましたっ!」
最後にもう一度取材陣に向かって一礼したあと、雪見は逃げるようにその場を立ち去った。
「もう、緊張してめっちゃ喉渇いたぁ!またしても、なに話したか記憶に無いんだけど。」
「大丈夫、大丈夫!関西人受けする、面白い取材だったから!」
「うそっ!?どの辺がぁ?」
「ぜーんぶ!」
「うそでしょっ!?」
健人と雪見がじゃれあうように、笑いながらステージに上って行くと
そこには当麻の姿があった。
「当麻ぁ!」
「いつ着いたの?ロビーに来れば良かったのに!」
「ほんっとゴメン!申し訳ないっ!まさかこんな事になろうとは…。
俺もついさっき着いたの!で、取材に合流しようと思ったんだけど、
今から出て行くと時間が押しそうだからって、みんなに止められて。
本当に申し訳ないです!二度とこんなミスはしないから許して下さいっ!」
当麻が、健人と雪見に向かって深く深く頭を垂れる。
それに対して健人は…。
「あ、今日の取材ね、ぜんぜん当麻居なくても平気だった!
俺も居なくて良かったぐらい。」
「え?」
「ほぼ、ゆき姉に対する取材みたいになっちゃったから。ねっ!阿部さん!」
健人が笑いながら、そばで写真を写してたツアー帯同カメラマンの阿部に話しを振る。
「そーだねっ!当麻も健人も、写真展に飾ってある等身大のパネルで充分だったよ!」
大きな体を揺すって、阿部が大笑いした。
当の雪見はと言うと、そんな三人を尻目にすでにピアノの前に座ってる。
それを見た二人は、慌ててリハーサルのスタンバイをした。
そうしてバタバタと準備をして望んだ一回目のステージは、大声援の中
途切れることのないアンコールに大急ぎで二度答え、二回目準備のために
ファンにはお引き取り願った。
「あーっ!なんとか終ったぁ!疲れたぁ!」
楽屋に引き上げてきた雪見が、ドサッとソファーに腰を下ろし目をつむる。
「雪見ちゃん!一時間半後にはもう一回あるんだよ!大丈夫?」
ヘアメイクの進藤がすかさず寄ってきて、目をつむったままの雪見の化粧を直す。
「少し寝てもいい?15分だけ…。」
そう言い終わった時には、雪見はすでに眠りに落ちていた。
「あーあぁ!衣装がしわくちゃ!ま、しょーがないかぁ…。
きっと今日は、最大級に頑張ってる一日だもんね。
進藤ちゃん、30分くらい経ったら、雪見ちゃんを起こしてあげて!
私、先に健人くん達の衣装、やっつけてくるから。」
スタイリストの牧田が、あとはお願い!と言い残し、雪見の楽屋を出て行った。
トントンッ!
「はいっ!」
留守番をしてる進藤が、そっとドアを開ける。
「あっ!!」
なんとそこに立っていたのは、雪見に花を贈ったあのお笑いコンビであった!
「浅香さん、いてはりますかっ?」
「あ…いるんですけど、今ちょっと眠っちゃってて…。
でももう時間だから、起こしてきますねっ!」
そう言って進藤がドアから離れると、この二人は「かまへん!かまへん!」
と言いながら、勝手に楽屋の中へと入って来てしまった。
「ちょ、ちょっと!困りますっ!」
「シーッ!起きてしまうがなっ!うっわ、見てみ!白雪姫みたいや!」
コンビの背の低い方が背の高い相方に向かって、声を潜めて手招きする。
「どれどれっ?ホンマや!横に並んで写真撮りたいわぁ!」
と、背の高い方がそっと雪見の隣りに腰を下ろすと…。
「えっ!?えーっ!?」
気配に気付いた雪見の目がパチッと開き、この訳の解らぬ状況に驚いている。
「あー起こしてもうた!すんません!お休みのところ。
勝手に寄らしてもらいました!お花、受け取ってもらえましたか?」
「は…?あ、はいっ!頂きましたっ!ありがとうございますっ!」
雪見はガバッと立ち上がり、やっとこの状況を飲み込んで慌てふためいた。
「やだっ!私、寝てるとこ見られちゃいましたぁ!?
あの、昼間はほんっとーにお世話になりました!
なのに私、緊張しすぎてて、あんまり良く覚えてないんです。
番組に苦情とか来てませんか?
あーっ!衣装がしわくちゃ!え?今何時!?もう二回目始まっちゃう!?」
まだ半分寝ぼけてるのか、一人でドタバタ騒いでる雪見を見て、二人組が笑ってる。
「大丈夫やって!まだ一時間ありますから!落ち着いて下さいよ。
ほんま、天然なんですねぇ!思うてた通りの人や!」
「え?思ってた通り…って?」
不思議そうな顔をして雪見が聞いた。
「これ、勝手なイメージかも知らんのやけど、何かに秀でた人って、
案外それ以外の事に無頓着で、ボケかます率が多いと思うんです。
僕の中で浅香さんはそんな感じ。今日のトークもそうでした。狙い通りやった!」
「うそっ!私、そんなボケボケなトークしてたんですかぁ!?
やだ!なんで緊張してると記憶に残らないんだろ?
誰か録画してくれたかな?なに喋ったのか知りたいっ!!」
雪見はまたしてもバタバタし出す。
その様子を見て二人組は、なぜか満足げにニコニコと笑ってた。
「まぁまぁ落ち着いて!
浅香さんて、ほんまは凄いカメラマンやし歌もハンパないし、頭もめっちゃいいのに、
それ以外はおっとり天然いうか…。めちゃくちゃ、どんくさいとこもあるでしょ?」
「ま、まぁ…。けどカメラも歌も、みんなが過大評価し過ぎてます!
たまたま健人くんと親戚で、一緒に仕事したからカメラと歌が注目されて、
たまたま同じゼミの科学者が何とか賞をもらったから、私の学歴まで注目されて…。
全部誰かのお陰で仕事もらってるようなもんで、私個人にそんな実力は
無いと思ってます!」
「じゃあ、今度はあなた一人の実力で仕事してみませんか?僕らと一緒に。」
「は?はぁ?」
雪見と進藤が目をぱちくりしてるところへ、今野がノックもなしに飛び込んで来た!
「雪見ッ!凄いぞ!あのお笑いコンビからお前に仕事のオファーが…!
えっ!?本人!?」
「どーもですっ!」
二回目のライブを前にして、心を落ち着かせるどころではなくなった雪見であった。