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ま、マジっ!?

「マスター、久しぶりっ!当麻くんに呼ばれて来ちゃった。

なんか免疫力アップする物、作って!」

雪見がカウンター前で、マスターに注文をつける。


「なんだ?そりゃ。おぅ!いらっしゃい!二人ともお待ちかねだよ!」

雪見の後から入ってきた健人に、マスターが声をかけた。

健人は目深に被ったニット帽と大きな黒縁眼鏡姿で、うつむき加減にペコリと頭を下げ、

マスターの立ってるカウンター前を通過する。


「え?今、二人とも、って言った?当麻くんだけじゃないの?。

あ、ビール二つもらってくね!ちゃんと注文した物、作ってよ!」

雪見が慌ててジョッキ二つにビールを注ぎ、小走りにいつもの部屋へと持って行く。


「誰か開けてぇー!」

当麻が「よぅ!お疲れ!」と開けた障子の向こうには、みずきの笑顔が待っていた。


「みずきさんも一緒だったんだぁ!元気だった?」

当麻にビールを手渡し、雪見がみずきのとなりへ嬉しそうに急いで座る。


「うん!元気元気!雪見さん、お葬式じゃ本当にお世話になりました。

きちんとお礼に行かなきゃと思ってたんだけど、なかなか父関係の挨拶回りが終らなくて。」

みずきが掘りごたつから出て正坐し直し、両手を付いて頭を下げた。


「やだぁ!そんな他人行儀に、かしこまらないでよ!

それに、雪見さんじゃなくてゆき姉でしょ!私は。取りあえず乾杯しよ!

まだ二人が付き合いだしたお祝い、してなかったもんね。

きっと宇都宮さんも喜んでるから、おめでとうって言っちゃう!

おめでとう!カンパーイ!」

四人それぞれが、嬉しそうにグラスやジョッキを合わせる。

雪見はやっと二人をお祝いしてやれて、ホッとしていた。


「あぁ、美味しいっ!ずっとね、気になってたんだ。

早く二人の事お祝いしてあげたかったんだけど、きっとみずきさん、しばらくは

バタバタと忙しいだろうなって。

それにお父さんが亡くなってすぐに、おめでとうって言うのも不謹慎かな、

とか考えてるうちに、私も忙しくなっちゃって…。

当麻くんの会見、めっちゃ男らしくて見直したよ!感動した!」


「見直した!って、今までどんな目で見てたんだよっ!」

当麻が笑いながら雪見をにらむ。


「いやホント、今日は当麻くん、ナイスタイミングで電話くれたわ!

これで胸のつかえが取れて、安心して眠れる!よかった!」


「うっそ!?毎日ベッド入ってすぐに、爆睡してるじゃん!あれって寝たふり?」

健人の言葉に当麻とみずきが大爆笑!一気ににぎやかな宴会のスタートとなった。


そこへマスターが料理と白ワインを運んで来る。

トレーの上には、オクラのいか納豆和えにマグロの山かけ、山芋のチーズグラタン等と

ワイングラスが五つ乗っていた。


「なるほど!免疫力アップにはネバネバ料理がいいって言うもんね!さすがマスター!

あれ?ワインはまだ頼んでないけど?しかもグラスが五つ。

また自分も飲む気してんでしょ!」


「失敬な!俺なんか飲まねぇよ!このワインは俺から宇都宮さんへのお礼!」


「えっ?父へのお礼…ですか?」

みずきが不思議そうな目をマスターに向けた。


「あのお葬式の後、弟夫婦の花屋が大繁盛してるらしくてさ。

みんな、宇都宮さんの祭壇のお花はこちらですか?って来るんだって。

なんか俺も嬉しくってよ!あの祭壇の三分の一…いや四分の一ぐらいは俺も手伝ったから。

だからこれはそのお礼。宇都宮さんも酒が好きだったって聞いたから、

陰膳据えてやってくれ。

あ、あと免疫力アップって、こんなんでいいのか?

ほんと、この人は容赦なくメニューに無い物頼むから、たまらんわぁ!

じゃ、ごゆっくり!」

マスターは、いつもと変らぬ笑顔で去って行った。


「あのね、本当に行く先々で、いいお別れ会だったって誉められるのよ。

特に遺影と祭壇のお花と、もちろん雪見さんの歌!

あ、写真展も凄く良かったって!いいアイディアだって誉められたわ。

だからね、私も最後にちゃんと親孝行ができたかなって…。

お別れ会を演出してくれた人達に、心から感謝してる。

ゆき姉には、本当にいくら感謝しても足りないくらい。」

みずきが雪見の手を取り「ありがとうねっ!」と礼を言う。


「みずきさん。お礼を言わなきゃならないのは私の方なの。

あの後、本当にたくさんの仕事のオファーを頂いて、毎日大忙しよ!

すべて宇都宮さんとみずきさんのお陰。私の方こそありがとね!」

二人で手を取り合ってるところに、健人が割って入る。


「まぁまぁ!せっかくマスターがワイン用意してくれたんだから、早く飲もうよ!

みずき、宇都宮さんの写真持ってない?」


「あ…私、全部ケータイに入れてるから…。」


「あ、私が持ってる!」

雪見がバッグの中から、宇都宮の遺影に使った写真を取り出した。


「これ、私のお守り!グチャグチャにならないように、ラミネート加工しちゃった!

宇都宮さんが選んでくれたこの写真が、私のカメラマン人生を動かしてくれたから…。」


そう言いながら雪見は五つ目の席を用意し、そこに宇都宮の写真をそっと置く。

写真の前には健人が注いだワインと、マグロの山かけを割り箸と共に置いた。


「よし!じゃあみんなで改めて乾杯しよう!当麻くん、なんか挨拶して!」

いきなりの雪見の振りに、当麻が慌てる。


「ええっ!?挨拶ぅ?なんか緊張するんだけど!」


「お父さんが見てるよっ!」

当麻をからかうように、隣の健人が笑いながら肩を叩いた。


「益々緊張するだろっ!えーっとぉ、このたびは故宇都宮勇治の…」


「もういいわっ!当麻、みずき、おめでとう!カンパーイ!!」

健人がさっさと乾杯の音頭をとったので、雪見とみずきが大笑いしながらグラスを合わせた。


「おーいっ!マジ挨拶させて!」


「なにを?もう葬式のお礼はいいから!マジ腹減ってんだから、早く食おうぜ!」

健人が「いっただきまーす!」と箸を伸ばしたその時だった。

当麻が驚くことを口にした。



「俺たち、結婚するからっ!」


「ま、マジっ!?」


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