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つかの間の休息

今朝の朝刊に大々的に三人が取り上げられ、いよいよ慎重に行動しなければならなくなった健人と雪見。

マンションの地下駐車場を出る時が要注意と、雪見が辺りを見回しながらアクセルを踏み込み、

黒縁眼鏡にキャップを被った健人は、助手席のシートを倒して身体を低くした。


「もう起きても大丈夫だよ、健人くん。見つからないで出れたから。」


「ほんとに?あー、ドキドキした!週刊誌のカメラマンが大勢いたらどうしようかと思った!」


「誰も私になんか興味ないって!それよりお腹空いた!朝ご飯にしよう。」

助手席に座ってる健人が、サンドイッチを包みから一つ取り出して、

運転中の雪見の口に入れてやる。


「うーん、美味しい!飲んだ次の日の朝ご飯が美味しいなんて、健康的だなぁー!

そう言えば、前に健人くんちに泊まりに行った時も、車ん中でサンドイッチ食べたよね?」


「あぁ、家で真夏のチゲ鍋パーティーやった時ね。

あの帰り道にゆき姉が、俺に告ったんだよねっ!」

健人がサンドイッチを頬張りながら雪見の顔を見て、にやっ!と笑った。


「それ、一生言おうとしてるでしょ!

私からすれば、まんまと健人くんの誘導尋問に引っかかったと思ってるんですけど。」

雪見が口を尖らせて言ったが、健人は真剣な目をして雪見を見てる。


「あの日があったから、今一緒に暮らしてるんだよね、俺たち。

なんか夢見てるみたいだな。ゆき姉と毎日一緒にいれるなんて。」

最後はちょっと照れて、健人は窓の外を見た。

そんな健人が可愛くていとしくて胸がキュンとした雪見は、何か気の利いた返事を捜したが、

口から出てきた言葉は照れ隠しに素っ気なかった。


「なに言ってんの!夢だったらこまるでしょ!

それより、おばさんに電話入れた?これから行くって。」


「あ!まだしてない!まぁ留守でも鍵あるし…。」


「だめっ!ちゃんと電話入れないと。つぐみちゃんもいるかなぁ?

日曜だから朝からデートにでも出掛けてるかな。」


「ないない!あいつに彼氏なんているわけないから!」

健人は妹の話となると、途端にお兄ちゃんの顔になる。


「つぐみちゃんだって、いつまでも子供じゃないんだよ!

春には大学生かぁ!早いなぁ。ほら!いいから電話、電話!」


残念ながらおばさんはいなかった。

昨日から、おじさんの単身赴任先に出掛けてるらしい。

つぐみがいて、「待ってるよ!」と言っていた。


途中、通りがかったケーキ屋さんに寄り、美味しそうなケーキを買って健人の自宅へ。



「ただいまぁ!つぐみぃ!ケーキ買ってきたぞー!」


「お帰りー!」パタパタとつぐみが二階から降りてくる。

久しぶりに会う妹に健人は、嬉しいくせにそんな顔は見せない。

相変わらず、お互い憎まれ口を叩き合う。


「お前も暇だねぇ!日曜だってのに家にいるんだから!」


「受験生に日曜は関係ないの!それより、なんで急に帰って来たの?

お母さんだって、もっと早くに電話くれてたらお父さんの所行かなかったのに、って言ってたよ!」

おばさんのがっかりした顔を思い浮かべ、可哀想な事をしたと雪見は思った。


「仕方ないだろ!今朝突然思いついたんだから。」


「今朝思いついて、ゆき姉に迎えに来てもらったわけ?

随分と偉そうな芸能人になったもんね、お兄ちゃんも。」

まさか二人が一緒に暮らしてるなど、夢にも思っていないつぐみは、

朝っぱらから健人が雪見を呼びつけたと思い、兄のわがままを雪見に詫びる。


「ごめんねぇ!ゆき姉。いっつもお兄ちゃんが迷惑かけてるんでしょ?

ゆき姉だって暇じゃないのにね!

ラジオでゆき姉の歌、聞いたよ!デビュー決定おめでとう!

もう、みんなに自慢しまくっちゃった!私の親戚なんだよ!って。

サインいっぱい頼まれちゃったから、今度お願いねっ!」


「おいっ!お前の兄ちゃんもデビューするのに、おめでとうの一言もないわけ?冷たい妹だ!」


「だって、お兄ちゃんの歌はたかが知れてるもん!

まぁ、当麻くんと二人でやれて良かったね!ぐらい?当麻くんのお陰でそこそこは売れるかな?」


「てっめー、言いたい放題言いやがって!とっとと二階上がって勉強しろってーの!」


「はいはい!ケーキ頂いて邪魔者は消えるわ!ゆき姉、ゆっくりしてってね!」

つぐみはお皿を三枚出し、その内の一枚に大好きなミルフィーユを乗せ、

牛乳をグラスに注いで自分の部屋へと上がって行った。


「ふふっ!つぐみちゃんもケーキには牛乳なんだ。健人くんと同じ!」

雪見はつぐみが可愛くて仕方ない。

つぐみと話してるお兄ちゃんぶった健人の顔も、大好きだった。


「いいよなぁー、妹!私も妹が欲しかった!」


「あんなんでいいなら、ゆき姉にやるよ!そのうちね。」


「えっ?どういうこと?」


「い、いや別に…。あ!それより俺たちもケーキ喰お!

今、コーヒー入れて来てあげる!ほんっと、あいつは気が利かないんだから!

ゆき姉にコーヒーぐらい、入れてから行けっつーの!」

そうブツブツ言いながら、健人はキッチンに消えて行った。


雪見が座るソファーの隣りに、虎太郎とプリンが先を争うように飛び乗る。

よしよし!と二匹の頭を交互に撫でながら、さっき健人が言った言葉の意味を何となく考えた。


『別に深い意味はないか!そうだよね、あるはずはない!』


お待たせ!と言いながら、健人が雪見にコーヒーを運んで来る。

自分には牛乳を、大きなグラスに入れて持って来た。


「ありがと!なんか、健人くんにコーヒー入れてもらうの初めてかも?

料理は無理でも、コーヒーは入れられるんだ。味わって飲まなくちゃ!」


「大袈裟な!俺だって、コーヒーぐらい落とせるさ!

だって、水とコーヒー豆セットするだけじゃん!

ねぇ。ゆき姉は俺が当麻みたいに、料理が出来た方が嬉しい?」

健人がケーキを口に運びながら、雪見の顔を伺う。


「え?料理?料理は私が好きだから、出来なくても全然何とも思わないよ。

それより部屋の片付けを、もう少し頑張って欲しい!自分の部屋だけでもいいから。」


「うーん、それは厳しい!生まれ変わらないと無理かも?

でも嫌いにならないでね、俺のこと。」


「あははっ!そんなことぐらいで、嫌いになんかならないって!変なの!健人くん。」


健人は安心したように、コタとプリンを二匹膝に乗せる。

二匹も久々の健人の温もりに、安心しきって目を閉じた。



幸せな光景は、写メして永久に保存しておこう。


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