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アーティスト初仕事

「よっ!お疲れ!当麻、早かったじゃん!もう終ったの?CM撮影。」

スタジオに到着した健人が、すでに来ていた当麻を見つけ嬉しそうに歩み寄る。


「うん!この仕事が楽しみだったから、NGなしで頑張った!あれ?ゆき姉は?」


「メイク室で変身してるよ、『YUKIMI&』にね。

そうだ!当麻、知ってた?『秘密の猫かふぇ』休業中だって!」


「うそっ!?マジで?いつまでの休業?俺、来週にでも三人で行きたかったのに!」

初耳だった当麻は、信じられない!という顔をして驚いた。


「張り紙はしてあったけど、詳しい事はなんにも書いてなかった。

どうしたんだろ、いったい…。」

三人にとって大事な大事な場所だったのに。

健人は何事も無く、また開店の日が来ることを祈っていた。


「そうだ!今度、俺のドラマのゲストにみずきが来るんだ!

今週の木曜あたりの撮影だったと思うから、会ったら聞いてみる!

あいつならなんか知ってるだろうから。」


当麻が言ってる『みずき』とは、今は海外でも活躍してる女優の華浦みずきの事。

以前『秘密の猫かふぇ』で、祖父であり大俳優でもある津山泰三と一緒にいる所に出会い、

雪見、健人と三人でドンペリをご馳走になったことがある。

そのみずきの祖父は、『秘密の猫かふぇ』オーナーの大親友で、みずきにとっては

オーナーが第二のおじいちゃん!と言っていた。

だが、確かあの時オーナーは入院中で、あまり思わしくない状態にみずきが涙してたはず…。


健人も当麻も、みずきの名前によってあの日の事が蘇り、二人同時に最悪の事態を

思い浮かべてしまった。


まさか…ね。



その時だった。

ガチャッ!という音の後にドアが開き、メイクをして衣装に着替え終った雪見が入って来た。

三月一杯まで『ヴィーナス』の吉川編集長が、進藤と牧田を雪見専属ヘアメイクと

スタイリストに付けてくれたのだ。

『YUKIMI&』のキャラクタープロデュースを担当する夏美と、何度も打ち合わせをした二人は、

今日の雪見も完璧に仕上げてくれた。


一瞬、ざわついていたスタジオに静寂が訪れる。

その場にいた雑誌記者や撮影スタッフが、初めて会った『YUKIMI&』に

目を奪われていた。


「ヒュ〜ッ!さっすが進牧ペア!ゆき姉を知り尽くしてるもんね。まご…。」


「馬子にも衣装!って言いたいんでしょ!当麻くん。」

雪見がじろっと当麻をにらむ。


「ち、違うって!まごまごしてられないから、俺たちも着替えようって、

健人に言おうとしたの!健人、俺たちも早く準備してこよう!」

そそくさとスタジオを出てメイクルームに向かおうとする当麻の後を、

健人が笑いながら付いて行く。


雪見とすれ違いざま、「めっちゃ可愛いよ!今すぐチューしたいくらい!」

と健人が耳元でささやいたので、

雪見は誰かに聞かれはしなかったかと、ドキドキしながら辺りを見回した。



健人と当麻の準備も終わり、いよいよアーティストとして初めてのグラビア撮影開始!

今日はこのスタジオで、音楽雑誌一誌と芸能月刊誌二誌の取材と撮影を、順番にこなす。


まずは音楽雑誌のグラビア撮影。巻頭見開きで三人が載るそうだ。

本当は雪見と健人たちは、まったく違った活動をする予定なのだが、

なぜかどこの取材も、三人セットでの依頼だったらしい。

まぁ、事務所的にもその方が、無名の雪見を売るには都合がいいし、

雪見たちにしたって三人一緒だと、心強いし楽しかった。


この音楽雑誌には雪見はもちろんの事、健人と当麻も初登場なので、

カメラマンを始めその場にいたライターやスタッフ一同、全視線が三人に注がれる。

だが、三人でのグラビア撮影は石垣島で経験済みだし、雪見も今では

『ヴィーナス』のモデル並みに仕事をこなせるまでになっていたので、

次々と息の合ったポーズを決め、グラビア撮影に関しては何の問題もなく終了。

撮影が終った後も、誰もが三人の格好良さに見とれたままだった。


その後はスタジオ隅にある応接コーナーに移動し、インタビューに突入する。

インタビュアーは二十代後半の女性。

健人と当麻に会うために、思いっきりキメて来ましたぁ!という印象だ。

案の定、二人の方ばかりを見て、少しも雪見とは目を合わせようとはしない。

だがこんな状況にも、近頃雪見は慣れっこだ。

いちいち憤慨していたのでは身が持たないと悟ってからは、随分と気が楽になった。



「まずはCDデビュー決定、おめでとうございます!今のお気持ちを聞かせて頂けますか?」


当麻  ありがとうございます!今はもうワクワクしてますね。

    早くレコーディングしちゃいたい!

健人  俺は正直言って、つい何時間か前までは不安だらけだった。

    ドラマも映画の撮影も詰まっているのに、その上アーティスト活   

    動なんて無理じゃないか、って。自分にそんな能力があるとも思   

    えなかったし…。

    けど、ここに来る前にある人に助言されて、気持ちが切り替わっ   

    た。今は早くツアーに行きたい!

当麻  え?そこまで変わる?(笑)


「誰ですか?そこまで健人くんの気持ちを変えたのは?」


健人  秘密!教えてあげない。俺の人生において、重要な鍵を握ってる

    人である事は確かです。

当麻  お母さんかなぁ?お父さんかなぁ?(笑)

雪見   ……。(無言)


「じゃ、デビュー曲について教えて下さい。」


当麻  待った!その前に、まだゆき姉の感想聞いてないでしょ!

    俺たち三人でツアーするんだから、ゆき姉の存在は重要ですよ!


「し、失礼しました。雪見さんの今のお気持ちは?」


雪見  んー、私にあんまりかまってくれなくていいです!

    どうせ大した事、話せないし…。

当麻  ダメダメ!『YUKIMI&』がそんなキャラじゃ!

健人  そうだよ!一緒に頑張るって、さっき約束したじゃないか!

雪見  だって…。



どうにも雪見のテンションが上がらぬまま、一本目の仕事は終了してしまった。

あと二本の取材が待っている。

ため息をつく雪見に、健人と当麻は何か秘策を思いついたようだった。


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