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家族からの祝福

母との電話を切った後、やはりなるべく早く母に会い、みずきの言った言葉の意味を

直接確かめなければと思った。


電話の様子だと、普段と何一つ変わりなく仕事もしてるようだし、何かを

思い悩んでるふうでもない。

これと言って気になる点は無かったのだが、たったひとつ気がかりがあった。

それは、みずきの『透視』が今まで外れたためしがないと言うことだ。


しかし、肝心の母が「斎藤家に挨拶するまでは、家には来るな!」と

怒りまくるので、心配な気持ちをグッとこらえて健人とスケジュールを調整し、

なるべく早くに健人の実家へ出向くことにした。



「母さんに、健人くんちにまだ報告に行ってないって話したら、そりゃもう凄い剣幕で、

こっぴどく叱られたんだから!順番が違うだろ!って。

まさか、おじいちゃんから電話が行くとはなぁ。

ひっさびさに親に説教されたわ、いい年して。」


「なんかさ、叱られた割にはずいぶん嬉しそうじゃん?」


「えっ?そう?」

雪見は笑いながら、健人と自分のグラスに二杯目のワインを満たした。



札幌から戻り、その足でドラマの現場に直行した健人は、やっと十一時過ぎ帰宅した。

昨日のライブさえも夢だったかのような、慌ただしい一日。

疲れた身体と心を癒やすのは、こんないつもの穏やかな時間だった。

健人は、非日常の世界からゆっくり自分を取り戻しながら、目の前の人を見つめる。


『どんなに疲れ切って帰っても、この人の笑顔と美味しい料理が俺を修復してくれる。

結婚したら、そのうちそこに子供が加わって、もっと楽しい毎日になるのかな?

うーん、でももうちょっと、二人だけの時間を楽しみたいかな?』

そんなことを想像したら、勝手に頬が緩んでしまった。


「やだ、なに?今なんかニヤケてたよ!

また変なこと思い出してたでしょ!昨日の事とか。」


「なに、昨日の事って!自分が思い出したんじゃないの?路チューの事とか。」


「ひとっつも思い出してなんかないからっ!!」


二人で笑いながら、同時に思った。

やっぱりこの人と、一生笑って暮らしていきたい。

そのためにも早くお互いの親に挨拶に行き、この思いを現実のものに近づけよう、と。


翌日、二人のスケジュールを調整すると、明後日の夜なら時間が作れると判明。

早速健人が空き時間に実家に電話して、話があるから明後日帰ると緊張しながら伝えた。




そして迎えた当日、1月29日午後八時。


「来たぁーっ!おかーさーん!お兄ちゃん達、帰って来たよぉー!!」

カーテンの外をこっそり覗き、二人の到着を今か今かと待ってたつぐみが、

バタバタとキッチンに駆け込む。


「あら、もう来ちゃった?じゃ、取りあえずこれ運んで!あとビールもお願いねっ!」

健人の母がニコニコしながら、手際よく最後の料理の仕上げに取りかかる。

つぐみも大慌てでテーブルにご馳走を並べてると、ガチャリ!とドアが開く音がして、

健人と雪見が居間へと入って来た。


「ただいまぁ!…って、なにっ?このご馳走!?」


「お帰りっ!割と早かったじゃん!またゆき姉が飛ばしたんでしょ?」

つぐみが嬉しそうに二人に目を向ける。


「それは当たりだけど、またずいぶん母さん、張り切ってんじゃね?

まぁ、正月帰れなかった分のご馳走だろうけど…。」

そこへ母が、最後の一皿を手にしてキッチンから出てきた。


「お帰りー!雪見ちゃんもいらっしゃい!運転疲れたでしょ?

いっつも健人を乗せてくれてありがとねっ!さ、早く座って!お祝い始めよう!」


「えっ!?お…祝い?」

健人と雪見はビックリして顔を見合わせた。まだ一言も何も言ってないのに…。


「そう!あんた達の結婚祝い!決めたんでしょ?二人とも。

おめでとう!良かったねっ!!」


「どーして知ってんのっ!?なんでぇ!?」


驚き顔の二人組と、ニコニコ顔の二人組。

健人の母は、以前からつぐみに逐一報告を聞かされてたらしいのだが、

なんと決定打は、雪見の祖父からもたらされたと言うのだ。


「ええーっ!!うちのおじいちゃんが電話したんですかぁ!?この家にぃ!?」


祖父は、健人の両親に直接会って挨拶をする事は叶わないだろうから、

せめて電話で挨拶したいと、雪見の母から住所と電話番号を聞き出したそうだ。

雪見の母には、雪見達が挨拶に出向いて正式に決まるまでは電話しないと言ったようだが、

実は、二人の結婚を認めてやって欲しいと直訴するために、番号を聞き出したらしい。


「そうなの!私達が反対すると思ってたみたいよ。

年が一回りも違うし、健人は人気俳優さんだから、って。

それに、はとこ同士だから、ともおっしゃってたわね。」


「おじいちゃんがそんな事を…。」


「そりゃ、いきなりのお電話だったから驚きはしたけど、でもね…。

結婚するって聞いた時は嬉しかった。本当に嬉しかった!

まぁ、つぐみから、多分そうなるだろうとは聞いてたんで、いよいよか!って感じ?」

健人の母は、雪見に向かってにっこりと微笑んだ。


「ごめんなさいっ!ほんとは一番最初にここへ来なくちゃいけなかったのに、

順番がグチャグチャになっちゃって、本当にごめんなさい!!」

雪見は何度も何度も謝った。

またしてもおじいちゃんのお陰で、思わぬ展開になってしまった、と少なからず恨んだ。


「ゆき姉!俺が悪いんだって!先に電話で報告しとけば良かったんだ。

ゆき姉のじいちゃんは何にも悪くないんだから、絶対に責めちゃダメだよ!」

健人が、泣きそうな顔をして母に頭を下げる雪見に念を押す。


「そうよ!ゆき姉もおじいちゃんも、なーんにも悪くない!

悪いのは、とっとと報告してこないお兄ちゃんなんだからっ!

いつまでも石橋叩いてると、渡らないうちにゆき姉が逃げちゃったらどうすんのよ!

ごめんねぇ、ゆき姉!こんな行動力のない優柔不断な兄ですが、どうかよろしく!

っつーか、おめでとう!めっちゃ嬉しいよ、私!

ゆき姉が本当のお姉ちゃんになるんだぁ〜!やったぁー!!」


つぐみに抱き付かれ、やっと雪見にも笑顔が溢れた。

本人達の口から、まだ一言も結婚のケの字も出ないまま、すでに家中が

おめでたい空気に包まれている。


盆と正月がいっぺんに来たかのようなご馳走たちは、無事箸を付けてもらえると安堵した。


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