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今野の心情

健人たちは今野を『どんべい』に連れてってやろう!と意見がまとまりタクシーへ。


「はぁぁ…。それにしても忙しい日だったね。けど、課題曲が上手く歌えたから

一つはクリアしたって感じ。」

健人が、疲れたけれど満足!と車のシートに身体を預ける。


「三上さんたち、もう帰れたかなぁ?なんせゆき姉の歌が反響凄すぎ!

俺たち今日歌わなくて良かったよね!」

当麻が健人に同意を求めると、健人は「ホントホント!」とうなずいた。


「お前達が今日デビュー曲を歌ってたら、それこそ三上さん、朝まで帰れなかったぞ!

課題曲であの反応だ。明日の会見以降、お前達のデビューは相当な話題になることは間違いない。

一気に取材が殺到するから覚悟しとけよ。」


「今野さん、脅かさないで下さいよ!デビューは嬉しいんだけど、

これ以上スケジュールがきつくなるのだけは勘弁して欲しいなぁ。」


「なに贅沢なこと言ってんだよ!

世の中には、どんなに努力したって売れない奴の方が、絶対に多いんだぞ!

お前達二人は成功組なんだから、多少の事は我慢しないと。」


「はぁーい…。あれ?この人、また一人でなんか考え込んでる。」

健人が、隣りに座る雪見の顔を覗き込む。


「だって…。健人くんは心配じゃないの?さっき夏美さんが言った言葉…。」

雪見はそれだけが気がかりで、本当は酒を飲むような気分ではなかった。


「はい、わかりました。」と返事だけしておいて、苦手なタイプでも我慢して

マネージャーになってもらった方が、後々良かったのではないか?

彼女を怒らせた事によってこの四人が、同じ事務所の中に敵を作って

しまったのではないか?

だとしたら、自分は当事者だから仕方ないにしても、あとの三人には

なんの落ち度もないのに、また迷惑をかけてしまう…。


「雪見ちゃん、大丈夫だよ。そんなこと、タレントが心配する事じゃない。

マネージャー交代は、俺が勝手にしたことであって、雪見ちゃんは一切

関わってないんだから。何も心配しなくていい。」

タクシーの助手席に座った今野が、前を向いたままそう言った。


「あ!運転手さん、その角曲がってすぐでいいです!」



タクシーを降り立った四人は人目に付かぬよう、サッとビルの地下へ。


「居酒屋『どんべい 』?また、随分と渋い好みだなぁ!

三上さんにでも連れて来てもらったのか?」

店の暖簾の前で、今野が健人に聞いてみる。

すると、健人と当麻が同時に雪見を指差し、「ゆき姉!」と答えた。


「あー、なるほどね!」 


「なるほどね!って、なに納得してるんですか!失礼しちゃう!

ここは今野さんが思ってるような、オヤジっぽいお店じゃありませんよーだ!

ほんと、なんでマスター、こんな店名にしたんだろ?

私の趣味まで疑われちゃう!」

ぶつぶつと独り言を言いながら、雪見を先頭に暖簾をくぐる。



「いらっしゃい!よう!久しぶりだね。三人とも元気そうで何よりだ!

新しいお客さんも、ようこそ!最初はビールでいいだろ?

すぐに持ってくから、部屋に入りな!」

マスターは相変わらず威勢が良い。

金曜の夜とあってほぼ満席状態だが、マスターの前のカウンター席だけは

客が帰ってすぐらしく、まだジョッキや皿が片付いていなかった。


小上がりに続く通路を歩きながら今野が、「随分おしゃれな店じゃないか!」と驚いてる。

だから言ったでしょ!と、雪見が得意顔をした。



マスターがいつも通り、ビールとおまかせ料理をテーブル一杯に運んで来る。

まずは今日の課題曲大成功と、明日の記者会見が無事終了することを祈って乾杯!


「うめーっ!今日のビールは特別旨いわ!」健人が一気にジョッキ半分を喉に流し込む。


「ホント、生き返ったぁ!俺、課題曲が緊張して喉カラッカラだった!」

さすがの当麻も、今日の課題曲はいつもの月なんかと比べものにならないほど緊張したらしい。


しばらくはお腹と喉が落ち着くまで飲み食いし、それから明日の打ち合わせに入る。


「多分、一通りの形式的なやり取りが終った後、どっかの記者から必ず三人の関係について、声が上がるだろう。

事務所は、外部からの質問は一切受け付けない方針だが、俺は、上がった声を

すべて無視するのも、どうかと思うんだよね。」

今野が、ビールのあとの芋焼酎をロックで飲みながら話を続ける。


「俺はね、今は昔と違うんだから、アイドルだって恋愛したって大いに結構!と思うわけ。

でもな、会社としてはそんなこと、大っぴらにされちゃ売り上げに大きく響くから、

もちろん面と向かって許せるわけはないんだよ。

けどな!じゃあなんで常務がお前達に、あんな名前を付けてくれたと思う?

『YUKIMI』のあとに読みもしない『&』を付けたんだぜ!

ツアータイトルも『絆』だよ?俺は初めて聞いた時、感動したよ!

さすがは若き次世代の常務!頭の堅いお偉いさんどもとは別格だ!ってね。」


「ま、まさか今野さん、健人たちに明日の記者会見で、付き合いを公表しろ!

とか言うんじゃないよね?んなわけ、ないか!あははっ!ごめん。」

当麻が笑いながらビールを飲み干す。


「いや、そう言う展開も有りなんじゃないか、って事。」

「嘘でしょ!?」健人たち三人は、一様に驚きの声を上げた。


「今野さん!酒のピッチ早いですって!いくら何でも明日の会見で、そりゃないでしょ!」

当麻が、隣りに座る今野の背中をぺしっと叩く。


「痛ってぇ!あれぇ?俺が思ってる以上にお前らって常識人っつーか、根性無しなわけぇ?

もっとさ、若いんだから今までの芸能界の常識を

ぶっ壊してやる!ぐらいの勢いはないの?」


「どうしちゃったのさ、今野さん!今日はなんか変だよ?

なんでそんなに俺たちのこと、気にしてくれてるの?」

健人は急に今野の事が気がかりになってきた。


「いや、別に…。ただ健人と雪見ちゃんには、ずっと幸せでいて欲しいから。

誰かに引き裂かれる前に、しっかり絆を結んで欲しいから…。」

今野はそう言いながら酔い潰れ、テーブルの上に突っ伏して寝てしまった。


「絶対変だよね、今野さん…。ねぇ、今日は家に泊めてあげよう。

私、今野さんの奥さんに電話入れておくから。」

だが、いくら雪見が今野の自宅へ電話をしても、誰も出ることはなかった。



この時は、なぜ今野がそんな話をしたのか不思議に思ったが、家に誰もいないのは、

奥さんが子供を連れて実家にでも遊びに行ったのかな?ぐらいにしか思わなかった。


後に及川から、今野が奥さんと別居した、と聞かされたのはレコーディング前日の事だった。


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