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お似合いの二人

案の定、その日は朝から大変な騒ぎとなった。

テレビはどのチャンネルも、当麻とみずきの話題で持ち切りで、宇都宮の葬儀の模様と共に

芸能トップニュースとして、かなりの時間を割いて報道されている。

しかも生中継で、斎場の外から宇都宮の出棺の様子が映し出され、勿論そこには

みずきをいたわる当麻の姿も、はっきりと見て取れた。


健人が仕事に出掛けた後のリビングで、あちこちチャンネルを換えながら

ドキドキして見守っていた雪見は、どの報道も二人を祝福するものであったことに安堵する。


『良かった…。今の時点では大丈夫そうだ。でも凄いな、当麻くん。

中継されるの分かってても、あんなに堂々としてるんだから…。

みずきさんが羨ましい。』

すっかり冷めてしまったカフェオレを口に運びながら、ふと、そう思ってる自分に慌てた。


『人は人、自分は自分でしょっ!』そう心の中で言い聞かす。

だが、一度頭をもたげてしまった感情は、おいそれとは引っ込んではくれなかった。


公に祝福される恋人と、公に出来ない恋人と…。


『みずきさんと私とじゃ、立場が違い過ぎるんだから!

あの二人は誰も文句の付けようもない、人も羨むビッグカップルなの!

それに引き替え私は、元々が無名のフリーカメラマンだし、健人くんの親戚だし、

それに…一回りも年上だし。つり合わなくて当然なの。』


今まで常に考え続けてきた。自分が健人にふさわしいのかどうかを。

でも、何度考えた所で答えが変わる訳ではない。

あんなアイドルの彼女が私でいいわけないのは、始めから気付いてた…。


だけど…今は別れたくない。

つい最近までは、健人のためなら身を引こうと心の隅っこで思ってた。

でも今は、一緒に暮らして健人を知れば知るほど、離れたくない気持ちが強まる。

ずっと健人を支えていきたいとも思う。

じゃ、どうすればいいんだろう。どうすればつり合いが取れるんだろう…。


そうだ!私が努力して、世間に認めてもらえる人になればいいんだ!

健人くんが堂々と、自慢できる彼女になればいいんだ!

どうやって…?


『YUKIMI&』を頑張って、人気者にすればいいんじゃない?

ついでにカメラマン浅香雪見でも、知名度を上げればいいんじゃない?

せっかく宇都宮さんがくれたプレゼント、そのまま押し入れにしまい込むのは

もったいないよね。昨日もらった名刺の束、どこやったっけ?


雪見はこの時初めて、デビューできる事を心から喜べた気がする。

これは神様と宇都宮さんが、私にくださったチャンスだ!

そう思うと、何としてでもこのチャンスを生かし、必ずや健人にふさわしい人に

なってやるぞ!と心に決めた。



その日のお昼前。雪見は事務所のスタッフ大勢と共に、会議室のテレビモニター前にいた。

今日12月1日午後12時、いよいよ『YUKIMI&』と『SPECIAL JUNCTION』

デビュー曲のPVが配信スタートとなる。

本当のデビューはまだ一ヶ月先ではあるが、これが実質デビューと同じ意味合いを持つだけに、

雪見は勿論の事、それを支えてきたスタッフ一同、緊張の面持ちでその時を待っていた。


「あっ!SJだっ!!」

最初に流れたのは健人と当麻のデビュー曲『キ・ズ・ナ』である。

シーンと静まり返った会議室に二人の歌が響き、モニターの中でかっこいい二人が踊る。

そこに、軽井沢ロケで撮影した雪見の映像が映し出されると、みんなが一斉に

「雪見さん、カッワイイッ!!」と大騒ぎ。

続いて始まった『YUKIMI&』のPVに至っては、森の女神のような雪見の姿に

「キャーッ!綺麗過ぎるぅ!」と悲鳴に近い声まで上がった。


雪見も、今日初めて映像として見る自分の姿が、不思議でならない。

そこで演技してるのは確かに自分のはずなのに、ここにいる自分とはまったく違って見えた。


「凄いねぇ!映像って。写真だとありのままが映し出されるのに、こうやって編集されると

私でも二十代に見えちゃう!ってことは、このPV見た人が実物を見ると

ガッカリするってこと!?罪作りなPVだぁ!」

雪見が肩をすくめてそう言うと、みんなは笑って「大丈夫ですよっ!」

と言ってくれる。

本当に大丈夫になれるよう、これからは真面目にお肌の手入れをしなくっちゃ!


みんなで興奮覚めやらず盛り上がっているところに、知らせが入る。

「これから当麻くんとみずきさん、ツーショット会見するって!」

「 うっそーっ!!」


慌ててチャンネルを切り替え、テレビの前にかじり付く。

すると火葬場から出てきた二人が、揃って報道陣の前に姿を現した。

みずきの腕の中には白い木箱が抱かれている。

報道陣に向かって一礼し、すべてが滞りなく終ったことを報告し、お礼の言葉を述べた。

そこから先は当麻が、みずきを気遣いながらも臆することなく、はっきりとした言葉で

二人の交際を宣言した。


「はい!僕らが付き合いだしたのは、間違いありません。

宇都宮さんが亡くなる四日前に、僕から言いました。

だから本当にスタートしたばかりなんです。これから大事に二人の仲を育てて行きたいので、

どうか皆さん、温かく見守ってやって下さい!」

そう言って二人でお辞儀した後、「失礼します!」と当麻がみずきの肩を抱きながら、

フラッシュの海をかき分けて車に乗り込んだ。


その様子を固唾を呑んで見守った会議室のスタッフから、割れんばかりの拍手が湧き起こる。

「めっちゃ男らしかった!これで当麻くんの株が、ますます上がったんじゃない?」


「ほんと!どうなっちゃうのか心配でたまらなかったけど、爽やかで男らしくて

マイナスイメージが一つも見当たらなかった!」

一同、ホッと胸をなで下ろしながら、再びそれぞれの持ち場に戻って行った。

雪見は一人残された会議室で、今見たばかりの二人の姿をボーッと思い出す。


本当にお似合いの二人だったな…。

いつか私もあんな風に、堂々と世間の前に出られる日が来るといいな。


よーしっ!今日からさっそく、行動開始だ!


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