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秘密のデート

雪見のレコーディングまで、あと三日。

あれから大人しく過ごしたお陰で喉の調子も元に戻り、ホッと一安心と言ったところだ。


だが、健人は一安心どころか、昨夜から眠れぬまま朝を迎えた。

それもそのはず、今日は健人と当麻のユニット『SPECIAL JUNCTION』の

レコーディングが、雪見より一足先に行なわれるのだ。


「健人くん、全然寝れなかったでしょ。一晩中寝返り打ってたもんね。

体調は大丈夫?朝ご飯、何か食べたい物ある?」


「ごめん、今日は野菜ジュースだけでいいや。

あー、ヤバいっ!心臓が壊れるかも知れない。どうしよう!」


俳優業に関しては常に堂々としていて、決して弱音を吐かない健人だったが、

歌う事に対してだけは未だ自分の中で自信を持ちきれず、イケメン俳優

斎藤健人とは別の人物になってしまってる。

どうしたものかと雪見も思案中。そうだ!いいこと考えた!


「ねぇ、今日の集合って一時だよね?真っ直ぐ車でスタジオ送るから、

これからちょっと出掛けない?」


「え?こんな朝っぱらから、どこ行くの?」


「秘密のデート!」


雪見は半ば強引に健人に身支度させ、自分も準備を整えて車で家を出発した。

「ねぇ、デートったって、どこ行く気してんのさ?

まだ七時半でしょ?ヘタな所へ行っちゃうと、通学途中のファンに見つかるよ!」


「大丈夫!絶対見つからないとこだから!」


しばらく車を走らせてるうちに、健人は静かに寝息を立て始める。

無理もない。仕事で疲れてたはずなのに、一睡も出来ないで朝を迎えたのだから。

『ちょっとだけ寝ててね。着いたらビックリさせてあげる。

レコーディングまでの間、少し気分転換した方がいいよ。』



雪見は街中の、ある地下駐車場へと車を滑り込ませた。

「健人くん、起きて!着いたよ 。」


「うーん…。ここって、どこ?」

まるでどこにでもある、普通の地下駐車場だ。


「確かこっちだったような…。あ、ここだ!健人くん、このエレベーターに乗って!」

雪見に背中を押され、訳も解らずに乗り込む。

すると雪見が手の中の何かをボタンの下にかざし、B2を押した。

たった一階上っただけでエレベーターのドアが開く。


「着いたよ!」


「え?うそ…。ここ!」

健人の目の前に、薄暗いながらも見覚えのある光景が広がった。

なぜ?と思いながらゆっくり足を進めて降りる。


「だから秘密のデートって言ったでしょ?絶対見つからないって。ねっ!」


なんとそこは、閉店中の『秘密の猫かふぇ』であった!



「えーっと、この辺りに照明のスイッチがあるはずなんだけど…。あ、あった!」

パチッ!と全部のスイッチを入れると、ぱぁーっと空間に明かりが広がった。


「どういう事?なんで閉店中なのに入れるの?」

健人の頭の中は疑問だらけで混乱してる。

そりゃそうだ。雪見に珍しくデートに誘われて、慌ただしく家を出て来たと思ったら、

予想もしてなかった場所に自分が居るのだから…。


「二日前にみずきさんから手紙が届いたの。

改装工事が終ったから、一度お店を見てじっくり考えて、って。

オーナー専用カードキーも入ってた。会った時に返してくれればいいって。

このカードキー以外では、閉店中は直結エレベーターが動かないらしい。

だから、今日は私達だけが入れるの。

ほんとは、来ないでカードを返すつもりだったんだけど…。」


「それって…もう決めたって事?」


「いや、最終的にはこれから見て決める。あと三日だもん、もう心を固めなきゃ。

早く決めて、レコーディングに集中したいの。健人くんもそうでしょ?

さ、時間がもったいないから見て回ろう!

猫ちゃんがいないのは残念だけど、二人の貸し切りデートだよ!」

そう言いながら雪見は健人の手を取って、店の奥へと歩き出した。



「あ、ここ雰囲気変わったね!前はもっと渋い感じだったけど、私の好きな

ナチュラルインテリアに変わってる!

見て見て!こっちには大きなキャットタワーが出来たよ!」


健人たちのお気に入りのコーナーは、壁紙を替えただけでそのまま残されていた。

「あー良かったぁ!ウォーターベッドのスペースはそのままだ!

ここが無くなってたら、どうしようかと思った!」

健人が嬉しそうに、ベッドにダイブする。

「気持ちいいっ!サイコー!!やっぱ、このベッド欲しい!

ねっ、今度の給料出たら二人で買おうよ!これさえあれば、絶対毎日熟睡できるって!」


雪見も健人の隣りにごろごろ転がってゆく。

「そうだね。健人くんって割と眠りが浅いから、このベッドだったらいいかも。

けど、これいくらすんの?めちゃ高そうだけど。

斎藤健人のお給料と浅香雪見のお給料じゃ、社長と平社員ほどの違いがあるんだからねっ!」

ベッドの上に頬杖を付いた雪見が、健人を覗き込みながら真面目な顔して言う。


「じゃあ俺がプレゼントするよ!っつーか、自分の為に買う!

やっぱ、睡眠不足はイカンわ。頭は回らないし顔もボロボロ!

プロとしてこれじゃダメだなって思った。もっと自分に投資しないとって。」


「えらいっ!さすが斎藤健人!

じゃ私も健人くんに投資したげる!ベッド代一万円!」


「えーっ!一万じゃベッドカバーも買えないよ!まっいいか!」


二人は笑いながらじゃれ合いながら、ベッドの上でいっぱいお喋りをした。

めめとラッキーの事。つぐみの進学の事。しばらく顔を出してない『どんべい』の事etc

このあと控えているレコーディングの話題には、あえて一切触れずに…。


そのうち健人がまたすやすやと眠り出す。

雪見は「おやすみ。一時間経ったら起こしに来るからね。」とささやきながら

そっと頬にキスをした。


健人を起こさぬよう静かにベッドを降り、身体にジャケットを掛けてあげる。

それから雪見は一人で、店の奥へ向かってゆっくりと歩き出した。

見て歩くと言うよりも、歩きながら自分の気持ちと対話したかったのだ。


自分の中で、大まかな答えが出ている事はわかってる。

ただ、それが正しい答えなのかを知りたくて、ここへ来た。

雪見は途中にある革張りの大きなソファーに腰掛け、長い時間考え事をしてから

ポン!と膝を叩いて立ち上がる。


「よし!決めたっ!」


健人が眠るベッドまで、誰もいない店内を思いっきり走った。


「健人くん、起きて!お腹空いたからご飯食べに行こうよ!」

中々起きない健人をキスの嵐で起こす。


私の「今」は、この人のために!と思いながら…。


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