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サプライズなプレゼント

健人も雪見も一曲ずつ歌った事で、やっとライブを楽しむ余裕が生まれてきた。

トークも話が広がり、写真集撮影の裏話や二人がそれぞれ実家で飼ってる猫の話、

はたまた健人が子供の頃に雪見に受けた、自転車や逆上がりの鬼特訓の話等々、

大いにファンを湧かせ喜ばせる。


「じゃ、ここらで二曲目の歌にいこうか?」


健人がトークの区切りのいいところで雪見に振ると、会場からは一斉に

「ええーっ!!」と声が上がる。

みんな、歌が一曲終るごとに近づくライブのエンディングを、一秒でも長く

引き延ばしたいのだ。


「大丈夫!大丈夫!せっかくこんなに集まってくれたのに、簡単には終らせないよ!

もっと楽しい時間を用意してあるんで、それはあとのお楽しみ!

じゃ、お次はゆき姉の弾き語りにいっちゃう?」


「うん、そうしよっかな。緊張することは早くに終らせよう!」

雪見はそう言うとグランドピアノ前に移動し、ストンと椅子に腰掛ける。

健人は約束通り、ピアノの向こう側に立って雪見を見守ってた。


「じゃ次は私が大好きな曲で、一年中カラオケの一曲目に歌う歌なの。

今の時期にはピッタリの曲だから、多分みなさんもよく歌ってると思います。

あのね、緊張してるから、指がスムーズに動いてくれるか心配なんだけど…。

では、中島美嘉さんの『雪の華』です、聞いて下さい。」


深呼吸を一つして鍵盤に指を乗せ、少し不安げに健人の顔を見る。

すると健人は「大丈夫だよ。俺がいるから。」と小声でささやき、にっこり微笑んで

雪見を安心させた。


たったそれだけの言葉と笑顔で、心の震えがおさまり強くなれる。

そう、誰のためでもなく、健人のためにこの歌を捧げよう。


雪見の細く長い指が、静かにピアノを奏で始める。

オルゴールの音色を思わせる旋律の後、スッと雪見が歌い出すと一瞬会場がざわめき、

それはすぐに静寂へと変化した。


誰かが言ってた事がある。

雪見の歌声は、聞く者がその景色の中に瞬間移動させられてしまうと。

ここにいる誰もの瞳の中に空から舞い落ちる雪が見え、寄り添い歩く恋人同士が映る。

そしていつしか、相手を強く思う気持ちに胸が一杯になり、涙が溢れてくるのだった。



「ふぅぅ…。」


雪見が完璧に弾き語り、息を吐き切って現実の世界に戻って来た。

それから観客たちも我に返り、涙を拭うのも忘れて雪見に大歓声を送る。

健人も当麻もみずきも…。


嬉しそうに会場に頭を下げる雪見。

鳴りやまない拍手と歓声の中、改めて雪見の凄さを健人は思い知る。

なのに、あとたったの三ヶ月で、この才能を封印してしまうなんて…。

健人の思いは複雑だった。


「どうだった?上手く弾けてたかな?自分じゃ弾いてた気がしないんだけど…。」

考え事をしてた健人に、上気した笑顔で雪見が聞いた。


「あ、あぁ!バッチリ完璧!いい歌だったよ。

こんな大勢の前だから、泣かないように頑張ってたのに、やっぱり泣かされた!」


「えへっ!だってそれを狙って、いつもより心を込めて歌ったんだもん!

私からみんなへのプレゼント!斎藤健人の生涙なんて、めっちゃレアなプレゼントでしょ?」

会場中から「ゆきねぇ、最高!」との声援が乱れ飛ぶ。


「えーっ!?俺、まんまとしてやられたってわけ?ゆき姉には太刀打ちできないや。

ねぇ!じゃそろそろクリスマスプレゼント、みんなにあげちゃおっか。

どっかに消えて無くなると困るから。」


「そうだね、それがいいかも。プロデューサーさんが、好きにやっていいって

言ったんだから、いいんだよねっ!」

思わせぶりに雪見がニコッと笑って健人を見た。


二人のやり取りを、ステージ横で聞いてた今野と当麻らは、「あいつら、何言ってんだ?」

と怪しんでる。


「リハーサルじゃ雪見の歌のすぐ後は、健人が歌う事になってたのに…。

さては、またなんか企んでるな!」

健人と雪見のやりそうなことと言えば…。

今野が思い付いたように、じーっと当麻の顔を見た。


「な、なんですかっ!?お、俺ぇ?まっさかぁ!健人に何にも言われてないし。」

当麻が笑いながら「無い無いっ!」と首を横に振ったところで、健人の声が聞こえてきた。


「じゃ、俺たちからのクリスマスビッグプレゼント!みんな驚いてねっ!

三ツ橋当麻と華浦みずきです!どうぞーっ!!」

予想もしてなかった健人のMCに、会場中から悲鳴にも似た歓声が湧き起こる。


「ど、どうぞ!って…。なんか俺らの名前呼んだみたいだけど…。」

ステージ横では当麻とみずきが、呆気にとられて顔を見合わせてる。


「ほらなっ!あいつらの考えそうな事だよ!観念して行ってこいっ!」

今野が二人を促すように、背中を押した。


「行って来い!ってマジで?俺は同じ事務所だからいいにしても、みずきが…。」

当麻が戸惑ってみずきを見る。

が、当のみずきは、当麻の心配をよそにはしゃいでた。


「すっごく楽しそうじゃない!せっかくゲストにしてくれたんだから、行かなくちゃっ!

事務所なんて私がどうにかするからさ!ほらっ、行くよっ!!」


こんな時、女はつくづく度胸があると当麻は感心する。

みずきに手を引っ張られながらステージに出て行くと、会場を埋め尽くした

三千五百人の大絶叫がこだました。


健人からマイクを手渡された当麻とみずきは、雪見も交えて握手をかわす。

「やられたよ!お前らには負けるわ!」と当麻が健人の肩をパシッ!と叩くと

「そーゆーことで、ひとつよろしく!」と健人が当麻の肩を叩き返した。


「じゃ改めて紹介します!俺とゆき姉の親友で、たまたま今日遊びに来てくれた

三ツ橋当麻と華浦みずきですっ!拍手ぅ!!」


「どうもー!わけわかんないうちに、勝手にクリスマスプレゼントにされてた二人でーす!

けど、よく考えたら俺も健人の写真集には写ってるわけで、ここにいてもおかしくないか!」


会場に向かって笑顔で手を振る二人を、三千五百人もの人たちが温かな拍手と

「おめでとう!」の大合唱で迎えてくれる。



当麻とみずきに向けられた「おめでとう!」のシャワーを、その隣で一緒に浴びてた雪見は、

きっと少し複雑な笑顔を会場に向けてたことだろう。


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