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私が守ってあげる

「ゆき姉、お疲れっ!俺、どうだった?」


ゆき姉と健人に呼ばれて仕事スイッチがOFFになり、私は静かにカメラを下ろした。


「お疲れ様。かっこよくて惚れ惚れしながらカメラ覗いたよ。

すっごい役者さんだなぁーって、初めて尊敬した。」


「初めてかよっ!ま、そうだね。普段の俺に尊敬ポイントは確かにないわ (笑)

で、うまく撮れた?スタジオの中って、結構制限あるから大変だったんじゃない?」


「大丈夫。いい表情撮れたよ。私の方こそ、お芝居の邪魔しなかった?

なるべく視界に入らないように、撮ったつもりなんだけど。」


「ぜんぜん大丈夫。ゆき姉がどこにいんのか解んなかったくらい。

二日酔いで、途中で帰っちゃったのかと思ったよ(笑)」


「そんな訳ないでしょ(笑) 健人くんこそ二日酔いでしょ?」


「んなわけないじゃん。まだまだ飲めたよ。」


「じゃあ、昨日の賭けは引き分けかぁ。

せっかく今日は、健人くんのおごりだと思ったんだけどなー。」


「負けてないけど、おごるよ。ゆき姉の記念すべき撮影初日だからね。

このあとセットの中で雑誌の取材あるから、終わるまでそこで待ってて。」


「了解。」



親しげな二人の様子に、周りがざわめいた。

それに気付いた健人が、慌てて雪見を紹介する。


「あ、この人、フリーカメラマンの浅香雪見さん。

今日から二ヶ月くらい、僕の専属カメラマンとして同行するんで、よろしくお願いします。」


スタッフに向かって、ぺこんと頭を下げた。

それを見て、私も慌てて自己紹介する。


「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません!

わたくし、本日から斎藤健人さんに同行させていただく浅香雪見と申します。

皆様のご迷惑にならないよう最大限配慮いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。」



大人な挨拶をする雪見を、健人は少し誇らしげな顔して見守ってた。

かっこいい大人の女性だなぁーと思いながら、改めて雪見の姿を見直した。


ゆき姉ってよく見ると、今野さんの言う通り美人の部類に入るよな。

まぁ、美人って言葉はなんかニュアンス違う気もするけど、綺麗だよね。笑うと可愛いしさ。

こういう女優さんがいても、おかしくないって感じ?



「あのね。みんな、私と健人くんの仲を疑ってたんだって。あんまり親しそうに話してるから、年上の彼女かと思ったって(笑)

で、赤ちゃんの時から知ってる遠い親戚だって言ったら、みんな驚いてたよ。

ねぇ、今度赤ちゃんの時の写真、見せてあげてもいい?」


雪見が嬉しそうにしていて健人は安心した。この雰囲気に馴染めるか、少し心配だったから。

でも雪見は明るくて、ぱっと咲いたひまわりのような人だから、自然と周りに人が集まるのも不思議ではなかった。


「いいよ。でもチンチン丸出しの写真だけはやめてね(笑)

あ、この際だから猫の写真集とか売り込んじゃえば?ここのスタッフさんって猫好きな人多いよ。

この前もコタとプリンの写真集、みんなに見せたら欲しいって言われたけど、ダメって言った。」


「そうなの?なんか嬉しいな。

そうだ。健人くんの写真集が終わったら、今度はコタとプリンの写真集、ちゃんと編集し直そうかな?」


とても上機嫌な雪見を、健人は微笑ましく眺めてる。

とりあえず、初日の撮影無事終了!



そこへ「斎藤さん!取材の準備が整ったので、お願いしまーす!」と声がかかる。


「じゃあ、ゆき姉。もうひと仕事してくるから待っててね。」

そう言い残し、健人が再びセットの中へと入って行った。




私はもう一度カメラを取り出し、健人に気付かれぬ角度からファインダーを覗いてみる。



お芝居してる健人くんはもちろん別人だけど、取材受けてても、やっぱイケメン俳優の斎藤健人なんだ。

ずっとそう居続けるのって、大変なんだろうな…。

出来上がったイメージから外れるわけにはいかないし、寝る時に素の自分に戻ったとしても、また朝が来ればアイドルの顔して仕事に行かなきゃならない。

なんだか、ちょっとかわいそう…。


私がそばにいたら、少しは素に戻れる時間が増えるかな。

忙しい毎日でも、ほんのちょっとの空き時間に、心を休めさせてあげられるかな。

なにか健人くんの、助けになりたい…。


そう思いながら、ファインダー奥の健人を見つめた。



今日は月曜日か…。木曜には、久しぶりに実家でのんびりできるんだね。

あと明日とあさって、頑張って仕事しようね。



と、その時。

「どーも、お疲れ様でした!ありがとうございます!」

チーフマネージャー今野の声がした。

どうやら取材が終了したようだ。


ぱたぱたと健人が私の前に、駆け寄ってくる。


「あー腹減った。ゆき姉、早くご飯に行こ!俺、死にそ。」


「しょーがないなぁ。じゃあ、とっておきのお店第二弾を紹介するか!」


わざとお姉さんぶって私が言うと健人は「やった!」と無邪気に笑い、一瞬で素の健人に戻ってくれた。




今日から二ヶ月、私が守ってあげる。

あなたの疲れた心を、私が癒してあげる。


そのためだけに、私はここにいる。


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