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お前にしか出来ないこと

タクシーで一旦家に戻った雪見は、少しでも酒を抜こうと熱いお風呂に入り汗を流す。

あと一時間のうちに準備を整え、『ヴィーナス』の対談を行なうスタジオへと

出掛けなければならない。


風呂上がりに冷たいミネラルウォーターを飲みながら、テレビのスイッチをつける。

と、いきなり、さっきまでいた宇都宮の自宅前が写し出され、レポーターが

宇都宮の死去を熱く伝えていた。

お昼の番組はどこの局もこのニュース一色で、宇都宮勇治という俳優が

いかに大物であったかを思い知らされた。


雪見はある事が気になって、次から次へとチャンネルを切り替える。

「みずきさんが喪主だって事は、まだ発表になってないみたい。

発表したら、大変な騒ぎになるんだろうな、きっと…。」


葬儀はあさって11月30日の午後6時から、とレポーターが伝えている。

それまでには確実に、なんらかの形で世に知らされることだろう。

華浦みずきは、故宇都宮勇治の実の娘であることを…。



午後一時半、スタジオに到着。

メイク室に入ると、スタイリストの牧田に真っ先に指摘されてしまう。


「えーっ!雪見ちゃん、また二日酔い?昨日、相当飲んだでしょ?

目も腫れぼったいし、お酒クサ〜イ!」


「え?あ、あれっ?やっぱりバレた?まずいなぁ、かなり臭う?

ブレスケア、大量に飲んできたんだけど…。」

まさか、二日酔いではなく今酔ってる状態だとも言えずに、笑って誤魔化す。

やだなぁ!こんなんで健人くんと対談なんて。

まぁ、判ってて飲んだんだから自業自得なんだけど…。


その時だった。ヘアメイクの進藤が、メイク室に大慌てで飛び込んで来た。

「ねぇねぇ、知ってた?あの華浦みずきちゃんって、今朝死んだ宇都宮勇治の

娘だったんだって!今、テレビで会見してるよ!」


「ええっ!!」 牧田と雪見が同時に大声を上げた。

もちろん二人の驚きの理由は同じでは無い。

初耳で驚いてる牧田と、こんな早くに会見という形で発表したんだ!という雪見の驚きだ。


雪見と進藤がすぐにケータイを取り出し、ワンセグで中継を見る。

どこかの会場で喪服を着たみずきが、生前の宇都宮に対する礼と葬儀の日取りを話している。

すでに、宇都宮の娘であるという事に関しての報告は終ったらしく、それに対しての

報道陣からの質問はシャットアウトされ、葬儀に関しての質問にだけ受け答えしていた。

その姿はいつにも増して凛としていて、冷静に堂々と、毅然とした態度を貫いている。


みずきは穏やかな笑顔で、喪主として会見の最後をこう締めくくった。

「センスが良くてお洒落で、お酒と歌と、そして猫をこよなく愛した父でした。

そんな父らしい葬儀で、最後の花道を飾ってやりたいと思います。

でも私、本当はこんな大役、舞台より緊張してるんですけど…。

宇都宮勇治の娘、華浦みずきを、陰ながら応援していて下さい。

本日はお忙しいところ、お集まり頂きまして有り難うございました!」


見ていたこっちの方が緊張した。

だが、どうやら無事一つの峠は乗り越えたようで、ホッとしたら涙が滲んだ。



「どうだった?ゆき姉!」と言いながら、健人と今野が心配そうにスタジオ入りする。

酒臭さがバレないように二人から距離を置いて、「ちゃんと任務は完了!」

と言葉短く言ったのだが、これから対談するのにバレないわけはない。

対談中に「酒くさっ!」とか健人に言われて、それを活字にされても困るので、

正直にすべてをカミングアウトした。

津山が可哀想で、朝っぱらから酒に付き合った事。

悲しみの席で、大声で歌を歌ってしまった事、等々。


「それで?津山さんはどうしたの?」健人が苦笑いをしながら雪見に聞く。


「うん、喜んでくれた。少しは気が紛れたと思うけど…。」

そう言ってる雪見自身は、後先考えないで行動してしまう自分の性格に、

ほとほと呆れて落ち込んでる。


「いいんじゃないか?お前らしくて。酒が強いのも、こういう時に役立つもんだな!

フツーの綺麗どころは、朝っぱらから日本酒には付き合えないぞ!

しかも大御所俳優二人を目の前にして、堂々と歌って聞かせるなんてな。

お前にしか出来ない役割だったわけだ。良くやった!」

今野が、大笑いしながらも雪見の肩を叩いて慰める。


「そうだよ!もしそんな津山さんを、黙って見てるだけのゆき姉だったら、

俺はがっかりするだろうな。やっぱ、俺の彼女だけある!」

健人はそう言ったあとスッと雪見に近づき、耳元で「大好きだよっ!」とささやいた。


それを見て今野が慌てる。

「おい、健人っ!!現場じゃ行動と発言には気をつけろよ!

イチャイチャは家に帰ってからにしろっ!」


「なんか、イチャイチャって言葉、久々に聞いた!」雪見が笑って健人を見ると、

健人も「ほんとー!やっぱ俺らとちょっと違うよね、今野さんって。」

と、わざと雪見に身体を寄せて見つめ合った。


「だーかーらっ!そーいうのをイチャイチャって言うんだよっ!!」



健人と今野のお陰で心が軽くなった雪見は、お酒が入ってるせいもあり

対談のスタートから飛ばす飛ばす!

デビューを前にした心境やPV撮影のウラ話、クリスマスに発売される

健人の写真集についてや当麻の噂話など、自宅のソファーで健人との会話を楽しむように、

喋りまくって無事終了。

初対面のライターさんから「本当に姉弟みたい!」と言われ、恋人同士だなんて

まったく疑われる様子もなく、複雑な心境の二人であった。



「あー終ったぁ!なんか楽しかったね。

ここんとこ、お互い忙しくてあんまり話せてなかったから。ゆき姉、この後は?」

健人がキャップを被り直しながら雪見を見る。


「私はお酒が抜けたら、宇都宮さんちに車を取りに行かなくちゃ。

みずきさんと津山さんの事も心配だし、様子を見て来る。

でも夜には帰って、ご飯作って待ってるから。仕事頑張ってきてね。」


二人がしばしの別れを惜しんでいるその時、今野のケータイが鳴った。

「もしもし、今野です。あ、常務!お疲れ様です。

はい?雪見ですか?まだここにいますけど…。

えっ!?あ、はい、わかりました。大至急そっちに向かいます!」

電話を切ったあと、険しい顔で今野が雪見を見る。


「残念ながら、常務から呼び出しくらったぞ!雪見を連れて来いって。

相当慌てた様子だったけど、お前、なんか他にもやらかしたのか?」


「えっ!?」


絶句した後、宇都宮の遺影の件が頭をよぎる。

他に思い当たる事がなくて、顔が青ざめてゆくのがわかった。


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