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初めてのプレゼント

「ほーんと、当麻って惚れっぽいでしょ?

なんだけど、あんまり長続きはしたためしが無さそうね。健人とは正反対だわ。」


「さっすが、みずき先生!何でもお見通しで!

どうしたら俺の恋愛は、上手くいくんでしょうか?」


「まぁ、当麻が当麻である限り、ぶっちゃけ難しいかなっ?」


「そりゃないよ!どうにかしてぇ!」


お腹が一杯になり、ビールからワインに切り替えた当麻は、良い感じに酔いが回ってる。

健人が心配であまりグラスの空かない雪見を気遣い、少しでも気が紛れるようにと

バカばっかり言ってるのが、みずきにはよくわかった。


雪見も二人に申し訳なく思い、出来るだけ笑顔を見せて頑張ってる。

だが、目はチラチラと時計を見たり、玄関先の物音に耳を澄ませたりしていた。

健人の帰りを、ただひたすら待っているのだ。



しばらくして、みずきが突然「あっ!帰って来た!」と叫ぶ。

が、まだ当麻たちには何の音も聞こえない。

雪見が時計に目をやると、みずきが言ってた丁度二時間後だった。


それから程なくしてガチャッ!と玄関のドアが開く音がし、「ただいまぁ。」と

小さく健人の声がした。


「帰って来たっ!」


三人がバタバタと玄関先に集まって来たので、腰掛けてブーツを脱いでいた健人が

一瞬ギョッとした顔で振り向いた。


「お帰りなさい。」

雪見が、あえて何事も無かったかを装って、いつもと変わらぬ調子で出迎える。


「よう!お帰り!腹減っただろ?

俺の作った鍋、健人の分をみずきに喰われる前に、ちゃんとキープしといたぞ!」


「失礼ね!私、そんなに大食いじゃないからっ!」


ゴチャゴチャやってる当麻とみずきを横目に、健人は雪見の手を引っ張って

「話がある。」と寝室に連れて行き、ドアを閉めた。


「健人、頑張れっ!」みずきが微笑みながら呟く。

「何を頑張るの?」 

当麻がニヤニヤしながら言ったので、みずきはペシッ!と頭を叩いた。

「変なこと、想像するなっ!」




「そこに座って。」健人が雪見を再びベッドに座らせる。

「なに?」

「いいから、目をつぶって。絶対開けないでよ!」


雪見が目を閉じたのを確認して健人は足元にひざまずき、ポケットから何やら小箱を取り出した。

その中から小さなひとつをつまみ上げ、膝の上にある雪見の左手を取る。


「目を開けてもいいよ。」「なんなの?」

その瞬間、健人が雪見の左手薬指にスーッとシルバーのリングをはめた。


「えっ!健人くん!これ…。」


「俺の今の気持ち。

どうしたらゆき姉に伝わるかなって一生懸命考えたけど、これ以外、思い付かなかった。

俺さ、プレゼントとかサプライズとかって、どうも苦手で…。

本当はビックリするくらい喜ぶ物をあげたいって、いつも思うんだけど

あれこれ考え過ぎて、結局は何にも買えなくて。

ゆき姉は指が細いから、6号サイズでおしゃれなデザイン見つけるの、

めっちゃ大変だったんだぜ!」

健人が照れ隠しに頭をかきながら、一気にまくし立てた。


みずきが二時間前、「見つけて戻って来るから!」と言ったのはこの事だったのか。

健人からもらった初めてのプレゼントを、雪見は不思議な気持ちでただじっと眺めている。


「ゆき姉。これ、俺の指にもはめて。」

小箱の中にはもうひとつ、デザイン違いの大きなリングが入っていた。


「指輪の内側読んでみて。」

大きなリングの内側には、『YUKIMI LOVE』と彫られている。

雪見が自分のリングを外し内側を見てみると、『KENTO LOVE』と彫ってあった。


照れ屋の健人が、誰もが知ってるイケメン俳優斎藤健人が、どんな顔してブティックに入り

これを注文したかを想像すると、可笑しくて嬉しくて泣けてきた。


「なに、泣き笑いしてんの!ほら!早く俺にもはめて!」

健人が差し出す左手を手に取り、雪見がそっとリングを薬指に通す。


「指輪貸して。もう絶対に外しちゃ駄目だからね!」

雪見のリングを再び受け取り改めて薬指に通すと、健人は「愛してる!」

と雪見を抱き寄せ、熱い口づけをした。


もう何も迷わない。ただひたすら健人の愛を信じて、ついて行こう!




二人が照れくさそうに、当麻とみずきの待つリビングへと戻って来た。

「ごめんねっ!大層ご心配かけました。もう私達、大丈夫だから!」


「ねぇねぇ!なんで二人とも照れてんの?なんかいいこと、した?」

当麻のにやけた質問に、みずきからひじ鉄がお見舞いされる。


みずきはすぐに、二人の薬指に輝くリングを目で確かめ、心から安堵した。

「良かった!ねぇ、お祝いにもう一度乾杯しよう!カンパーイ!」


健人と合わせたグラスで、やっと薬指に気付いた当麻。

「え?うそっ!?健人たち、結婚しちゃったのぉ!?」


「んなわけ、ないだろっ!誓いの指輪だよ。二人の愛を誓う指輪!

なんでお前の話は、いつも飛躍しちゃうわけ?」


「けどさ、薬指はまずいんじゃない?絶対マスコミに突っ込まれるって!」

当麻が自分の事のように心配する。だが健人の表情に迷いは無かった。


「別にいいよ、突っ込まれたって。

さすがに、まだゆき姉の名前を出せる時期ではないけど…。

でも、大切な指輪だって事は、堂々と伝えるよ。」

健人は雪見の瞳を真っ直ぐに見つめて、ニコッと微笑んだ。


「そう!さっすが健人!あんたは見た目と違って男らしいわ!

良かったね!雪見さん。健人は私が太鼓判を押すから、安心して付いて行ってねっ!

それに引き替え、当麻はもうっ!」


みずきが、「しょーがない奴!」と言いながら当麻を見る目が、雪見には何だか違って見えた。

当麻も、みずきと話す時のテンションが、ここへ来た時とは明らかに違う気がする。


『もしかして、もしかする?だったら全力で応援しちゃうけど!』



その時、はっ!と思い出した。みずきが今日ここへ来た理由を…。

こんなにも親身に応援してくれたみずきの願いを、そろそろ聞いてやらなければ。


「みずきさん!今日は私に何かお願い事があって来たんだよね。

ごめんね、私達の事でドタバタしちゃって。

本当は聞くのが怖かったんだけど、もう何があって も大丈夫!

私には、健人くんが付いててくれるから!お話、聞かせてもらえる?」


雪見が少し緊張した面持ちで、みずきの向かいに座る。

みずきの隣りにごく自然に当麻が座り、雪見の隣りは勿論健人が座った。


「あのね…。」みずきがおずおずと話し出す。


雪見の緊張感が隣の健人にも伝わってきた。

そっと手を伸ばし、雪見の左手をギュッと握り締める。



この指輪がゆき姉のことを、全力で守ってくれるから…。


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