待ちに待った休日!
今日は木曜日。
本当に久しぶりの、健人の完全休養日である。
ここ何ヵ月間か、丸一日オフという日は無かったので、とにかくこの日を待ちわびてた。
雪見が迎えに来るのは十時半頃。
まだ時間があるので、健人は日ごろの睡眠不足を解消すべく、ベッドでうつらうつら。ごろごろごろ。
ゆき姉が俺んち泊まるなんて、何年ぶりだろ。
昼飯食ったら、昔よく遊びに行った河原の公園にでも散歩しようか。俺も東京出てから行ってないし。
もう変わっちゃったかな。懐かしいな。
実家に着いてからの事に思いを巡らすとワクワクしてきて、それ以上は寝てられなくなった。
ベッドからぴょんと飛び起き、ブラインドを上げる。
夏の終わりのギラギラした太陽が、健人の姿をすかさず捕らえた。
うわぁ、今日も暑くなりそうだ。
健人は大きく伸びを一度して、バスルームへと歩き出した。
一方、私は朝早くに起きて、真由子にパソコンからメールを送ってる。
朝のメールチェックをしてると、真由子からメールが届いていて、急な出張で今ニューヨークにいるという。
一体あのあと、どうなったんだ!と相当なおかんむり。
私は、しまった!と頭を抱えた。
日曜日、真由子の家で作戦会議中に突然家を飛び出してから一度メールをしただけで、その後の忙しさにかまけて、まだ詳しい話をしてなかったのだ。
あー、またやっちゃった!
連絡しようしようとは思ってたんだけど…。
私は大急ぎで、あれからのことを羅列した。
真由子の家を出てから、健人の事務所へ行ったこと。
健人の写真集のカメラマンにしてほしいと自分を売り込んだこと。
そして今は健人専属カメラマンとして、毎日一緒に仕事してること。
今日はこれから健人と一緒に、健人の実家へ行ってくること。などなど。
それらの詳しい話を打ち込みながら、私は不思議な気持ちになった。
こんな凄い出来事が、たった五日ばかりの間に起こっていたなんて。
あの時真由子んちで、健人くんの写真集を見てなかったら、今の私はいなかった。
そう思うと、感謝こそすれ真由子にこんな仕打ちはなかろうと、ひどく申し訳ない気持ちになった。
非情を詫び、日本に帰ってきたらお礼をするとメールした。
すると、すぐさま真由子から返信が…。
健人に会わせてくれたら、すべてを水に流す!
もう、実家にも連れてく仲なら、健人もそれぐらい文句は言わんでしょ。
約束したからね!ちゃんと私を紹介してよ!!
案の定というか、ほらきた!というか。
そうなることは目に見えてたが、いつまでも内緒にしておく訳にはいかないので仕方ないかと諦めた。
でも健人くんに迷惑かけちゃうかなぁ…。
パソコンを閉じて、そろそろ出かける準備を始めるとする。
簡単に朝食を取り、シャワーを浴び、化粧してから化粧道具を鞄に詰め、着替えも用意。
めめに多めのご飯を二ヶ所に置き、水もたくさん入れてやる。
「めめ。明日帰るから、それまでいい子にしててね。
こういう時、もう一匹お友達がいると寂しくないのかなぁ。そのうち考えとくね。」
めめの頭をなでてやり、しばしの別れを惜しんだ。
よし、出かけるとするか。
まずは、この前予約してきたケーキを受け取りに行かなくちゃ。
戸締まりを確認し、私は車でマンションを出発した。
十時の開店ちょうどに店へ入り、頼んでおいた品を受け取って代金を支払う。
思ったよりもスムーズに済んだ。
うーん。これから健人くんちに迎えに行っても少し早いな。
途中のコンビニ寄って、車の中で食べるおやつと飲み物を買って行こう。
車で少し走って、駐車場の空いているコンビニに入った。
健人くんのいつも飲んでる野菜ジュースと私の缶コーヒー。
サンドイッチも買っておくかな。
おやつはこれが好きそうだな。まぁ、私が食べたい物だけど。
隣で退屈だったら困るから、雑誌でも買ってこ。
ちょうど今日発売の、健人が表紙になった雑誌が二冊あったので、それもカゴに入れてレジへと急ぐ。
よし、準備OK!健人くんを迎えに行こう。
健人のマンション前に到着。車の中から電話を入れる。
「もしもし、健人くん?おはよう!準備できてる?
もう下に着いたから、用意できたら降りてきて。」
これから健人を乗せて、埼玉の健人の実家までドライブだ。
電話を切った途端、なんだか急にドキドキしてきた。
どうしよう。緊張してきちゃった。
飲みに行ったりご飯食べる間柄になったのに、なんで今頃…。
そんな事を考えているうちに、健人がマンションから出てきた。
「おはよう!なんか朝から、めっちゃ暑くね?
ゆき姉の車、エアコン効いてる?
俺、朝飯食ってないから、どっかコンビニ寄って行きたい。」
助手席に乗り込んだ健人は、やたらとテンション高い。
まるで遠足バスに乗ってる小学生のようだ。
「朝御飯はちゃんと買ってきたよ。」
「うわ、さすがゆき姉!俺のこと、わかってるー♪
なになに、サンドイッチと野菜ジュース?
コンビニで買おうと思ってたやつだ。すごいね、ゆき姉って!」
いつまでたってもハイテンションな健人は、そのあともひたすらしゃべり続け、結局二冊の雑誌は一度もページを開かれることなくレジ袋の中で眠ったままだ。
さぁ、みんなが待ってる家へと急ごう!