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マネージャー交代

事務所の入ったビルの前にも報道陣はいたが、守衛さんががっちりガードしていて

セキュリティーも厳しいので、混乱になることはなかった。


真っ直ぐ会議室に行くとまだ誰もいないので、今野が小野寺を呼びに会議室を出て行った。

しばし三人だけでおしゃべりを楽しむ。


「ねぇ。常務、俺たちのユニット名、なんて付けてくれたかな。」

健人が当麻に聞いてみる。


「かっこいい名前だといいね。なんかドキドキしてきた、俺。」

雪見はすでにアーティスト名を付けてもらったが、健人と当麻は今日、

名前をもらうことになっていた。


「私は明日の会見の方がドキドキだよ!一体私に何を話せって言うの?」


「それをこれから打ち合わせするんじゃん!大丈夫だよ。俺も当麻も一緒なんだから。」



そこへ「待たせたな!」と言いながら、常務の小野寺が入って来た。

三人とも背筋がピンと伸びる。

小野寺の後に続いて今野…ともう一人、雪見の知らない女性が入って来た。

誰?と思っていると、健人と当麻が同時に「夏美さん!」と声を上げた。


「お疲れ様!二人とも頑張ってるようね。」

その、美夏さん!と呼ばれた女性は、健人たちに向かって柔らかな微笑みを見せる。

誰なんだろう、この人…。


「紹介しよう、小林夏美くんだ。

彼女には今日から、雪見ちゃんのマネージャーを務めてもらう。」


「えっ!私のマネージャーさん、今野さんじゃなくなるんですか?」

雪見が驚いた顔をして、小野寺を見た。


「今日の反響からすると、明日の記者会見以降、取材申し込みなど

仕事が殺到するのは間違いない。

この先、今野一人で二組のアーティストを担当するのは不可能だ。

だから小林に急遽、雪見ちゃんのマネジメントをお願いした。

彼女はここ何年か、タレントのマネジメントからは遠のいて、俺の片腕として

サポートしてもらってたんだが、こんな緊急事態だ。

来年三月まで、マネージャーに復帰してもらう。」


「よろしくね、雪見さん。けど明日からは雪見、と呼び捨てにさせてもらうけど。

常務も、いつまでもちゃん付けで呼んでちゃダメですよ。

彼女はもう立派な、うちのアーティストなんですから。」


雪見は一瞬で、彼女が只者ではないことを察知した。

年齢は雪見より少し上の35、6か?

美人でグラマー、口元のホクロがセクシーだが、冷酷なやり手ビジネス

ウーマンといった印象を受ける。

常務に意見できるのだから、かなりの人物と見た。

が、困ったことに、雪見の一番苦手とするタイプでもある。


本当にこの人が、私のマネージャーに?


「マネジメントは、彼女に任せておけば完璧だ。

年も近いし、公私に渡って力を貸してくれることだろう。」

小野寺の話に、また彼女が意見する。


「公のマネジメントは完璧だとは思いますけど、私生活に関しては私、

常務や今野さんみたいに甘いこと、一切言いませんから。

特に男関係の乱れてる新人には、容赦なく指導入れるんで、そのつもりで。」

そう言いながら、最後に雪見を見て意味ありげに微笑んだ。


絶対に健人との付き合いを指していると思った。当麻との関係も…。

だが彼女は雪見の反応を確かめるかのように、視線を外さない。

雪見は、猫ににらまれたねずみのように、身動き一つ出来なくなっていた。


「相変わらず手厳しいなぁー、夏美さんは。

雪見ちゃんは俺がここまで面倒見てきたんだから、この後もよろしく頼みますよ。

お手柔らかにねっ。」

今野が、雪見を猫から逃がしてやろうと助け船を出す。

だが夏美は、豊かな胸の前で細い腕をしなやかに組み、

「相変わらず甘いなぁ!今野さんは。」と一瞬だけニコリとしたが

そのあとの瞳は、一つも笑ってはいなかった。


雪見も健人も、当麻や今野さえも大変な事になってしまった…と思い、息を潜める 。



「さあ、時間が無い!明日の打ち合わせに移ろう。」

小野寺の一声で、話題は明日の記者会見になる。


健人と当麻のドラマ撮影の都合で、会見は夜九時から行なわれることに決まった。

場所は『ヴィーナス』編集長吉川の口添えで、健人の写真集記者会見が行なわれた

出版社の大ホール。かなりの報道陣の数が見込まれていた事もあるが、

三人がデビュー後に行なわれる、五大都市ツアーのスポンサーが

『ヴィーナス』でもあるので、その告知も兼ねていた。


「会見は小林の司会で行なう。彼女ならどんな不測の事態にも対応出来るからな。

基本、外からの質問は受け付けないことにして、こっちで用意した質問を小林がして、

お前達三人が答えると言う型式で進めたい。 」


「常務!肝心な事、まだ聞いてませんけど。

俺たちのユニット名と、デビュー曲の題名、早く教えて下さい!」

当麻が、早く聞きたくて待ちきれない、と言った様子で小野寺に催促する。


「おぉ、そうだった!小林、あれを配ってやってくれ。」「わかりました。」


それは明日の記者会見で来場者に配る、三人のプロフィールやデビュー曲の題名、

アーティスト名などがまとめられた資料であった。


「俺たちのユニット名は…『 SPECIAL JUNCTION 』(スペシャルジャンクション)

デビュー曲は…『キ・ズ・ナ』だって!

ユニット名、メチャかっこいい!」

当麻が大声を出して喜んだ。


「スペシャルジャンクションって直訳すると、特別な接合点って意味ですよね。

なんか、ユニット名もデビュー曲の題名も、俺と当麻の関係を表したいい名前だなぁ。

ありがとうございます!素敵な名前を付けて頂いて。」

健人が小野寺に向かって頭を下げる。


「でな。三人の全国ツアー名は、二つの名前が合体して

『YUKIMI&SPECIAL JUNCTION 絆 2011』に決定した。

『YUKIMI&』の『&』は、ここで健人たちにつながったわけ。」

小野寺が、「ナイスだろ?」と自慢げに言うと、健人たちは「すっげー!」と驚いた。


「これ、明日予定している質問だから、しっかり目を通しておいて。」

男たちの無邪気な戯れを横目に、夏美は表情一つかえずに淡々と打ち合わせを進める。


「いい?いきなり最初から、スキャンダル発覚!なんて事にはならないように、

くれぐれも頼んだわよ。」

夏美の言葉が、健人と雪見の胸を貫いた。



どうなっちゃうの、私たち…。


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