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ライブなのに飲み会?

ライブのちょうど折り返し地点。

ホールの中は、札幌中の雪を解かすことができそうなくらいの熱気が充満していた。


すでに、三人で歌った曲が三曲、それぞれソロで歌った曲が二曲づつの

計九曲を歌い切り、ここらで小休止。

ツアー前から世間で話題を呼んだ、ブレイクタイムがやってきた。

なんと会場全体でお酒を飲みながらの、トークと歌のコーナーである。



ライブでやって欲しい事をアンケート調査したところ、リクエスト第一位は

『ほろよいトーク』であった。

三人が飲みながらお喋りしてる姿を、生で見てみたい!という声が、

圧倒的に多かったのだ。


当麻のラジオ番組の、今や名物コーナーでもある『ほろよいトーク』。

月に一度、ゲストと当麻がお酒を飲みながらお喋りを楽しむコーナーなのだが、

元々は健人と雪見がゲストの時にやった『予測不能の飲み友パーティー』

という企画が大好評だったため、のちにタイトルを替え定番コーナーへと昇格させた。


それ以外にも、デビュー発表記者会見の席上でも酒を振る舞うなど、

この三人には、すっかりお酒にまつわるイメージが定着してる。

まぁそのお陰で三人揃ってチューハイのCMに起用され、オンエア開始の

新年早々から驚異的な売り上げらしいし、そのビール会社が今回のツアーの

メインスポンサーにもなってくれたのだが。



今回はステージ上をカラオケボックスに見立て、テーブルとソファー、

それにカラオケセットが用意された。

このコーナーは、それぞれの会場で違うシチュエーションの飲み会シーンが

再現される事になっている。

そしてもうひとつ。そこで歌われる歌だけは、当日その場で本人が選曲するので、

何が歌われるのかは誰もわからない、シークレットなお楽しみコーナーでもある。


三人がソファーに腰掛けると同時に、黒服の店員に扮したスタッフが、

飲み物のオーダーを取りに来た。


「俺、ビール!」当麻が真っ先に声を上げる。

それに続いて健人と雪見も、まずはビール!と、結局三人とも同じ物を注文した。


「ちょっとぉ!三人でチューハイのCMやり始めたばっかなのに、誰も

チューハイ頼まないのはまずいでしょ!」

当麻が健人と雪見をにらむ。


「自分だってビール頼んだくせに!大丈夫!すぐ次を頼むから。

あ!店員さーん!面倒くさいから、チューハイも全種類くださーい!」

雪見の声に、ステージ袖にいる今野やスタッフがギョッとした。


「おいっ!まさか雪見のやつ、本当に全種類飲むつもりじゃないだろうな!?

何種類あると思ってんだっ!」

今野が慌ててる。


「うーん、ゆき姉ならあり得るかも。気配りの人だから、スポンサーさんに

サービスする気がする。」

隣でみずきがうなずきながら、ニヤリと笑った。


会場のファンには、スポンサー提供の缶チューハイかソフトドリンクを

入場の際に手渡してある。

どうせなら、健人たちと一緒に飲んでる気分を味わってもらおう!という

雪見の粋な提案だった。

それに賛同したスポンサーも太っ腹である。

まぁ、これだけの人数が、これからお得意様になると思えば安いものかも知れないが。


「みんな準備はいい?じゃ、お疲れ様でしたっ!カンパーイ!」


「カンパーイ!!」


健人の乾杯コールに、会場中のファンが声を一つにして「乾杯!」と応じ、

手にした缶を高々と掲げる。

すでにぬるくなってしまったドリンクも、大好きなアイドルと一緒に飲んでると思えば、

それは最高に美味しい一杯に違いない。

しかも、みなオーバーヒート寸前で喉がカラカラだった。


「うんめーっ!!生き返ったぁ!もう喉が乾いて死ぬかと思った!」

当麻がビールをゴクリゴクリと喉を鳴らして飲み、はあぁぁ…と一息ついた。

健人と雪見も同様に、ビールを一気に飲み干した。


「うーん、美味しいっ!けど申し訳ないな!私達だけ冷たいの飲んで。

この熱気だもん、みんなのはホットドリンクになってるんでしょ?

ごめんねー!家に帰ったら冷たくて美味しいやつ、思う存分飲んでねっ!」

雪見が客席に目をやって、申し訳なさそうに肩をすくめる。


「あ!だけどもちろん未成年者のお酒はダメだよ!俺と約束ねっ!」

健人が、会場中に散らばってるであろう未成年のファンに向かって、

諭すように優しく言うと、あちこちから「はーい!」と手が上がった。


「でもさ、俺らが全国ツアーだなんて、夢みたいな話だよね!

だってつい最近まで俺と健人はただの俳優で、ゆき姉なんか猫カメラマンだったんだよ?」


「ゆき姉なんか、って何よ!ゆき姉なんかって!まぁその通りだけど。

私は今も、これは夢だと思ってる。だからあんまり緊張してないのかも。

現実だってわかったら、怖くて歌えないもん!」

そう言いながら雪見は、早くも次のチューハイをプシュッと開けた。

いつまでも夢の中にいるために。


「ゆき姉、ほどほどにしといてね!まだライブは半分残ってんだから。

そー言えば、みんなロビーの写真展見てくれた?俺たちメチャ格好良くね?

いや、言い方間違えた!格好良く撮れてると思わない?

やっぱね、ゆき姉は凄いカメラマンなんだなーって、改めて思った。」


健人はトークの端々に、さりげなく雪見を褒め称える言葉を口にした。

実際そう思ってるのは勿論だが、もっとみんなに雪見の才能を認めてもらうために。


『引退までにもっと有名になれ!誰も文句の付けようがない健人の嫁さんになれ!』


雪見は今、今野に言われた言葉の通りになれるよう、必死に頑張っている。

その手助けをしてやりたいと思った。

一人でも多くの人に、雪見を好きになって欲しかった。


だが本心は、誰にも雪見のこと、知ってもらいたくなど無いのだが…。



矛盾する気持ちと戦いながら健人は、雪見の歌う姿をただぼんやりと見つめてた。


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