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健人の引っ越し

真由子の大絶叫は、確実にそのフロアに響き渡ったはず。

健人はまたかよ!って顔をし、当麻はビックリして唾を飲み込んだ。


「あ、あんた達…、まさか同棲するんじゃ…。」


「同棲だって!なんか久々に聞いた言葉じゃね?」

健人が笑いながら小声で言って、隣の当麻と顔を見合わせる。


「真由子、勘弁してよ!ほんとに私、マンション追い出されちゃうでしょ!

とにかく二人とも中に入って!中で話そう。」


健人と当麻は、海外旅行用の大きなスーツケースを、両手でよいしょ!と持ち上げ

健人の部屋になるであろう、一番手前の空いてる部屋へとスーツケースを運び入れる。


「あー、重かった!当麻が手伝ってくれなかったら、今日は無理だったわ!

助かったよ、ありがとね!」


「いいんだって!俺も、今日はゆき姉に誰かが一緒に付いててやった方がいいな、と思ったから。

まさか、このタイミングで健人が引っ越すとまでは、さすがに思わなかったけどね。」

当麻が笑いながら言った。


「うん。自分でも不思議なんだけど、絶対に今日だ!って思っちゃったわけ。」


「普段は優柔不断な健人だけど、今日の決断は男らしくて見直したわ!

俺だったらやっぱ、躊躇すると思う。」


健人の愛にはどうしたって勝てないや…と、当麻はこの時初めてきっぱりと

雪見を諦める踏ん切りがついた。

これからは二人の幸せを祈って、一番のサポーターになろうと決意した。



「ねぇ、そう言えばさっき、真由子さんの他にもう一人、見たことない人いたよね?誰?」

当麻が健人に聞いてみる。


「あぁ、俺も初めて会う人だけど、多分香織さんって人だと思う。

ゆき姉の親友があの二人だと思うよ。ゆき姉が撮影旅行で家を空けた時は、

あの二人が交代でめめの面倒を見に来てくれるって、前に言ってたから。」


「なんかさ、香織さんって、ちょっと可愛くない?女の子っぽいって言うか…。」


「おっ!久々に食いついたんじゃね?当麻くん!

いいよいいよー!俺、全力で応援しちゃうよ!」


健人と当麻がスーツケースにまたがりながら、香織の話で盛り上がっていると、

居間から真由子の呼ぶ声が聞こえた。


「ちょっと!そこのイケメンアイドルお二人さん!

いつまでも井戸端会議してないで、早くこっちに来なよ!」


「井戸端会議だって!母さん以外から初めて聞いた!真由子さんって、一体いくつ?」


「あの三人は多分同い年だと思うよ。」  


「ふーん、そうなの。ま、いいや。じゃ、行きますか!」



突然のアイドル二人の登場に、真由子のテンションはヘンなことになっている。

それに引き替え香織は、芸能人にはまったく興味を持ったことがないので、

ただ雪見の彼氏とその友達が来た、ぐらいにしか思っていなかった。


「あ、香織は二人に会うの初めてだよね。

紹介するまでもないと思うけど、斎藤健人くんと三ツ橋当麻くん。

もちろん知ってるよね?」


「それはもちろん!子供たちにも大人気の二人だもの。

初めまして、中村香織です。いつも雪見がお世話になってます。」

そう言いながら香織は、三十代には見えない愛くるしい笑顔で、にっこりと微笑んだ。


そのたった一度の笑顔は、当麻の心臓をキュン!と鳴らすに充分な分量で、

隣りにいた健人は密かに『よしよし!』と、にやついたのであった。


「こちらこそ、いつもゆき姉がお世話になって!

今日も来てくれてて安心しました。話は聞いたと思うけど、この人、

すごい顔してスタジオ飛び出して行ったから、心配で心配で。

すぐに追いかけて行ければ良かったんですけど、そうもいかない状況で…。」

健人が、いつもと変わらぬ表情でキッチンに立つ雪見の方を見ながら、

安堵して香織に話しかける。


「私も今、初めて安心しました。雪見から、あなたと付き合い出したと聞かされて以来

失礼ですけど、ずっと心配してたんです。

あなたみたいな人と付き合って、雪見は本当に大丈夫なのかな?って。

ごめんなさいね、こんな言い方して。

でも今こうやって直接お話してみて、あなたなら雪見をお任せできると

ホッとしました。これからも雪見を、よろしくお願いします。」

香織が深々と頭を下げたので、健人も慌てて頭を下げる。

そこへ、面白くなさそうな顔の真由子が割って入った。


「ちょっとぉ!なによそれ!

それじゃ雪見をもらいに来た彼氏と、雪見の母の会話でしょーが!

香織!こんなイケメンアイドルを目の前にして、少しはドキドキとかしなさいよ!

私なんて、何回会ってもこの状況が信じられないのに。」


健人が、隣でニコニコとみんなの会話を聞いている当麻に気が付き、

慌てて香織に紹介した。


「あ、当麻は俺の一番の親友なんです。俺とゆき姉の一番の理解者。

だから今日も、真っ先に俺の背中を押してくれました。

めちゃめちゃいい奴ですよ、こいつ!料理も出来るし部屋も綺麗!

何にも言わなくてもスーツケース持ってきてくれたし、男の俺から見ても

かっこいい男です!」

健人の強引な押しに苦笑いをした当麻は、少し照れながら初めて香織に話しかける。


「あの…。さっき俺らが子供たちに大人気って言ってたけど、

香織さんって結婚してるんですか?」


そこへ雪見が、冷えたワインとチーズやサラミ、ナッツなどの乾き物のおつまみを運んできた。


「なーにぃ?当麻くん、そんなことが気になるわけ?

大丈夫だよ!香織の言ってる子供たちって、自分の受け持ちの子供のこと。

香織は、病院の中にある院内学級の保母さんなの。子供が大好きなんだよ!

そんなことはいいから、せっかくだしみんなで飲もう!

冷蔵庫の中を空っぽにしちゃったから、料理の追加は作れないけど。」


「すでにご馳走が並んでるじゃん!俺、めっちゃ腹減ってたんだ!

食べよう食べよう!」


「じゃ、健人の引っ越し祝いに、カンパーイ!」



当麻の音頭で乾杯し、ちょっとした合コンのような飲み会がスタートした。


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