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PV打ち上げ!

「カンパーイ!お疲れぇ〜!!」


午後九時。

東京に戻ってザッと後片付けを終えてから、お洒落なイタリアンレストランを貸し切って、

PVの打ち上げ立食パーティーが行なわれた。

無事予定通りに撮影が終了し、関係者一同、心から安堵してお互いをねぎらう。

あちこちで今日の撮影を酒の肴に、話が盛り上がっていた。



「いやぁー、無事今日中に終って良かった!本当に良かったよ!

スタートがあんなんだったから、どうなることかとヒヤヒヤだったもんな!」

若い撮影スタッフがピザを頬張りながら、「あんなんだった」雪見の様子を振り返る。


「ホント、俺も『マジかよ、こいつぅ!?』とか思ったもん。

事務所が押してる意味がわかんなかった。

だって、猫カメラマンでしょ?はっきり言って、ド素人でしょ?」


「それが…。」 

二人が声を揃えて言ったあと、店の真ん中のテーブルに健人達といる雪見を見た。


「綺麗だったよなぁ、本当に。白樺林に溶け込んで、森の妖精みたいだった。」


「うん!歌もめちゃくちゃ上手かったし!でも33歳なんだって?

惜しいよな、年が…。もうちょっと、若かったら良かったのに。」

残念そうな二人の後ろから、突然声が覆い被さった。


「33歳の、どこがいけないわけっ?」


「な、夏美さんっ!」

振り向くと、ワイングラスを持った夏美が仁王立ちになっている。

ピューッと二人は、散り散りになって逃げ去った。


「ほんっとに近頃の若いもんは!何でも若けりゃいいと思ってんだから!

あら、常務!お疲れ様です!出張から真っ直ぐこちらへ?」

今来たばかりの小野寺が、スタッフからワイングラスを受け取り、夏美の元へ歩み寄る。


「あぁ、早くみんなの顔が見たかったんでね。で、若いもんがどうしたって?

いや、まずは乾杯しよう。お疲れ!」

二人はにこやかにグラスを合わせた。


「監督にチラッと話を聞いたよ。いいのが撮れたって。えらいご機嫌で安心した。

小林も良く頑張ったな!結構大変だっただろ?彼女。」

小野寺が、笑いながら雪見の方を振り返る。


「えぇ、まぁそれなりに。でも…彼女には楽しませてもらいました。

常務にも感謝してます。私にこんな仕事をくださった事…。」

夏美は束の間に見た夢を思い出し、いつもの表情とは違う穏やかな顔をして

小野寺に微笑み返した。


「珍しいな、お前から感謝されるなんて。今夜は雪でも降るのかな?」


「失礼な!私、入社前から常務には、感謝しかした事ありませんけど?」

そう言ってまた夏美が笑う。

小野寺は、いつになく夏美が笑顔でいることが嬉しかった。


「じゃあちょっと、今日の主役三人組に挨拶してくるかな。」

雪見たち三人のテーブル周りには、たくさんの人が集まっていたが、

常務が近付いて来たとわかると、皆さっと場所を空けてくれた。


「よっ!お疲れ!無事終って良かったな!」

ワイングラスをかかげて、一人ずつと乾杯する。


「ありがとうございます!なんとかクリアしましたっ!

まぁ俺と健人は、芝居に関しては本業だから問題なかったんですけど、

この人が…ね。」

当麻がニヤニヤしながら、隣の雪見に視線を移した。


「なによっ!私なんか、本番で一度もNG出してないでしょ!

アンタ達二人でしょ、いきなりNG出したのはっ!

常務ぅ!聞いて下さいよ!この二人…。」

雪見が小野寺の腕にしがみつきながら、撮影中の様子を訴える。

が、その瞬間、小野寺はおやっ?と思った。


「おいおい!もう早酔っぱらってんのか?まだ始まったばかりだぞ!

どんなピッチで飲んでんだか、まったく。」

呆れ顔で雪見の腕をほどきながら、健人に小声でささやいた。


「どうやら雪見は熱がありそうだ。適当な所で雪見を連れて先に帰れ。

あとは俺と当麻で繋いでおくから。ちゃんと看病してやれよ。」


「えっ!?」


雪見が熱を出していたことにも驚いたが、もっと健人が驚いたのは、

小野寺が二人の同棲を、知ってるかのような口ぶりだったことだ。

事務所でその事を知っているのは、二人のマネージャーと当麻だけのはず。

いや、自分の思い過ごしか?親戚として、家まで送って看病しろって意味なのか?


まさか真意の程を直接聞くわけにもいかず、健人はモヤモヤを抱えたまま、

さりげなく雪見の手を握って熱の具合を確かめた。


「熱っ!ゆき姉っ!」 

あまりの高熱に、思わず健人が大声を上げてしまう。


『まずい!熱があること、みんなにばれちゃう!』

雪見は、次に発しようとしてる健人の言葉を阻止すべく、とっさに芝居をする。


「やだなぁ、健人くん!そんなにあの時の私の演技、熱かった?

NG出さないように、私だって必死だったんだから!」

と、かなり苦しい芝居だったが…。


結局雪見は、「先に帰ろう!」と言う健人の忠告も聞かず、一次会の最後まで

笑顔で平静を装い、いつも通りに酒を飲んだ。



「よっしゃあ!じゃ、二次会はみんなでカラオケ行くぞー!

雪見ちゃんの歌を聞きたい奴は、ついてこーい!」

監督が上機嫌で場を仕切るが、健人はこれ以上雪見を連れ回す訳にはいかないと、

慌てて待ったを掛ける。


「すみませーん、監督!ゆき姉、飲み過ぎちゃって、もう駄目みたいでーす!

俺、家まで送って来るんで、みんなで先に行っちゃってて下さい!」


「あれ、ほんとだ!ずいぶん真っ赤な顔しちゃって!

かなりの酒豪って聞いてたけど、さすがに今日は飲み過ぎたか!

じゃ、当麻の歌を聴きたい奴は、ついてこーい!」

みんなが楽しそうに、ワイワイとお喋りしながら店を出る。

雪見と健人の元に、当麻と小野寺がさり気なく近づき声をかけた。


「こっちの事は心配すんな!俺たちに任せて早く帰れ。

健人も、今日はもう戻って来なくていいからな!これは業務命令だ!

それと雪見!あんまりムリすんなよ。

小林が謝っといてくれ!って。ずいぶんと寒い格好させられたんだって?

自分のせいで熱出したって、済まなそうにしてたよ。」

小野寺の言葉に雪見はびっくりした。


「夏美さんのせいなんかじゃありません!私の自己管理が悪かっただけです !

夏美さんに伝えておいてもらえますか?

夏美さんのお陰で、『YUKIMI&』に成り切る覚悟が出来た、って。

感謝してるって、伝えて下さい。」

真剣な顔で訴える雪見に、小野寺は笑顔で答える。


「よし、わかった!伝えておくよ。これからはどんな格好でもOKだってね!」


「えーっ!そういう意味じゃありませんからぁ!」



四人の笑い声がキラキラ輝く星になって、夜空に溶けてゆく。

これから踏み出す新たな世界へと、ギュッと絆を一つに結んで…。


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