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エンジェルとキューピッド

健人と雪見が同居を始めてから一週間。

今日10月29日(金)は、いよいよラジオで課題曲を発表する日。

そう、『当麻的幸せの時間』の中で三人に出された課題曲『WINDING ROAD』を

初めてラジオで披露する日なのだ。


ここ一週間、健人と当麻はなんせ仕事が忙しく、デビュー曲のレッスンさえもままならない。

よって課題曲の練習も、三人で合わせたのはいつだったっけ?と言う状態だった。



その日の朝。

昨夜も遅くまでドラマの撮影が続いていた健人を、七時過ぎまでは

寝かしておいてやろうと、雪見はそっとベッドを降りる。

今日は八時に今野が迎えに来る予定。

健人は、「美味しそうな匂いに起こされるのが夢だった!」らしいから

毎日雪見は早起きして朝食を用意する。


準備が整ったところで健人を起こしに寝室へ。

毎朝のお楽しみは、起こす前に健人の寝顔をじっくりと鑑賞すること。


翼の折れた天使が飛び立てずに疲れ果て、ここで寝てしまったのか?

そんな錯覚を覚えるほどに、綺麗で可愛い寝顔を独り占めできるのは、

『神様、ありがとう!』と、天に感謝しなければ罰が当たる。


一時間でも二時間でも眺めていたいのは山々だが、いい加減にして起こさなければ!


「健人くん、朝ご飯出来たよ!起きて!」

「うーん…。もう朝なの?」 天使のお目覚めだ。


だが、この天使は少々寝起きが悪い。

別に低血圧って訳でも無さそうだが、パッと飛び起きたためしがない。

しばしベッドの上でゴロゴロし、自然と覚醒するのを待つ。

その間、雪見もベッドに上がり、一緒に隣でゴロゴロするのは

至福のひとときと言わずして、なんと言おう。


「今日はいよいよ、課題曲発表する日だよ!

後半、あんまり三人で合わせる時間無かったから、なんか心配。」


雪見は、朝のこの時間に大体のスケジュールを確認したり、意志の疎通を図ったりする。

健人の仕事が忙しい為、思いの外、二人でゆっくりと語らう時間が持てない。

だから毎朝のこの『ベッドごろごろタイム』は、二人がすれ違いにならない為にも、

貴重で大切な時間なのだ。


「大丈夫だよ。俺とゆき姉はここんとこ毎日ハモってるし、当麻だって

ちゃんと練習してるから。うまく合わせられるって。」


「三人で出す初めてのCDだもんね!出来上がりが楽しみ!」


「まぁ俺達の歌は、当麻のCDのおまけみたいなもんだけどね。

こんな豪華なファンプレゼント、聞いたことないよ!」


「三上さん、太っ腹!」


こんな他愛もない話をしてるうちに、健人はシャキッと目覚める。

今日も忙しい一日のスタートだ!



健人を「じゃ、夕方ね!」と見送り、窓を開けて部屋を掃除する。

今日は出版社に出社予定はないので、ラジオ局へ出向く四時までは家にいられるのだが、

今日一日は歌のレッスンに費やすつもりでいた。


まずは今日が一発勝負の『WINDING ROAD』を、これでもか!と言うぐらいに歌い込む。

まぁ、この歌は、雪見一人がいくら練習したところで三人の息が合わなければ、

どうもこうもないのだが。

最近益々強まった三人の絆で、なんとかなるでしょう!と思うことにする。


次に一番時間を費やしたのは、勿論デビュー曲。

レコーディングまでは、あと三週間ほどしかない。

今日みたいに三人で、お遊び的に吹き込むレコーディングとは訳が違い

誰を頼ることもできない、自分との孤独な戦いだ。

レッスン初日に、トレーナーの柴田からもらった、ただ一つのアドバイス。

『誰のアドバイスも聞かない方がいい。』その言葉も、一層雪見を孤独にした。


はぁぁ…。なんか、大好きな歌を歌ってるのに、ちっとも楽しくなら ないってどういうこと?

こんな気持ちでいくら歌っても、聞いてる人に伝わらない気がする…。

もう今日はこれでおしまいにしようかな…。

そうだ!今日香織、仕事が休みだって言ってたっけ。

ちょっと、メールしてみよう!


雪見は香織に「今、何してる?」とメールする。

するとすぐに「部屋の模様替え」と返信が来たので、「うちに来ない?」と誘ってみた。

「いいよ!」の返事にやった!と雪見は小さくガッツポーズ。

どうやら当麻のダブルデートのお膳立てを、密かに企んでいる様子。

急いでランチの支度に取りかかる。



三十分後、香織がケーキを手土産にやって来た。

「いらっしゃい!会いたかったよ!」「なによ、それ?気持ち悪いなぁ。」


雪見は時間がもったいないと思い、パスタを食べながら早速本題に移る。

「ねぇねぇ。当麻くんからメール来た?」


「え?あぁ、来たよ。雪見が教えたんでしょ?私のアドレス。」


「だってこの前は、真由子に邪魔されて聞けなかったって、当麻くん、

悲しそうだったから。で、なんて書いてあったの?」


「今度みんなでどっか行きませんか?って。

みんなでって、健人くんや雪見、真由子とって事でしょ?」


「真由子はどうかなぁ?私的には四人でって意味かなぁと思うんだけど。四人じゃイヤ?」


「別に雪見もいるし嫌じゃないけど、真由子が聞いたらどうなると思う?」

一番の難関は、香織を誘い出すことではなく真由子だった!と、この時初めて

気が付いた雪見であった。


バレた時の事を考えると身も縮む思いだが、当麻のためだ!仕方ない。

真由子抜きに多少の難色を示した香織を説き伏せ、何とかダブルデートの約束を取り付けた!

後は健人と当麻のスケジュール次第なのだが、これまた忙しすぎる二人のこと、

休みがぶつかる日なんて、いつ来るのだろう…。

と言うか、この先レコーディングに写真集出版イベント、限定コンサート、

デビュー前キャンペーンと、年内のスケジュールはドラマ以外にも目白押し。

ほとんど絶望的だったが、取りあえずは当麻に喜んでもらえるかな?

ラジオ局に行くのが楽しみになってきた。



午後三時半。香織と一緒に車で家を出て、途中買い物をして帰ると言う香織を降ろし、

雪見はラジオ局へと向かう。


少し早くに着いたが、家でじっともしていられず、スタジオのドアを開ける。

「おはようございまーす!」 目の前に当麻が立っていた。

思わずニヤッとしたのだろう。当麻が怪訝な顔をして雪見を見た。


「当麻くん、おはよう!いよいよ今日だね!調子はバッチリ?」


「うーん、ところがそうでもない。なんかここんとこ、疲れが溜まってきて…。」


「あれぇ?こんな大事な日に、テンション低いんじゃない?いかんなぁ!

どれ!お姉さんが元気の出る魔法をかけてあげる!耳貸して。」



雪見がささやいた、ダブルデートの約束交渉成立!の知らせは、

当麻に栄養ドリンク百本飲ませるよりも、確かな効き目があった!


さぁ!あとは健人の到着を待って、最後の音合わせをしよう!

なんだか楽しい歌が歌えそうだ!


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