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クリスマスプレゼント

会見終了後、報道陣の撮影タイムを少しもうけた。


「あ、こっちに顔下さいっ!」

「こっちもお願いしますっ!」

右からも左からも声が掛かり、二人は忙しく向きを変える。


「すみません!写真集を二人で持ってもらえますかぁ!?」

健人が一人で持っていた写真集を、求めに応じて二人で持った。

だが…。この時のワンショットが、翌日大変な騒ぎになろうとは…。



「すみませーん!そろそろお時間ですので、これで会見を終了させていただきまーす!

ありがとうございましたぁ!」

書店のスタッフが報道陣に撮影終了を告げる。


健人と雪見はまたマネージャーらの護衛を受け、今度はエレベーターで

五階の控え室へと戻るのだが、これがまた一苦労。

向こうでスタッフが、エレベーターを開けて待っていてくれる。

だが、周りを護衛されてるとはいえファンに揉みくちゃにされ、なかなか前に進めない。


「すいませーん!通してくださーいっ!」

今野が叫ぶ。及川も叫ぶ。

雪見は先を歩く健人の腕に、離れないようにつかまるだけで精一杯。


「ごめんねぇ!ちょっとだけ通して!次の仕事に遅れちゃうからっ!」

たまりかねた健人がファンに向かって叫ぶと、みんなスルスルと一歩下がり、

雪見たちを通してくれた。


「ありがとう!またねーっ!」

健人がファンに手を振ると、再び「キャーッ!」と悲鳴が上がる。


「健人ぉー!」

「大好きぃーっ!」

「ライブ頑張ってぇ!」

「明日行くからねーっ!」


飛び交う健人への大声援に混じり、「ゆきねぇ!また健人の写真撮ってねー!」

「ゆき姉の歌、大好きー!」と言う声が聞こえる。

雪見は、思いがけない自分への声援が嬉しくて「ありがとう!また頑張るねーっ!」

と、思わず答えてしまった。


やっとエレベーターに乗り込み、二人はドアが閉まる瞬間まで手を振り続ける。

エレベーターが一階を離れたと同時に、初めて肩から力がスッと抜け、

「はぁぁ、終ったぁ…。」と雪見からため息が漏れた。



「いやぁー、お疲れっ!良かったよー、さっきの会見!」

先に控え室で待っていた吉川編集長が、やっと到着した健人と雪見に歩み寄り、

両手を差し出して力強く握手をする。


「もう早ツィッター上で、かなりの大反響らしい。当麻ファンの関心も高いようだ。

これから相当な部数が期待できるんじゃないか?本当に楽しみだよ!

で…だな。急遽で申し訳ないんだが、もう一ヶ所だけ二人に顔出して欲しいんだ。」


「えっ?」


サプライズで登場した書店でも二人は大絶叫を浴び、揉みくちゃにされながらも

笑顔を振りまいて、無事発売日当日のイベントをこなし終えた。



「はぁぁ、終ったぁ!あとは明日のミニライブで、写真集のイベントは

全部終る…。けど最後が一番の大仕事だ!」

やっと乗り込んだ今野の車の中で、健人が大声で言う。


「今野さんは知ってたんでしょ?ミニライブが二千人から三千五百人に増えたって。

教えてくれれば良かったのにぃ!」

健人の隣で雪見が、口を尖らせて今野に文句を言った。


「バッカ野郎!そんな事、口が裂けてもお前に言えるか!

ただでさえ緊張しいなのに、前もって言ったら一睡も出来なくなって、

仕事どころじゃないだろーが!

本当は当日まで言わないって常務と話してたのに、まさかあそこで吉川さんに

バラされるとはなぁ…。でもそう言うことだから、頑張るしかないぞ!

全国ツアーの予行練習だと思えばいいんだよ。いきなりのツアーよりは良かったと思え!」


「思え!って言われても…。やっぱり眠れない…。」



それから健人をドラマの撮影現場へ送り、雪見は会見の衣装のままホテルのラウンジで

雑誌のインタビューを四件こなした。


お互いその後の仕事もすべて終え、写真集の打ち上げ会場に駆けつけたのは午後八時過ぎ。

『ヴィーナス』編集部員からそれぞれ花束をもらい挨拶をし、みんなと

労をねぎらいながら乾杯を繰り返す。

だが翌日を考えて、乾杯の割にはそれほど飲みはしなかった。



その日二人がマンションにたどり着いたのは、十二時を回る頃。

リビングに入ると、やっぱりツリーは倒されていた。


「あーあぁ!オーナメントもバラバラ!ま、しょうがないっか…。

一日中、二匹でお留守番だもんね。

よし!君たちにもクリスマスプレゼントをあげなきゃねっ!」

そう言いながら雪見は、新しいおもちゃと高級缶詰を出してくる。


「ほらっ、食べなさい!こんな夜中に食べられるのは、特別だからねっ!」

雪見がしゃがみ込み、二匹が美味しそうに食べる様子をじっとながめてる。

そこへ着替え終った健人がやって来て、「ほいっ!プレゼント!」と雪見の目の前に

小さな箱を差し出した。


「えっ!私に?そんな時間なんてないかと思ってた!開けてみていい?」


「もちろん!」

それは可愛いパールのピアスであった。パールは雪見の誕生石である。


「すっごい可愛いっ!よく知ってたねっ!6月の誕生石がパールだなんて。」


「それぐらいは知っとるわ!っつーか、6月しか知らないんだけど。」

健人がえへっ!と照れ笑いをした。


「だと思った!でもありがとう!すっごく気に入った。

忙しい健人くんが、私のためにプレゼントを探しに行ってくれたって事も、

めっちゃ嬉しい!じゃ私からのプレゼント!」

そう言って雪見がバッグから取り出したのは、長細い箱である。


「メリークリスマス!本当は家でご馳走食べながら渡したかったんだけど。開けてみて。」

雪見からのプレゼントは、健人が大好きなブランドのシルバーのペンダントであった。


「うっそ!?これ、めちゃ欲しかったやつ!やった!!なんで判ったの?

てか、どこ行っても売り切れで、ずっと手に入らなかったのに!」

健人のはしゃぎようは、欲しかったプレゼントをサンタさんが枕元に置いてってくれた!

ぐらいの子供の喜び方と一緒である。


「えへへっ!ちょっと大人の手口で手に入れました。

でも良かった!喜んでくれて。これじゃなかったらどうしようかと思った!」

実は雪見も、散々捜し回っても手に入らなかったので、商社勤めの真由子を思い出し頼んだら、

「健人のためなら!」と、あっという間に手に入れてくれたのだ。


「ありがとう!大切にするよ!」とギューッと抱き締められ、雪見は真由子に

お礼をしなくちゃね!と心の中で感謝した。



明日のライブは、このプレゼントをお守り代わりに身につけて、平常心で歌えたらいいな。


ま、絶対無理だろうけど…。


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