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懐かしい記憶

川の淵を歩きながら家へ戻る途中、小学二、三年生ぐらいの男の子四人とすれ違った。

手にはバケツと網を持っている。

すれ違いざまバケツを覗くと、中には何匹かの小魚と小さな川蟹が入ってた。


「うわ!まだいるんだ、川蟹。もういなくなったかと思った。」


健人が突然大声を出したので、その四人組はびっくりして立ち止まった。


「ねぇ。これ、どの辺で捕ったの?」


健人がサングラスを外しながら、バケツの中をじっと見る。


「あっちの、石がたくさんあるところ。

水溜まりみたいになってるから捕りやすいんだ。」


「へぇー。俺も昔、毎日友達と蟹捕りに来てたなぁ。

でも俺たちが全部捕り尽くして、もういなくなったかと思った。」


四人組は「そんなこと、あるわけないじゃん!」と大笑い。

私も一緒になって笑ってた。


「ここは何にも変わってないんだなぁ…。」


健人の呟きが、なぜか胸にギュンと響いた。



と、その時。

ひとりの男の子が「あれっ?もしかして、斎藤健人?」と健人の顔を下から覗き込んだ。


『しまった!健人くん、サングラス外してるじゃん!』


私は内心焦りまくり!

「あれぇ?やっぱり似てる?そっくりでしょ、このお兄ちゃん。」と慌ててその場を取り繕った。


が、健人は私の声を遮るように「そうだよ。俺のこと知ってる?」と子供たちに話しかけた。


「知ってる、知ってる!俺、ドラマ見てる!」


「うちのお母さんもお姉ちゃんも、キャーキャー言いながら見てる!

うるさくてしょーがない!」


「ねぇねぇ、なんで斎藤健人がここにいるの?」


みんなが口々に聞いてくる。


「俺んち、この近くだから。たぶん、みんなの小学校の先輩だよ。」


「へぇーっ!そうなの?すげーや!俺たちの先輩だって!

こんなすごい先輩いたなんて、知らなかった!」


「俺も!」


「今度自慢しよーっと!斎藤健人は俺たちの先輩なんだぞ!って。」


みんなが嬉しそうに話すのを見て、健人が微笑んでる。

そんな健人を見て、私は少しホッとした。



「じゃあ、握手!家に帰ったら、ちゃんと宿題やるんだぞ。」


「もう全部、終わってるもん!健人こそ、ドラマ頑張れよ!」


「よっしゃ頑張る(笑) じゃ、またな!お母さんによろしく!」


そう言いながら一人一人と握手をし、手を振って別れを告げた。




「ねぇねぇ。お母さんによろしく!は、まずいんじゃない?

絶対健人くんち、捜されるって。」


「いいよ、別に。指名手配されてる訳じゃないし。」


「そりゃそうだけど…。」



そんなことを話しながら歩いていると、後ろの方から「けんとー!」と大声で呼ぶ声がした。


二人同時に振り返って見ると、さっきの子供たちが駆け寄って来た。

そして手にしたバケツを健人の前に差し出し「これ、あげる!握手のお礼!」と言った。


「え?せっかく捕ったのに、俺にくれんの?」


「うん、いいよ!懐かしいんでしょ? 俺たち毎日、捕りに来れるから。」


「やった!じゃあ、もらっとく。ありがとな!

絶滅しないように、ほどほどに捕っとけよ!」


健人が笑顔でバケツを受け取り、また子供たちは戻って行った。




「もらっちゃった ♪」


おもちゃをもらって喜んでる子供みたい。

でも本当に嬉しかったのは、あの子たちがくれた懐かしい思い出だよね、きっと…。


「なんか、物欲しそうな顔してたんじゃない?」


「そうかなぁ。よし!昔みたいに、つぐみを驚かせてやるか!」


何かを企んだ健人の顔は、まるで小学生の悪ガキだった。





「ただいまぁ!あー暑かった。汗びっしょり。

俺、シャワーしてくるわ。 あ、つぐみ、おみやげ。」


「なになに、お兄ちゃん?」


「ほら、リアルバッチ!」


そう言いながら健人が手の中に隠し持ってた川蟹を、つぐみの肩にしがみつかせたから、さぁ大変!


「いやぁぁあああーーーっっ!!!

やだやだ!早く取って取ってぇえーーーー!!!」


つぐみの大絶叫が家中に響き渡った。


健人は笑いながら浴室へと消えるし、健人の母もキッチンで大笑いしてるだけ。

誰も取ってあげる様子がなかったので、私が蟹を外してやった。



「もーう!お兄ちゃんのバカっ!!あとでぶん殴ってやる!!」


「まだ川蟹っていたんだねぇ。」


健人の母が、キッチンから冷たい飲み物を運んできた。


「懐かしいね。あんた昔、今と同じこと、しょっちゅう兄ちゃんにされて泣いてたもんね (笑)」


「ほんっと!兄貴のくせに、いつまでもガキなんだから!」


遠い昔の健人を思い出し、すでにあれから二十年ほども経ってしまったかのような気がしてた。





「じゃあ、そろそろパーティーの準備を始めようか。

雪見ちゃん、手伝ってくれる?」


「もちろん!今日はめちゃくちゃ期待して来ました。

健人くんからチゲ鍋するって聞いた時から、楽しみで楽しみで!

おばさん。私にもう一度、キムチの美味しくなるコツ教えて下さい。」


「あら、雪見ちゃんもキムチ漬けるの?若いのに偉いわ!」


「でも、おばさんの味にはなかなか近づけなくて。

だから今日は、秘密を伝授してもらいに来たんです。

キムチって、パワーが出るでしょ?疲労回復にもいいし。

おばさんと同じ味が出せたら、健人くんにいつでも食べさせてあげられる。」


「ありがとね。健人のこと、気遣ってくれて。

忙しそうだから身体のことがいつも心配なんだけど、なかなか帰って来れないし、私もしょっちゅうは行ってやれないし。

だから雪見ちゃんが今、健人のそばにいてくれて本当に安心してるの。

お父さんも、雪見ちゃんによろしく伝えてくれって、さっき電話がきたのよ。」


「おじさんもお元気ですか? 単身赴任からはいつ戻るの?

おじさんにこそ、ご無沙汰しちゃってるなぁ。」


「元気よ元気!あと二ヶ月は戻って来れないらしいけど、一人暮らしを満喫してるみたいよ。

じゃあ、始めようか。」




健人の母と私は、二人仲良く並んでキッチンに立ち、手際よく次々と夜の宴の準備を進めていった。


その後ろ姿は、まるで親子か嫁姑。

健人はシャワーから上がって牛乳を飲みながら、楽しそうな雪見の横顔を眩しげに見てる。



さぁ、お待ちかね。

チゲ鍋パーティーの始まり始まり。


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