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家族って…

「今日はご馳走様でした!またワッフル食べに来ますねっ。

あ、そうだ。翔平君の写真集が出たら、きっとファンの子がお店の外観から

ここを探し当てて、大勢来ちゃうと思うんだけど大丈夫かな…。」

雪見が少し心配そうに、若い女店主に聞いてみる。


「こんな小さなお店だから、どう頑張っても入れる人数しか入れませんけど、

お客様が来てくださるのは大歓迎です!

こちらの方こそ有り難うございました!お店を素敵に撮って頂いて。

写真集出たら必ず買って、お店に置いておきます。

あ、勿論健人くんの写真集はもう予約してありますから、今度いらした時には

雪見さんのサイン下さいねっ!」


「うん!その時までに練習しておくね!じゃ、また!」

雪見は手を振って、今野の車に乗り込んだ。

膝の上には彼女が健人のために焼いた、まだ温かいワッフルが可愛い箱に入って

ちょこんと乗っている。

さぁ、次の現場はまた健人と翔平の、ドラマの撮影スタジオだ。



「おはようございまーす!」


翔平から遅れること三十分。雪見がスタジオに到着すると、ちょうど翔平が着替えを終え、

スタジオに入るところだった。

「今着いたの?遅っ!あ!何それ?ワッフル?やった!」


「残念でしたー!これは健人くんの分!翔平くんはもう充分、食べて来たでしょ!」


スタジオのドアを開け二人で中に入って行くと、健人はすでに一区切り撮り終え、

次の出番まで椅子に座って待機中であった。


「お疲れっ!はい、お土産!美味しい焼きたてのワッフル!」

雪見が箱を、健人の前に差し出した。


「おっ!美味そうな匂い!どしたの?これ。」


「今撮影してきたカフェのオーナーが、偶然健人くんのファンでね。

私の事も知っててくれて。で、これから健人くんのドラマの現場に行くって言ったら

健人くんに!って、特別にイチゴ味のワッフルを焼いてくれたんだよ!

さすがファンだねぇ!健人くんがイチゴ味好きなの、ちゃーんと知ってるんだから。」


「うそっ!俺もイチゴ味食べたかった!メニューに無かったじゃん、そんなの!」

翔平が羨ましそうに「一口ちょーだい!」と、健人に食べさせてもらってる。


「もう、どんだけ食べるのよっ!ほら!あそこのテーブルにみんなの分の差し入れ

焼いてもらったから、あっちの食べてっ!」

やったー!と走って行く翔平を、あっ!写真、写真!と雪見が追いかける。

雪見の慌ただしい撮影の様子を、健人がワッフルを食べながらぼんやりと眺めていた。



翔平のリハーサルが始まり、雪見がブツブツ言いながら引き上げて来る。

「ほんっと、手のかかる弟だわ!一回り下の弟って言うより、幼稚園児の弟って感じ?

やだ!それってほとんど息子じゃん!」

健人の隣りのパイプ椅子に、眉をしかめた雪見がストンと腰を下ろした。


「息子なの?翔平って。」

健人がクスクス笑う。なんだかホッとした表情で…。


「そう!イケメン弟から、幼稚園児の息子に格下げ!ほぼクレヨンしんちゃん並みっ!」


「おおっ!いいとこ突いてるかも!そんな感じするわ!じゃあゆき姉は、みさえじゃん。」


「ええーっ!そうなるのぉ!?やっぱ弟でいいや!」

そう言って二人で、久しぶりにお腹の底から笑った。



「ねぇ。家族ってほんと有り難いよね。」


「えっ?あぁ、昨日のこと?なにもあんな夜中に、全員で起きて待ってなくても

良かったのにね。コタとプリンまで付き合わされてたし。」

健人が「さすがに疲れが抜けないや。」と言いながら、首をグルグル回した。


「みんな健人くんのこと、一番に思ってくれてるんだよ。

毎日遠くからただじっと、見守るだけしか出来ないけどね…。

でもさ。必ずあそこに自分のことを見守ってくれてる人がいる、って思うだけで

心が強くなれる気がしない?それは生きてる人も、死んだ人も含めて…。

健人くんの事は、天国からちぃばあちゃんが必ず守ってくれてるだろうし、

私の事は父さんとおばあちゃんが守ってくれてる。

あ!もちろん顔は覚えてなくても、おじいちゃんもねっ。

そう考えると、家族って永遠なんだなーって思う。いいよね、家族って…。」


「家族かぁ…。ねぇ、なんで突然そんな事思ったの?」

健人が、雪見の本心を探るような瞳で雪見を見た。


無防備に思った事が口をついてしまい、雪見は焦る。

昨夜雪見たち真夜中の来訪者を、大歓迎で迎えてくれた斎藤家の人々が

暖かくていい家族だなぁ!とただ純粋に思えたし、どこか心の片隅で、

自分もこんな家族を作れたらいいなぁ、と思ったのも事実だから。

健人と二人で…?それは言えない。


「え?なんで、って…。ほら!みずきさんもお父さん亡くしたばかりだけど、

いつもそばにいてくれるのを感じるから、ぜんぜん寂しくないって言ってたし…。

そうそう!健人くんのおばさんに会ったら、私も母さんの事が気になってさ!

同じ都内にいるのに、さっぱり顔も出さない親不孝娘だなぁって、反省したわけ!

その点、健人くんは偉いっ!飲んでる途中でも、ちぃばあちゃんを思い出して

わざわざお線香上げに埼玉まで行くんだから!」


「なにっ!?お線香?やっぱりばあさん、亡くなったのか?」

いきなり後ろから声がして驚いた!ヤバっ!監督だぁ!


「い、いや、だから、まだ亡くなってませんって!

お線香は昔死んだじいちゃんに上げて来ただけで、ばあちゃんは大丈夫でしたから

もう忘れて下さい!あー、俺そろそろ出番かなぁ?」

健人は雪見を残し、スッと椅子を立って移動してしまった。


「ち、ちょっとぉ!あぁ監督、昨日はご馳走様でした!

あの、あそこに焼きたての美味しいワッフル、差し入れで持って来ましたから

どうぞ召し上がって下さい!

あれっ?翔平くん、リハーサル終ったんだ!今のうちに仕事仕事っ!」

そう言って雪見も、カメラを手にそそくさと退散する。



宇都宮が手渡してくれたプレゼント。

それを大事にすることによって私は、本当にもっと健人に近づく事ができるのだろうか…。

答えはまだ分からないけど、とにかく今はやるしかない!


そう自分に思い込ませて、雪見はまた翔平にカメラを向けた。


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