衝撃見出し!
クスクスッ!「おっこるだろうなぁ、ゆき姉!」
あれっ?なんか健人くんの笑い声がしたような…。
夢の中で聞こえたのかなぁ?
なんか飲み疲れて、目が開かないや。うわぁ、頭も痛ーい!
お寝坊さんの健人くんが、私より先に起きるわけないし…。
まだ目覚まし鳴らないから、もうちょっと寝てようっと。
デビュー記者会見の翌朝。
雪見は昨夜の飲み過ぎがたたって、まだベッドの中にいる。
昨夜の記者会見は雪見がデビュー曲を歌い終わったあと、大変な騒ぎとなってしまった。
ただの酒飲みのお姉ちゃん!ぐらいに雪見を見ていた記者達は、まず
『WINDING ROAD』の声量あるパンチの効いた歌声に聴き惚れ、次に
『君のとなりに』のささやくようなウィスパーヴォイスに驚く。
誰もが聞いたこともないのに、なぜかマリア様のささやきが頭に思い浮かび、
自然と涙が頬を伝った。
おじさん記者も、雪見を煙たがっていた女性記者も、健人も当麻も…。
会見が全て終了した時、記者達は少々ふらつく足で先を争うように出口へ向かい、
それぞれの社へと大慌てで戻って行った。
「何としてでも明日の朝刊に間に合わせなければ!久々の大発見だぞ、これは!」
一気に会場から人が居なくなり、残された健人たち三人と小野寺や三上らは
呆気にとられたあと、なぜか可笑しくなってみんなで大笑い。
「よしっ!残った酒で打ち上げだ!」
三上の音頭でお疲れ様の乾杯をし、『ヴィーナス』編集長の吉川を始め
進藤、牧田らスタッフも含めて全員が、三人のデビューに向けて全力で
サポートすることを誓い合う。
雪見たちも、「悔いが残らないように頑張ろうねっ!」とお互い心を一つにした。
笑い声の絶えない、楽しい打ち上げのあとには…二日酔いが待っていた。
最悪だぁ…と思いながら、雪見はベッドの中でうつらうつらとしている。
半分寝てるような、起きてるような…。
だがさっきから、どうも健人の気配を頭の辺りで感じる。
クスクス笑ったり独り言を言ったり…。
え?えっ?まさか…!?
「うっそぉ!?健人くん、もう起きてるの!?やだ、寝坊しちゃった!
なんで起こしてくんないの!早く朝ご飯作らなきゃ、仕事遅れちゃう!
あ痛たたっ!最悪だ…。頭は痛いし寝坊はするし…。」
雪見が一人で慌てふためいているというのに、なぜか健人は余裕の表情で
ベッドに腰掛け、新聞を読み散らかしている。
「おはよ!ゆき姉。なに一人で慌ててんの?
今日の仕事は夕方からだって、昨日常務が言ってたじゃん。」
「うそ!?そうだっけ?今何時?」
「今?六時だよ。」
「なんで健人くんがそんな時間に、私より先に起きてんの?」
「これだよ、これ!朝刊が楽しみで寝てなんていられないから!
朝っぱらから走ってコンビニ行っちゃった!
あ、いっぱいサンドイッチ買ってきたから、朝ご飯はそれでいいよ。
ゆき姉はまだ寝てていいけど、これだけ見てから寝て!」
そう言いって健人は、ニコニコしながらベッドの上に散らかしたスポーツ紙を集めて、
眼鏡と共に雪見に手渡した。
ボーッとしてズキズキと痛む頭に手をやりながら、見出しに目をやる。
「『健人&当麻+変幻自在化け猫カメラマン、デビュー決定!』って、ちょっと何よこれ!
こっちは『猫を被った歌姫YUKIMI&』って、ひどすぎない?
なんでどこも猫扱いなわけっ!?」
雪見は一気に寝ぼけ眼が覚めた。
怒りまくる雪見を見て、健人がお腹を抱えてベッドの上を笑い転げる。
「やっぱ怒った!思った通り!」
「あったりまえでしょ!これ、怒らない人いる?」
「まぁまぁ!ちゃんと中の記事読んでみなよ。どの新聞もゆき姉のこと、大絶賛してるから。
俺と当麻のことも、褒めてくれてた!『見た目だけじゃなく、実力も充分な二人』だって!
スポーツ紙の見出しなんてインパクト第一なんだから、その点から言えば
満点のインパクトでしょ!
大体ゆき姉が自分の事、猫カメラマンって呼ぶからだよ。
俺のことだって写してんだから、ただカメラマンでいいのに。」
「それにしたって、あんまりだぁ!」
雪見は嘆きながらも新聞記事に目を通す。
読んでみると、確かにどの記事にも雪見の事を「奇蹟の歌声」とか「久々の超大型新人現る!」
とか、褒め言葉が並んでいた。
が、スポーツ紙が褒めて終る訳はなく、その他にも酒豪だの、話し言葉と歌声、
見た目のギャップが激しいだの、好き放題書かれている。
まぁ、完全否定できないのが悔しいが…。
しかしただ一つ胸をなで下ろしたのは、どこにも健人と雪見の関係を疑う記事が
載っていなかったこと。
どの新聞も、健人と雪見は仲の良い姉弟のような親戚同士と伝えていた。
「良かったぁ!私達のこと、どこにも書かれてなかった!
どうにかお芝居がバレないで済んだ。」
ホッとしたら、また眠気が襲ってきた。
雪見がベッドにバタンと寝転がって目を閉じると、健人がその隣りに転がって、
チュッとほっぺたにキスをした。
「ねぇ!せっかく夕方まで仕事ないんだから、久しぶりに二人でどっか出掛けようよ!
この先はびっしり仕事が詰まってるから、半日も休めるのは今日だけだって、
今野さん言ってたよ!」
健人が雪見を寝かさないようにと、何度もキスをする。
「うーん。どこ行きたいの?健人くん。」雪見がベッドに寝ころんだまま伸びをした。
「コタとプリンに会いたい!実家に取りに行きたい物がある。」
「えっ?取りに行きたい物って?」雪見が上半身を起こし、健人に聞いた。
「秘密ぅ!ねっ、これから出発すれば仕事に間に合うよね?高速飛ばして行けばさ!」
「うん、まぁ…。よっしゃ!じゃあ久々に埼玉までドライブでもしてきますか!
その代り、そんなにものんびりしてられないからね。
日曜だから道路混んでるだろうし…。」
「わかった!じゃ早く準備して!いや、準備なんていいや。そのまま出掛けよう!」
健人が今にも玄関を飛び出しそうな勢いだったので、雪見は慌てた。
「たんま!私に十五分だけ時間を頂戴!大至急準備するから、健人くんはその間、
ラッキーたちに餌をあげて!」
「OK!任せて!」
雪見は大急ぎで着替えて顔を洗い、化粧をする。
冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、健人が買ってきたサンドイッチと共に鞄に入れた。
さぁ!少々痛い頭は気にせずに、二人だけのドライブに出発だ!