表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/443

雪見はどこへ?

「ハァハァ…当麻っ、ゆき姉はっ!?」

息せき切って控え室に駆け込んだ健人が、ケータイを手にして立ってた当麻に早口で聞いた。


「ゆき姉?俺らがここ来た時には、もういなかったけど。

なんか、みずきがゆき姉を捜してくる!って慌てて出てったから、俺も電話してみたけど

ぜんぜん繋がらないんだよね。

一体どこ行っちゃったんだろ、ゆき姉。」

なんで健人もみずきもそんなに慌ててんの?と言ったふうに、当麻だけ平然としている。


その時、みずきが一枚の紙切れを持って控え室に入って来た。

「健人、見て!スタッフさんがゆき姉から、メモを預かったって!」



みんな、お疲れ様!

ライブ、成功して良かったねっ!

急用を思い出したので悪いけど先に出ます。

打ち上げには間に合うと思うけど…。

少し元気を充電してから行くねっ。


         from 雪見



「急用って何なんだよ…。

どうして俺に黙って行っちゃうんだよ…。」


健人は言いようのない不安に襲われていた。

雪見がこのままどこかへ、いなくなってしまうのではないか…。

以前にも感じたことのある感覚が再び蘇り、恐怖で心が震え出す。


だが当麻は…。

「まぁ、打ち上げには間に合うって書いてあんだから、現地集合でいいんじゃないの?

あ、ほら!マンションに車置きに帰ったのかも知れないし。

で、打ち上げって十時からだっけ?

俺とみずきも招待されたけど、今日は遠慮しとくわ。

初めてのクリスマスだから、レストラン予約してあるんだ。」

健人の気持ちも知らず、ウキウキ顔で言う。

それを、健人の心を読んでしまったみずきが叱責した。


「当麻っ!少しは人の気持ちを考えなさいよっ!」

訳が解らず憮然としてる当麻や、健人、みずきの元に今野が飛び込んで来る。


「雪見が…さっき一人で外のマスコミに応じたらしい。」


「ええっ!!」 三人が同時に大声を上げた。


「自分から大勢集まったマスコミの輪の中に、入ったそうだ。俺が迂闊だったよ。

ステージから戻って来る健人を写真に撮りたいから、車にカメラを取りに行くって

控え室を出て行ったんだ。

地下駐車場は警備員がマスコミを閉め出したし、心配はないだろうって思ってたが

ここに雪見は戻って来なかった。

てっきりステージ裏に、真っ直ぐ向かったんだとばかり思ってたんだが…。

マスコミ対応してた外の警備員から連絡入って、雪見が囲まれて少し喋った後、

すぐに車で出て行ったって…。」

マネージャーとしての痛恨のミスを、今野は悔やんでいた。


「それでゆき姉は、何てマスコミにっ!?」

健人が目を見開いて今野に詰め寄った。


「健人との仲を全面否定して、健人のファンを悲しませた事を謝罪したそうだ…。」


今野の言葉に皆が絶句した。

うつむいてしまった健人に対して、掛ける言葉をそれぞれが探していたが、

簡単には見つけられそうもなかった。


「はぁぁ…。マスコミなんて…もうどうでもいいや…。」

しばらくの沈黙の後、健人はそう言いながら宙に視線を泳がせる。


「どこ行ったんだろ、ゆき姉…。探さなきゃ…。」

健人がフラフラと控え室を出て行こうとするのを、当麻たちが止めた。


「ダメだって!当てもなく捜したって見つかんないよ…。

そうだ!みずきがいるじゃん!」

当麻がみずきの能力を思い出す。だが、今野が居ては都合が悪かった。


「あっ、あー今野さん!俺たち、そろそろここ出なきゃなんないんだけど、

外の様子がどうなってんのか、悪いけど見て来てもらえますか?

俺たちまでマスコミに囲まれると、また厄介だから。

で、タクシーを呼んでおいてもらえると助かるんだけど…。」

当麻が今野を外すために一芝居打つ。


「よし、わかった!地下駐車場にタクシーを呼んでおくよ。

今日は済まなかったな、二人とも!お陰で盛大なライブになったよ。

みずきさんの事務所には、うちの常務がお詫びの電話を入れたそうだ。

事務所の許可も取らないで、いきなりライブに引っ張り出したから。

そしたら宇都宮さんの葬儀で雪見に世話になったから、恩返しができて良かったと

言ってくれたらしい。そう言ってもらえて助かったよ!

ほんと、頼むから俺の寿命を縮めないでくれよな、健人!

じゃ、ちょっと様子を見て来る。タクシーが来たら連絡するからっ。」

そう言って今野は、バタバタと控え室を出て行った。


それを見届け当麻らは、みずきに雪見の居場所を透視させるため、口をつぐんで静かにする。

みずきが目を閉じ意識を集中し始めると、健人の心臓はこれでもかというほど早く動いた。


「あ…猫だ…。」 目を閉じたままのみずきが、ぽつりと言う。


「猫?ゆき姉、家に帰ってるの?」

健人がもどかしそうに早口で聞くと、当麻が「シッ!」と人差し指を口に当てた。


「違う…。あ!もしかして…うちの店だ!」


「えっ!?『秘密の猫かふぇ』にいるのっ?」

みずきが新オーナーになった猫かふぇは、昨日のクリスマスイヴに新装オープン

したばかりであった。


「昨日写真集の記者会見した書店が、行ってみたら猫かふぇの入ったビルだったんだ!

ゆき姉と二人で、こんな偶然ってあるんだねって驚いた。

そんでその時にゆき姉が、お祝いのお花を届けに来なくちゃ!って…。

俺、行ってくる!ゆき姉を迎えに行かなきゃ!」

衣装も着替えず急いで出ようとした健人を、当麻が慌てて止めた。


「その格好じゃマズイって!マスコミがウロウロしてるだろっ!

猫かふぇもバレちゃまずいんだから、完璧に変装して出ないと!」


「そうよ、落ち着いて!今私が店に電話して、ゆき姉を足止めしておくように言うから。

だから着替えて準備して!」

そう健人を諭すと、みずきは素早くケータイを取り出し電話する。


「あ、支配人?みずきです、お疲れ様!

今そっちにお客様で、浅香雪見さんが行ってると思うんだけど…。

そう!先代のお葬式で歌ってくれた人!え?オーナー室に…?

わかったわ。じゃあそのままそこに留めておいて。私達もすぐに行くから!

あ、私達が向かってることは言っちゃダメよ!もし店を出ようとしても、

なんとか誤魔化して引き留めておいて!お願いねっ!」



雪見は綺麗な花を抱え、これをオーナー室に飾らせてくれないかと言って訪れたらしい。


改装した店の中でただ一ヶ所、何も手を入れなかった場所。

宇都宮勇治先代オーナーが生きてた時のまま、まだ気配さえ感じるようなその場所で

雪見は自分と、いや宇都宮と対峙していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ