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二人のはとこ

「もしかしてその電話、健人から?」


雪見の目の前の、名前も思い出せない親戚らしきボサボサ男が、

馴れ馴れしく「健人から?」と聞く。


どうしよう…。なんだか嫌な予感がする。

「違います!」って答えようか。仕事前に健人くんを巻き込みたくない。

それに早く帰って、健人くんに朝ご飯を作ってあげないと…。



取りあえず、「今は急いでるから。」と言おうとしたその時だった!

その男は、いきなり雪見の手からケータイを奪い取り、

「もしもし、健人?」と勝手に話しかけやがった!


「ちょ、ちょっと、アンタ!何すんのよ!

返しなさいよ、人のケータイ!いい加減にしないと、警察呼ぶわよ!」

さすがの雪見も、ブチ切れた!

しかし、元々声が大きい上に、「警察呼ぶわよ!」に反応した通行人が

「どうしましたか?」と集まって来てしまった。


まずい!騒ぎになるのだけはまずい!


「あ、あの、なんでもないです!ごめんなさい!

私、口が悪くって…。あの、この人、親戚なんです。

ちょっとした口げんかで…。ほんと、お騒がせしました!」

雪見が深々と頭を下げるうちに、集まった人々は散ってくれた。


「はぁぁ…。とにかくケータイ、返してくれる?」


「あぁ、ごめん。」

騒ぎになったのを反省してか、素直に雪見に手渡した。


「もしもし、健人くん?悪いけど、今外に出て来れる?

うん、ラッキー拾った公園に行ってるから、急いで来て。

そうだよね、出掛ける準備があるのにね。

でもこの人、このままじゃ帰ってくれなさそうだから…。

取りあえず会うだけ会って、今日は帰ってもらおう。じゃ、待ってる。」


電話を切った雪見は、再び男にきつい眼差しを向け、健人のマネージャーででも

あるかのように、事務的な声で要件だけを伝える。


「健人くんが今降りて来るから、そこの公園に移動しましょ。

こんなとこで話してたら、また人が集まる。

八時にはマネージャーが迎えに来るんで、支度もあるし時間は少ししか

取れません。いいですね。」


本当は、こんな明るい時間帯に健人を公園になど、連れて行きたくはない。

日曜の朝は、早朝散歩を楽しむ人達で、結構賑わう公園なのだ。

けれど、かと言ってこんな男を部屋に上げるのだけは、絶対に御免だ。

親戚だか何だか知らないが、出来ることなら関わりたくない匂いがプンプン漂う。


一体、この男の目的はなに?

私の写真を撮って、どうしようっていうの?

健人に会って、何を言うつもり?


公園への僅かな道のりを、スタスタと先頭を切って歩きながら

雪見は不測の事態に備えて、頭の中で色々とシミュレーションしてみる。


一番に守るべきものは、もちろん健人の命!

まぁ、いくら何でも朝っぱらの人通りがある公園で、親戚ともあろう人物が

健人の命を狙う、なんて事は無いだろうな。

じゃあ、小さなナイフでも隠し持ってて、それで健人をゆするとか…。


雪見の頭の中でこの男は、可哀想に段々と凶悪犯並みに仕立て上げられていく。

そして雪見は、ついには命を張って健人を守る、SPへと変身するのであった!

もちろん妄想の世界で…。



なるべく人目につかない所で健人を待つ。

あまり人目につかなさすぎても、もし事件が起こった場合には困るので

程ほどの場所で。


「あ!健人くん!こっちこっち!」

健人は寝てた時と同じ、杢グレーのスウェットパンツにTシャツ、黒のコンバース姿。

上に黒のロングガウンを羽織り、フードを被って眼鏡を掛けて来た。


「よっ!健人。久しぶり。すっかり大人になったな!」

その男は健人を一目見るなり、馴れ馴れしく言った。

誰だろう?という顔の健人に、「俺だよ、俺!義人兄ちゃん!」


「えーっ!?義人兄ちゃん!?うっそ!マジでぇ?」


雪見は名前を聞いても、あまりピンとはこなかったのだが、

確かに昔、健人が大人の席で酒を飲んでるこの男に、

「義人兄ちゃん、川に魚釣りに行こう!」と、腕を引っ張ってせがむ

景色が思い出された。


「悪いけど、全然わかんなかった!だって激変したでしょ?あの頃と。

昔はもっと…。」


「イケメンだったって言いたいんだろ?あれから十四、五年も経てば

こんなもんだって!お前なんか、俺に一番似てるって言われてたんだから

気を付けないと、こうなっちまうぞ!

しっかし、あのチビ助が、よくもこんな人気者になったもんだ!」


雪見は健人が「こうなっちまう」のはヤダ!とゾッとした。


「あのさぁ、健人くん。私も一応親戚のつもりではいるんだけど、

多分私とは遠い関係の方だよね?こちらさん 。」


「あれ?俺と義人兄ちゃんが従兄弟なんだから、ゆき姉とは俺と同じ

はとこなんじゃないの?

あ、ゆき姉覚えてない?俺が幼稚園ぐらいのお盆に、従兄弟とかと

川に蟹捕りに行って、足滑らせて流されかかった時、義人兄ちゃんが

川に飛び込んで俺を助けてくれたの。あんとき、ゆき姉も一緒に居なかったっけ?」


「おうおう、あったな!そんな事。びしょ濡れのお前をおんぶして帰ったら、

ちいばあちゃん達が一斉に仏壇の前に座って、「ご先祖様のお陰です!」

って拝み出したんだよな!

『俺のお陰なんだけど…。』って突っ込みたかったけど。」


二人は楽しそうに、昔話に花を咲かせている。

が、雪見はこの男も自分のはとこだと知って、ショックを受けていた。

「子供の頃はさぁ、『いとこ』だとか『はとこ』だとか、意味わかんなかったもんね。

『はとこ』って、鳩の子かぁ?みたいな。

ぜーんぶまとめて親戚って呼んでたから。でも、あの頃の夏が一番楽しかったなぁ!」


健人は、しばしのタイムスリップを、頭の中で楽しんでいる様子。

だが雪見は、この『はとこ』が何をしに、突然二人に近づいてきたのか

早く知りたかった。


「健人くん。あんまりのんびりとしてる時間も無いよ。

まだシャワーも浴びてないでしょ?」


「あ、そうだった!で、なんか用事があって来たんでしょ?義人兄ちゃん。

よく俺がここにいるって、わかったね。」


「毎日跡を付けてたからな、ここんとこ。俺、今こういう仕事してんの。」



そう言いながらポケットから出した名刺には、有名写真週刊誌の名前と

『専属カメラマン 斎藤義人』と書いてあった。


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