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私でいいですか…?

「じゃ、お兄ちゃん、ゆき姉、結婚おめでとー!カンパーイ!!」


「まだ結婚じゃねーし!披露宴会場か?ここは。まぁ、いっけど。

じゃ、あざぁーっす!乾杯っ!」 「乾杯!」


つぐみの乾杯の音頭で、家族だけのサプライズな祝賀会が始まった。

テーブルいっぱいに並べられた健人の好物に、息子を思う母の深い愛が込められている。


「いっただっきまーす!うん、やっぱ最高!母さんの唐揚げ。

ねぇ、ゆき姉もこの味、作れる?」

どれどれ?と言いながら、雪見もひとつつまんでじっくり味わった。


「ほんと美味しいっ!えーと…生姜にニンニク、あと隠し味に…そう!蜂蜜かな?」


「さすが雪見ちゃん!大当たりっ!もう充分、斎藤家のお嫁さんねっ! 」

健人の母が、嬉しそうに雪見を見つめる。

雪見も、健人の母とつぐみが、心から祝福してくれてるのがとても嬉しくホッとした。


「本当はお父さんも、帰って来れたら良かったんだけど…。

電話したらすっごい喜んでたわよ!雪見ちゃんがうちの嫁になるのかぁ!って。

健人もメールぐらい入れてあげなさいよ!

あ、雪見ちゃんのお母さんにご挨拶に行く時は、ちゃんと休み取るって言ってたから。」


「早っ!もう電話しちゃったのぉ!?俺らが話す前に?

なんでそんなに、みんな行動が早いわけ?」


「だからぁ!お兄ちゃんを待ってると、ゆき姉に逃げられちゃうからっ!」

つぐみのつっこみに母が大笑いすると、その声に驚いた虎太郎が

ピョン!と膝の上から飛び降りた。


「おじさん忙しいのに、わざわざ休み取ってまで単身赴任先から来なくても!」

雪見が申し訳なさそうに、向いに座る健人の母を見る。


「なに言ってんの!大事なお嬢さんを頂くんだから、当然のことでしょ?

ねぇ、それより雪見ちゃん。本当に健人で…いいの?」


「おばさん…。」

健人の母は真剣な目をして、真っ直ぐに雪見を見つめた。

その隣りに座る健人には、ひとつも視線を移さずに…。


「この子は、私がさせなかったせいもあるけど、家事は何にも出来ないし、

こんな不規則な仕事だし、何より置かれてる状況が普通の人とは違いすぎる。

私達は離れて暮らしてるから、ただ見守るしかないけど、結婚して雪見ちゃんが

健人を隣で見てたら、つらくなる事にもいっぱい遭遇すると思うの。

苦労も掛けると思う。それでもいい?」

健人の母は、そんな思いを雪見にさせていいものかと、ずいぶん思い悩んだと言う。


「おばさん。私の方こそ、本当に私でいいですか…?」

雪見は、ずーっと心に引っかかってた思いをすべて打ち明ける。

健人と付き合い出した時から、ずっとずっと心苦しく思ってた事をすべて。


「おじいちゃんが心配してた事は、そっくりそのまま私の思いなんです。

私は健人くんより一回りも年上だし、健人くんはこんなに人気者だし、

そして…健人くんと私は血が繋がってる…。

そんな私が大事な息子の嫁になるのって…嫌じゃないですか?」

はっきり聞くのは勇気がいった。だが、今聞かなければ一生後悔する気がして、

本心を包み隠さず打ち明けた。


「雪見ちゃん。私達家族は一度だってあなたのこと、そんなふうに思ったことないわ。

それどころか、つぐみから二人が付き合ってると聞いた時、私はあなたが

一生健人を支えてくれたらどんなにいいか、って思ったの。

だからあなたに感謝こそすれ、嫌だなんて思う要因はひとつもない。

それに、健人があなたを選んだのよ。

自分の息子ながら、見る目だけは確かだなって誉めてやりたい。」

そう言いながらにっこり笑い、初めて視線を健人に向けた。


「見る目だけは、ってひどくね?」

健人も笑いながら視線を雪見に向ける。


「こんな家族だけどさ、みんなゆき姉のことが大好きだから。

心配なんて何にもしなくていいよ。みんながゆき姉を支えてくれる。」


「そうだよ!もう、ゆき姉以外のお兄ちゃんのお嫁さんなんて、考えられない!

きっとゆき姉に振られたらずーっと引きずって、この人一生立ち直れなかったかも。

良かった!良かった!プロポーズ受けてもらえて!」


「なっ、なにぃ〜!?人の心配する前に自分はどうなんだっつーの!

そういや、受験はどうだったわけ?まさか失敗したんじゃないだろーな?」


「お兄ちゃんじゃあるまいし、私がそんなヘマすると思う?

ちゃんと夢は叶えてみせるよ!お兄ちゃんに負けてなんかいられない。

自分の夢は自分の手で掴むもんでしょ?そうだよね?ゆき姉。」

つぐみが、希望に満ち溢れるキラキラとした瞳で雪見を見た。

以前つぐみに言われた事がある。ゆき姉は私の、理想の女性像だ、と。


「私、絶対看護師になってみせるから!

そしてゆき姉みたいに何でも出来る、自立した女になるっ!」


「つぐみちゃん。あんまり自立し過ぎると、私みたいに行き遅れるから程々にねっ!」

そう笑いながら、頼もしい妹にエールを送った。



私、本当にこの家族の一員になれるんだ…。

本当に健人くんと結婚出来るの?私?

夢?…じゃないよね?本当なんだ!


今、やっとそれを実感でき、雪見は溢れる喜びを隠しきれずにいる。

珍しくはしゃぎ、つぐみのリクエストで生歌まで披露して、素直に喜びを表した。

それを健人が愛しそうに目で追っては微笑んでる。



夜も更け、楽しかった祝宴もお開きとなった。

危うく忘れるところだったブログを、寝る前に二人揃って更新する。


何があったかは秘密だけど

今日もすっげーいい一日でした!

明日もみんなが幸せでありますように。

おやすみなさい!


  斎藤健人より     




一夜明け、早朝六時。

昨夜の幸せな余韻に浸ってる時間もなく、慌ただしく東京へ戻る準備を完了させた。


「ちぃばあちゃんに、お礼を言って帰らなきゃね!」


仏壇の前に健人と雪見が並んで座り、線香を上げて手を合わす。

二人にとっての縁結びの神様は、間違いなくちぃばあちゃんだ。

ありがとうね!これからもよろしく!と感謝の気持ちを心で伝えた。




だが、ご先祖さまは祝福してくれても、運命の神様はそう簡単に二人の結婚を

認めてはくれないらしい。


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