表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/443

当麻がバレたっ!

「おい、雪見っ!いい加減帰るぞ!いつまでもそんなとこ座ってたら、

ここの人が後片付けできないだろっ!」

小野寺が急かすように言ったが、雪見は参列者が帰った後のだだっ広いホールに、

ただボーッと座り込んでいた。


歌い終わった後の歓声が、まだ耳に鳴り響いてる。

みんなに握手された手のぬくもりも、参列者が帰り際にかけてくれた誉め言葉も、

すべてが夢の中の出来事に思えた。


「ゆき姉、帰ろ!さぁ、立って。」

健人が雪見の腕をつかみ、立ち上がらせる。


歌い終わった後に乾杯責めにあったので酔ってるせいもあるが、今頃になって

宇都宮がくれたプレゼントの重さをずっしり感じ、歩き出した途端よろけてしまった。


「おい、大丈夫かよ!でもあんだけお酌されて全部飲んで返すんだから、恐れ入ったわ。

お前のキャッチコピー、作り直すか?

『地上に降りたマリア』じゃなくて『地上に降りた酔いどれ天使』に。」


「常務!『天使』は無理がありますよ!天使は。」

今野が真に受けて全力で否定する。


「冗談に決まってんだろ!あれっ?当麻のやつ、先に帰ったのか?」

小野寺がキョロキョロと辺りを見回して「さっきまでそこにいたのに。」と首をひねる。


「あ…。あぁ、マネージャーの豊田が迎えに来たのかなっ?」

本当はみずきのいる控え室に行ったのだが…。


「じゃ、俺も帰るぞ!宇都宮さん、ご馳走様でした!いいお式でしたよ。」

小野寺はホールを出る前にもう一度振り向き、遺影に向かって一礼した。

「お疲れっ!」とタクシーに乗り込む小野寺を見送り、今野と健人はホッとする。


「どうにかバレないで済んだな、当麻。」


「あっ、はい!良かったです!ヒヤヒヤもんだった…って!

えーっ!?今野さん、知ってたんっすかぁ?」


「アホかっ!当麻は分かりやす過ぎだわっ!ほんっと、直球しか投げないよな、あいつは。

多分常務だって気付いてるよ。みずきがこんな時だし、気付かない振りしてるだけさ。

まぁあの人は他のお偉方と違って若いだけに、恋愛に関してはある程度は寛容だよ。

お前達に対してもな。」

立ったまま寝てるのか、健人にもたれ掛かる雪見を見ながら今野が言う。


「事務所は『SJ』と『YUKIMI&』を、これから全国ツアーに向けて、

ワンセットで売り込んでいくだろう。

お前達一緒の現場が増えるんだから、常にマスコミの目は気にしとけよ!

ま、お前達には親戚同士っていう隠れ蓑があるから、それほど俺も心配はしてないが

問題はあいつだ!当麻!みずきとの関係が知れたら、それこそ世界中が大騒ぎになるぞ!

お前からもよく言い聞かせておけよ!相棒なんだから。

じゃ、俺も帰るわ。お疲れっ!」

今野も、斎場入り口に停車してるタクシーに、少しふらつく足で乗り込み帰って行った。


「ゆき姉、俺らも帰ろう。あ、控え室に顔出してった方がいいか!

いや…やめとこう。へんなシーン目撃しちゃったら困るし…。」

そう独り言を言いながら健人はケータイを取り出し、当麻に「先に帰るから」と送信する。

健人と雪見がタクシーに乗り込んだ時、外はマスコミもすでに撤収し、

斎場周りは静けさを取り戻していた…かのように見えた。だが…。



「ちょっと大変!起きて健人くん!早くっ!」


翌朝5時。雪見に叩き起こされた健人が、寝ぼけ眼でパソコン前に座らされる。

何事かと目をこすりながら眼鏡を掛け、モニターに映し出された画像を見て一瞬で目覚めた!

なんとそこには、仲睦まじく見つめ合い、手をつないで斎場からタクシーに乗り込む

当麻とみずきの姿が、大写しになっているではないか!


「な、なんだよこれっ!!どこに撮られたんだよっ!スポーツ紙?」


「この距離と角度からすると、間違いなく写したのは後ろに並んでたタクシーの中ね…。

運転手側からの角度じゃないから、多分助手席側にマスコミが乗ってた可能性が高い。」

雪見がカメラマンの目線で冷静に分析した。


「どうすんだよ…。当麻に連絡したっ?」


「それが電話にもメールにも応答がないの。早く連絡ちょうだいって入れておいたけど…。」


「まずい事になったぞ…。どうしよう。事務所はどう対応するんだろ…。」

二人とも思考回路が停止して、何から先に考えたらいいのか分からない。

ほんの七時間ばかり前に今野が言ってた事が、こんなにも早く現実になるなんて…。

健人と雪見の間に、時間だけが無意味に流れていった。


その時だった。健人のケータイに電話が入る。「当麻だっ!」


「お前っ!今どこにいんだよっ!インターネット見たか!?

お前とみずきの写真、もう世界中に配信されてんだぞっ!」

健人が興奮気味に、早口でまくし立てた。

だが当麻の声はそれとは真逆に、ひどく落ち着き払ってる。


「知ってるよ。もう事務所とも話した。

俺、今みずきと一緒に斎場にいるの。昨日ここに泊まったんだ。

あ!俺だけじゃないからね。みずきのじいちゃんとか、宇都宮さんのマネージャーさんとか。」

当麻は大先輩津山泰三の事を「みずきのじいちゃん」と表現した。


「宇都宮さん、親戚一人もいないんだって。いないと言うか、縁を切ったと言うか…。

でね、今日は本当に内輪だけで最後のお別れをして、出棺するんだ。

俺もみずきと一緒に、火葬場まで行って来るから。

一晩中宇都宮さんの前でみんなで飲み明かしたから、全員二日酔いなんだけどねっ。

あの写真は、二人で買い出しに行くところ。

健人…。俺、健人や事務所に迷惑かけるけど、二人の関係、正式に発表するから。」


「ええっ!?マジで!マジでマスコミに発表すんのっ!?」

健人が雪見の顔を見た。


「うそっ!そんな事して当麻くんとみずきさん、大丈夫なのっ!?」

雪見が当麻に聞こえるように、大声で言う。


「大丈夫だよー、ゆき姉っ!ゆき姉にも迷惑かけるかも知れないから、先に謝っといて。

俺ね、バレたらすぐに発表するって決めてたから。別に隠そうとも思ってなかったし。

約束したんだ、みずきと。俺がお前をちゃんと守って行くから、って…。

なーんちゃって!ちょっと恋愛ドラマっぽかった?今の。」


「お前なぁ〜!こんな時に!まぁ当麻らしいっちゃ当麻らしいか…。

そんな奴だよな、お前って。いつも真っ直ぐ、自分の思った方向に進む。

ぐちゃぐちゃ悩まないのが当麻だもんな!

時々お前の性格が羨ましくなるよ、俺と正反対で…。

ま、みずきに付いてるなら安心した。後は任せたからうまくやれよ!」

そう言って電話を切った後、健人は心配そうな雪見の頭を撫でてやった。


大丈夫!俺もゆき姉を守るから…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ