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緊急告知

「おっはよーございまーす!」 


健人がやっと到着した。入ってくるなり、テンションが高い。

何か良いことでもあったのか?


「お疲れ様!ずいぶんとご機嫌じゃない?健人くん、なんかあった?」

雪見がすかさず健人に聞いてみる。


「11月のスケジュールもらったんだけど、一日だけ休みがあったから

もう、メッチャ嬉しくて!ゆき姉も、15日は休みを取ってよね!」


「えーっ!健人、休みもらえたの?俺、また一日も休み無かった…。」

当麻ががっかりした顔して言う。


「良かったね!年内はお休みもらえないと思ってた。」


「俺も!でも、その後はしばらく休めなさそうだから、覚悟しとかなきゃ。

あれ?当麻は?なんでマネージャーんとこ行ったんだ?」


ガラスの向こうで当麻が、マネージャーの豊田に両手を合わせて、

何かをお願いしている。

その姿を見て、雪見はすぐにピンときた。

必死にお願いする当麻の姿が、なんともいじらしい。


「なにやってんだろ?当麻。」 

健人が不思議そうな顔をしたので、香織の話を教えてやった。


「え?そうなの?じゃ、あとは当麻が15日に休みをもらえれば、

ダブルデートが実現できるってわけ?そう!それであんなに必死なんだ。

けど、当麻は俺よりスケジュール詰まってるからなぁ…。

豊田さんにお願いしたって、無理なんじゃね?」


「まぁね。けど取りあえずは全力でお願いしてみるとこが、当麻くんらしいじゃん。」



そこへ三上が入ってきて、本日の打ち合わせがスタート。


「今日は大事な事が二つある。一つめはもちろん課題曲の録音だ。

課題曲は番組のエンディングで歌ってもらう。

一発録りだから、みんな準備だけはしっかり頼むぞ。

打ち合わせが終ったら、すぐに最後の音合わせをしてくれ。


もう一つ、こっちの方が今日は重要だ。

さっき、健人たちの事務所と打ち合わせた結果、今日の放送内で急遽、

三人の来年1月5日CDデビューを、発表することに決まった!」


「ええーっ!?今日、いきなり発表しちゃうんですかぁ!?」


三人が驚くのも無理はない。

報道各機関にも、まだどこにも発表していないのに、いきなりラジオで告知するなんて!

来月20日のレコーディング後に発表と聞いてた三人は、まだしばらくは

のんびり生活できると考えていたのだが、今日発表となると明日から、

いや放送直後から生活は一転するだろう。

きっと蜂の巣を突いたような騒ぎになることは、間違いない。


三上が言葉を続ける。。

「今日の放送は、当麻と健人のファンのみならず、今までこの放送を聞いたことの

なかった層にまで口コミで広がって、三人の歌は今、相当な注目を集めている。

だから今日、本人たちの口から直接発表するということは、マスコミが

事務所の公式文書をそのまま発表するよりも、はるかに衝撃的だろう。

もちろん明日にはマスコミ各社に正式発表をするがな。


『誰よりも先に、ファンのみんなに自分たちの口から直接知らせたかった。』

そう伝えるんだ。きっとさら に一生懸命応援してくれることだろう。」


「えーっ!てことは、課題曲が上手く歌えなかったらすべてが台無しと言うか、

下手したら前評判ガタ落ちで、デビュー後の人気にも影響が大きいじゃないですか!

こんなことしてる場合じゃない!早く音合わせしないと!」


当麻たちは焦っていた。

こんなことになるのなら、もっと真剣に三人で歌い込めば良かった!と。

いつも思うのだが、どうもタレントというのは、会社の中の一つの駒に過ぎないらしい。

現場の都合で駒をあっちに動かされたり、こっちに動かされたり。

そこに駒の都合などは、まったく関係ないのだ。


健人は、『あぁ、これで休みは無くなった…。』とぼんやり思った。

いつものことだと諦めようとする自分に、ずいぶん大人になったもんだと苦笑いをする。


「よし!そうと決まったら、やるっきゃないでしょ!

絶対に完璧に歌うからね!健人くんも当麻くんも、気合い入れて歌ってよ!」

雪見は、健人が何を感じているのかを読み取れた。

だから自分が二人の気持ちを盛り上げていかないと、モチベーションが下がって

いい歌など歌えないと思った。


「そうだね。みんなが俺たちのデビューを、ワクワクして待っててくれるような

そんな『WINDING ROAD』を歌おう!じゃ、ギリギリまで練習、練習!」

当麻も気持ちを切り替えて、その場の空気を盛り上げる。

健人はやっと微笑んで、「よっしゃ!やりますか!」と椅子から立ち上がった。



♪ 曲がりくねった道の先に 待っている幾つもの小さな光

  まだ遠くて見えなくても一歩ずつ ただそれだけを信じてゆこう


三人は、出だしだけを何度も何度も繰り返し歌う。

ここさえ完璧に歌えれば、あとは問題ない。


「もうここまで来たら、お互いを信頼して楽しく歌おうよ。

自分たちが楽しんで歌えば、多少コケたってみんなに伝わるさ!」

当麻の意見に二人とも賛成だった。


「そうだよね。それにさ俺たち、元々は俳優とカメラマンなわけだし、

みんなだってそのつもりで聞いてるよ、きっと。

だから失敗しても、『まぁ良くやった!』と思ってくれるだろうし、

成功したら、『凄い凄い!』って褒めてくれるだけさ。」

健人が笑って言った。


雪見は、二人がそう言ってくれて、少し気が楽になる。

健人と当麻の人気に傷を付けてはいけないと、いつの間にか肩に力が入っていた。


「良かった!そう思っててくれるなら、私も失敗を恐れずに、力一杯歌うことが出来る。

そうそう!私はなんたって猫カメラマンですから!

もし失敗したら、『誰よ?猫カメラマンなんかに歌わせたのは!』って、

三上さんのせいにしちゃおうっと!」

雪見が笑いながら三上に視線を向けると、ガラスの向こうで三上が首をすくめた。



「よーし!じゃあそろそろスタンバイして!

デビューの告知は、こっちで流れを見て指示出しするから。

リスナーの反響を知りたいんで、わりと早めのタイミングで告知になると思う。

伝えなきゃならない事は、そこに書いてある通り。

それだけきちんと告知したら、あとはそれについて、三人で自由に喋ってかまわないよ。

当麻、頼んだぞ!上手くリスナーを盛り上げてくれ!」


「OK!まかせて下さい、三上さん。絶対にみんなの記憶に残る放送にしてみせるから!

じゃ、よろしくお願いしまーす!」



いよいよ、運命の時間がやって来た!


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