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突然の訪問者

「ピンポーン♪」


朝八時。インターホンが鳴った。

だが一晩中雪見を看病し、明け方やっとソファーに横になった健人は、起きる気配もない。


「ピンポーン♪ピンポーン♪」


「はぁ?誰?こんな朝っぱらに…って、もう八時かよ!

やっば!あと一時間で迎えが来るじゃん!

えーっ!誰だよ。ゆき姉を起こすわけにもいかないし…。」

健人は渋々、寝ぼけ眼でインターホンを見た。


「はい…。うぅえーっ!?なんでやねん!嘘だろぉ?

しかも、なんでここの暗証番号知ってんの?っつーか、もうそこに立ってるし!」

健人は眠気もぶっ飛び、一人で慌てふためいた。

寝室の雪見はチャイムにも気付かず、まだ寝ている様子。


「やばいぞ!大丈夫か?俺。

そう!ゆき姉を看病しに、昨日の夜からここに居ることにしよう!

落ち着け、健人!」

深呼吸を二度してから、玄関の扉をそーっと開ける。


「よぅ!」


「お兄ちゃん!!なんでゆき姉んちにいるのぉ!?」

扉の向こう側に立ってたのは、なんと健人の妹のつぐみであった!


「ねぇ!なんでここにいるの?ゆき姉は?」


「あぁ、ゆき姉ね!昨日の夕方から凄い熱出しちゃってさ。

心配だから、俺が看病しに来たってわけ。

って、お前こそ、こんな朝っぱらから何しに東京来たんだよ!」

健人は、自分が突っ込まれる前に、つぐみに突っ込む作戦に出た。


「私?友達と買い物に来たの。ゆき姉が、こっちに来たら寄りなさい、って。

友達はそこのマックで朝マックしてる。ねぇ、それよりいつまでここに立たされてるわけ?玄関にも入れてもらえないの?」


「あ、ごめん。いいよ、入って。」

健人は意を決してつぐみを迎え入れる。が、速攻で窮地に陥った。


「お兄ちゃん、ブーツを五足も持って看病しに来たんだ。へぇーっ。」

しまった!と思ったところでもう遅い。

自分の部屋のドアを締めることしか頭に無くて、玄関に並べてあった靴にまで気が回らなかった。


「あっ、あぁこれね…。俺のマンションの靴箱、狭くてさぁ!

入りきらないから、ここに置かせてもらってんの。

今度引っ越す時は、もっと靴箱のでっかいとこ捜さなきゃ。」


「ふーん…。」


心臓が止まるかと思った。よくぞ咄嗟に満点の言い訳ができたと、自分に感心する 。

しかし、そんな子供だましの言い訳が通用するほど、いつまでも妹は子供ではなかった。


「お前さぁ、人んちに来る時はちゃんと連絡してから来いよ。」

冷蔵庫から取り出したオレンジジュースをグラスに注ぎながら、健人は兄の顔して言う。


「人んち、って、ここお兄ちゃんちなわけ?」


「違うッ!そうじゃなくて、よそんちに行く時は、って意味だっ!」


つぐみがリビングの中をキョロキョロ見回すので、健人は気が気ではない。

まぁ、昨夜から泊まり込みで看病してる事になってるので、多少健人の私物があったとしても、

どうにか誤魔化すことは出来るだろう。


「ばっかじゃないの!?小学生じゃあるまいし。私だって、それくらいの常識はあるわよ!

ゆき姉に何回メールしても返事が無いから、心配になって来たのに。

ゆき姉は?どこで寝てるの?」


「あぁ、こっち。まだ熱は下がり切ってない。

今日はゆき姉レッスンだけだから、一日寝かせておく。

ゆき姉、入るよ。つぐみが来たんだけど…。」

そーっとドアを開けると、雪見は目を覚まして驚いた。


「つぐみちゃん!ビックリした。どうしたの?」


「私の方がビックリしたよ!ゆき姉。

近くまで来たからメールしたけど返事が無いし、なのに下の郵便受けには

部屋にいるって合図が出てるし。

倒れてるかと思って上がって来たら、お兄ちゃんが居るし!

まぁ、本当に倒れてたけど…。」


「はぁ?部屋にいる合図って何?

しかも、なんでオートロックの暗証番号、お前が知ってんの?」


「私が前に教えてあげたの。

郵便受けに猫のマグネットが付いてたら、部屋に居るよって。

ありがとね、気にしてくれて。でも、せっかく来てくれたのにごめん。

身体がだるくて、まだ起き上がれないや。」

つぐみが雪見の額に手を当てて驚いた。


「ゆき姉!まだ、めっちゃ熱があるけど!

もうすぐレコーディングなんでしょ?今日は病院行った方がいいよ。

私が一緒に行ってあげる!お兄ちゃんはこれから仕事だよね?」


「うん、まぁ…。けど、友達が待ってるんだろ?」


「大丈夫。四人で来たから、私一人がいなくても。

そうだ!今日は私が泊まって、ゆき姉の看病をする!

だからお兄ちゃんは、仕事終ったら安心して自分んちに帰っていいよ。」


「ええっ!?帰っていいって…。」

戸惑う健人を見て、雪見がクスクス笑いをこらえてる。


「つぐみちゃん、ありがとう。

じゃ、健人くんが仕事に出掛けたら、病院まで付き合ってくれる?

けど夜は、もう私一人で大丈夫だから。

せっかく受験勉強の息抜きに来たんだし、お友達とのショッピングを楽しんでおいで。」


「本当に大丈夫?」


「大丈夫だよ。つぐみちゃんの顔見たら、元気が出てきた。

けど、病院だけは付き合ってね。私、どうも昔から病院が苦手で…。」


「ゆき姉にも苦手な事ってあるんだ!いいよ、わかった。

友達とは、午後からどっかで合流することにする。

お兄ちゃんはもうすぐ仕事でしょ?早く準備しなさいよ!」


「そうだった!じゃ、あとはゆき姉のこと頼んだぞ。」


「任せなさい!」


そう言ってつぐみはドンッ!と胸を叩く。

いつの間にか大人になったもんだと、健人が感慨深げだ。



健人が九時に仕事に出たあと、雪見も病院へ出掛ける準備をする。

昨日は確か、着替えも化粧落としもせずに寝ちゃったはずだが、いつの間にか

ルームウェアに着替えてあるし、化粧も落としてあった。

『まったく記憶に無いけど、健人くんだ。ふふっ、大変だったろうなぁ…。』

雪見は鏡を見ながら、悪戦苦闘している健人を思い浮かべ、ぼんやりとそう思う。



タクシーを拾い、つぐみと共に病院へ。

以前健人がインフルエンザにかかった時に行った、事務所の芸能人御用達、

人目に付かなく空いてる病院へ、今野が電話を入れてくれていた。


「過労からきた発熱でしょう。喉の痛みは声帯の急激な使い過ぎによるものかと思われます。

薬を飲んで安静にしてると、何日かで治まるでしょう。

じゃ、今日は点滴しますね。」


「えーっ!点滴ですかぁ!?」



雪見は注射が大ッ嫌いであった。


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