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結果報告飲み会

「お待たせー!焼き鳥だけじゃ、腹の足しにもなんなかったろ。すまんすまん!

お祝いだから、どっさり作って来たぞ!全部喰ってから帰ってくれよ。」

マスターが料理を、雪見がビールを持って戻ってきた。


「どっひゃー!こんなにいっぱい喰わせて、俺らを太らせる気してる?

けど育ち盛りだから、そんなこと気にしないもんねー!

マスター、ありがとう!いっただきまーす!

うっめー!!これ最高!ビールにめちゃ合う!健人も喰ってみ!」


「どれどれ、一口ちょーだい!

ホントだ!マジでヤバイ!ビールがガンガン進んじゃう!

あ、ゆき姉は程々にね。あさってのPV衣装、着れなくなったら困るでしょ?」


「なに、PVって、もしかしてプロモーションビデオのことぉ!?

この雪見ちゃんが、そんなの撮るの?信じらんねぇ!

だってつい何ヶ月か前まで、猫の撮影旅行帰りにすっぴんのボロボロ肌で、

カウンターで飲んでた人だよ?そんな奴がPVに出るなんて…。」

マスターはまたしても、ウルウルした瞳で雪見を見てる。


「俺、浅香雪見のファンクラブ会長になっていい?この店で毎日PV流してお客にCD売るから!」


「はいはい、ありがとね!マスターの気持ちと、このお料理だけは有り難く頂いておくから。

ほら、お客さんが呼んでるよ!行った行った!」


マスターが部屋を出たあと、三人はふぅぅ…とため息をついた。

早く本題に入りたいのに、なかなか先に進まない。



「しばらくは、マスター来ないと思うから。じゃ、今日の話し合いの結果報告。

あのね…。うーんと…。何から話せばいいんだろう…。」

雪見は、オーナーの正体をバラしていいものか困った。

それについては口止めされるでもなく、かと言って話していいとも言われてない。

取りあえず、そこには触れずに話を進めよう。


「結論から言うと、私はオーナーを継ぎません!

て言うか、オーナーから失格宣言を受けちゃった。まぁ、よく考えれば

当り前な話なんだけどねっ!」

雪見が笑いながら、ジョッキを半分ほど一気に流し込む。


「失格宣言って…。どういうこと?なんで向こうから頼んでおきながらそんな…。」

健人が複雑な表情をしてる。何も無かった事になったのは嬉しいが、

それと同時に押された失格の烙印。一体自分の彼女の何が駄目だというのか。


「あー、またまた健人くん、そんな顔しちゃって!別にどーってことないの!

健人くん達だって、役のイメージとは少し違うって、オーディションに落ちたことあるでしょ?

それと同じ。ただオーナーが希望する人物じゃなかったってだけのこと。」


雪見があまりにもサバサバとしてるので、「だったらいいけど…。」と健人は言うしかない。

が、当麻は違った。


「じゃ、誰がオーナーを継ぐのさ!みずきが必死に捜してるのに!」


雪見は、本当は自分から断ったとは言えなかった。

相手から断られた事にした方が、波風が立たないと思ったのだが…。


その時、雪見のバッグの中でケータイが鳴り出した。

「え?みずきさんからだ!電話、出てもいい?」

健人と当麻が無言でうなずく。


「もしもし、みずきさん?どうしたの?何かあった?」

雪見は、宇都宮の容体が急変でもしたかと、ドキドキしながら聞いた。


「私に頼み?今?健人くんと当麻くんとご飯食べに来てるとこだけど…。

ちょっと待ってて、聞いてみる。

みずきさんが、二人にも話したい事があるって…。これからここに来てもいいか?って。」

健人と当麻が、何事だろう?と顔を見合わせた。


「いいよ。見つからないように変装して来い!って言って。」

当麻がすぐに返事する。


「いいって!おいでよ!お客さんに見つかると大変だから、変装して来てね!

これからお店の場所、メールで送るから。今病院なの?タクシーで十五分もあれば着くと思う。

うん、待ってる。気をつけて来てねっ!じゃ!」

雪見は嬉しそうにニコニコしてた。頼みのことなど、少しも気に留めないで…。


「ゆき姉にまた頼みなの?なんなの、一体。頼んだり断ったり…。」

健人がまたイラッときてるのが判った。


「いいの、健人くん。私で出来る頼みなら、今は何でも聞いてあげたい。

きっとオーナーの事だと思うから…。」


しばらくの間、三人の空間がシーンと静まり返える。

ふすまの向こうから聞こえる、店の喧噪だけが耳に鳴り響いた。

ふと、雪見が我にかえって立ち上がる。


「みずきさんが来ること、マスターに伝えて来なくちゃ!

あの人、すぐビックリする人だから、突然会ったら絶対お店で大声上げちゃう!急げ !」

慌ててスリッパが脱げそうになった。


「なに慌ててんの?ビールならいくらでもあるから、心配すんなって!

あ、料理全部喰われちまった?あの二人、痩せの大食いだからなぁ!

羨ましいよ、まったく。こっちはすーぐ中年太りだ!あんな若い頃が懐かしい!」

マスターは忙しそうにつくねを焼いてるが、相変わらず喋る方も忙しい。


昔の雪見もそうだったが、一人で寂しく飲む時はマスターが話し相手で気が紛れるのだが、

誰かと一緒にカウンター席に座って、マスターのお喋りに付き合わされると、

友達との会話もままならない。

まぁ、そんな気さくなマスターが大好きで、いつも店は大盛況なのだが。


「マスター、耳貸して!あ、お客さん、中ジョッキ二つね!」

雪見がカウンターの中に入り、忙しいマスターに代わって、前の席に座るカップルに

ビールを注いで手渡す。


「マスター、静かに聞いてね。あのね、これから…。」

両手はつくねをひっくり返しつつ、頭だけ雪見の方へ傾けたマスターに、

ごにょごにょと耳元でささやく。と案の定、「嘘だろー!!」と大絶叫!


「シーッ!声が大きい!すみませんねぇ、お客さん!ビックリしたでしょ?何でもないですから。」

雪見が、驚いた顔のさっきのカップルに、頭を下げて微笑んだ。


「お願いだから、本人が来ても平然としててね!

お客さんにバレたらどんな騒ぎになるかは、もう体験済みだよね?

だったら、くれぐれもよろしく!」

みずきが来たら部屋に案内してと耳元に言い残し、雪見はカウンターを出る。


「ちょっとちょっと、雪見ちゃん!俺一人で待ってるわけぇ?

やっべぇ!ヒゲ剃ってくればよかった!お客さん、俺の顔汚れてない?」



マスターが一人で右往左往してる頃、このビルの正面に一台のタクシーが止まった。


もちろん中から颯爽と降り立ったのは、超人気国際派女優 華浦みずき本人である。


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