私がカメラマンになった訳
私が沖縄へ放浪の撮影旅行に出かけ、半年ぶりに東京へ戻って2ヶ月ほどたった去年の6月。
母からの電話で、ちっちゃいばあちゃんが亡くなったことを知らされた。
ちっちゃいばあちゃんは、十年前に亡くなった私の祖母の一番下の妹で、私のことも自分の孫のように可愛がってくれていた。
「えっ!ちぃばあちゃんが亡くなったの⁈
いつ?いつ亡くなったの?」
「ちょうどあんたが沖縄から戻る少し前。4月の始めに亡くなったのよ。」
「どうして?どうしてすぐに教えてくれなかったの!」
声を荒げながらポロポロと涙が溢れる。
「だって、あんたは忙しそうだったから。
沖縄にいても全然連絡よこさなかったし、こっちに帰ったら帰ったで、家にも顔出さないし。」
「しょうがないでしょ?私だって必死に仕事してるの!
撮影終わったらすぐあっちこっちに売り込んで、出版までこぎつけないと食べてけないんだからっ!」
母を責めながら、本当は自分を責めていた。
なにやってんだろ、私…
大学を出てから、取り敢えずは適当なところに就職したが、そこには私の居場所は見つけられなかった。
心の片隅に、ずっと昔から住み着いていたもの。
なにかの拍子にぴょんと顔を出す、記憶の中の温かな風景。
…そうだ。
私はきっと、写真を撮りたいんだ。
あの頃の父さんみたいに、ファインダーをのぞいて笑顔になりたいんだ。
やっと見つけた光に向かって、私は迷わず専門学校に入り直した。
カメラマンになるためにむさぼるように勉強し、色々なものを被写体にシャッターを切り続けた。
専門学校を卒業後、中堅出版社に就職。カメラマンのアシスタントとして仕事をするようになってからも、ずっと答えを探しながら暮らしていた。
私はいったい、何を撮りたくてカメラマンになったのだろう…。
私が小学校四年の時に亡くなった父も、またカメラマンであった。
父は子供が大好きで、世界中の子の笑顔を撮り歩いては帰国し、写真集を出版した。
決して豊かとはいえない服装をしている子供たち。
だけど瞳はキラキラと輝き、カメラを通して父の目を力強く射抜いてる。
今でこそ父の想いがわかるのだが、あの頃子供だった私は、その写真の中の子供たちに父を盗られたような気がして、素直にそれを眺めることができなかった。
だから父が撮影旅行から戻ると、私は父を独り占めしたくて駄々をこねる。
「ねぇねぇ、いっぱい写真とって!」
本当は山ほど仕事があっただろうに、いつも父は娘のわがままを聞いてくれた。
幸せそうに満面の笑みを浮かべてたくさんのシャッターを切り、自分で小さな写真集に仕上げて私にプレゼントしてくれるのだった。
今は亡き父の笑顔を思い出し、私もあとを辿るようにカメラマンに。
そして、やっと撮りたいと思うものに出会うことができた。
それは 猫。
しかも 野良猫。
昔から我が家には必ず犬がいて、てっきり自分は犬派だと思い込んでいた。
だが ある日、弟が拾ってきた薄汚れた子猫に心を鷲掴みにされる。
なんだろう、この目。
か弱いけれども、キラキラ輝くお星様みたい…
…あ!
父さんの写真に見た、あの子たちと同じ輝きの目だ!
すっかり野良猫に魅了された私は、母の反対を押し切ってフリーカメラマンになり、猫を撮すためだけに日本中を旅して回った。
が、それだけでは食べていけないので、旅から戻ると結婚式場でカメラマンのバイトをし、資金を稼いでは次の旅に出るという暮らし。
今回の沖縄でも、たくさんのかわいい猫に出会えた。
だが少しだけ、こんな生活に疲れも感じ始めてる。
そうだ。
ちぃばあちゃんちも、家族みんな猫好きだっけ。
私の撮ってきた猫たちで、少しはみんなを慰めてあげられるかな。
そう思い付いて、私は大急ぎで編集作業を再開した。
「もしもし、母さん?私だけど。
お願いがあるの。
私を、ちぃばあちゃんちに連れてってくれないかな。
どうしてもお線香をあげたくて。
ちぃばあちゃんに見てほしいものがあるから…」
そして私はそこで彼と、運命的な再会をしてしまうのだった。