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愛の歌

昨日はラジオが終った後、本当に三人でカラオケに行った。

明日からはデビュー曲の練習に忙しくなり、これが課題曲を練習する

最後のチャンスだったからだ。



いくら番組の中の企画とは言え、CDにしてリスナーにプレゼントする以上、

完璧近くには仕上げたい。

そう言うところは三人とも似ていて、真面目で手抜きが出来ない性格である。


すでに酒が入っているので、テンションはマックスに近い。

着いてすぐに『WINDING ROAD』をガンガンかけ、何度も何度も繰り返し歌う。

歌えば歌うほど息がぴったりと合い、気持ち良くて楽しくて仕方ない。


「いいじゃん、いいじゃん!最初っから俺らの歌だったみたいじゃない?」

健人が嬉しそうに当麻に聞く。


「ほんとだね!俺たちのデビュー曲も、こんな風に歌えたらいいね!

明日でしょ?歌が決まるの。どんな歌になるのかなぁー。

ねぇ、ゆき姉はもう歌詞、書き終わってるの?」


「あったり前でしょ!書き終わってなかったら、こんなとこにいませんって!」


「ねぇねぇ、どんな曲だった?良い曲?」

健人は、あの雪見が書いた詞にどんな曲が重なるのか、明日が待ち遠しかった。


「凄くいい曲だったよ!私が借りたデモテープは、バラード調の曲だったんだけど、

サビがとっても印象的でずっと頭に残ってる。」


「えーっ!ゆき姉だけ曲聴いたの?ずるーい!ちょっとさわりだけ歌ってみて!」

当麻が雪見にねだるが雪見は「だめーっ!」と言って、歌わなかった。


「あの歌は、明日、真っさらな気持ちで聴いて欲しいから…。」





そして今日。いよいよデビュー曲が決まる。

夜八時に雪見は、自分の作った歌詞を三上に見てもらい、

デビュー曲に使ってもらえるかの審判を仰ぐ。

ただし、雪見が作ったのはバラードの一曲のみ。

もし三上が違う曲を選んだのなら、その曲はデビュー曲にはなれないのだ。


雪見は、もう一曲あったアップテンポの曲も聴いてはみたが、

どうも自分たちのイメージとはかけ離れてる気がして、そっちに歌詞を

付ける気にはなれなかったのだ。



日中は当麻の現場を訪れ、健人の写真集用のコメントをもらうことに。

昨日は健人も一緒にいたので無理だった。

ドラマ撮影の合間にコメント取りをするので、何時になるのかはさっぱりわからず、

スタジオの隅で待たせてもらった。

どうやらやっと休憩になったようだ。


「お疲れ様!ごめんね、撮影で忙しいのに。」

こっちにニコニコしながら歩いてくる当麻に、声をかける。


「いや、ゆき姉が俺の現場に来るなんて初めてだから、嬉しいよ!」

当麻は、雪見が来てくれて上機嫌だった。

コメント取りを済ませたあとも二人は、まるで仲の良い姉弟のように

ケラケラと笑いながら、時間いっぱいまでおしゃべりを楽しんだ。


その様子を見ていた周りの女優や女性スタッフが、いい思いをするわけがない。

当麻は、他の誰と話している時よりも、明らかにハイテンションで

飛び切りの笑顔を雪見だけに見せていたからだ。


当麻はまったく気付く気配は無かったが、雪見はハッと周りの空気を感じ取った。

カレンの二の舞だけはごめん、とトラブルになる前に退散することに。

また夜に事務所で会おうね!と言うと、当麻はまたセットの中へと消えていった。




とうとう運命の時間がやって来る。

雪見は一時間も前に退社して、気持ちを落ち着かせるために

いつものドーナツショップに向かった。

昼間とは違いその時間帯は混んでいて、雪見の指定席は空いていない。

仕方なく、隅の方に空いているカウンター席に座り、カフェオレを飲みながら

鞄から出した手書きの歌詞を、もう一度じっくりと読み返してみる。


『大丈夫!強く願えば叶うんだから…。』自分を鼓舞して席を立った。

さぁ!勇気を出して、みんなに聞いてもらおう!



所属事務所の一つ上の階には、小さな歌のレッスンスタジオが五つ、

大きなスタジオが二つあり、その奥には芝居の練習場も二つあった。

常務の小野寺は、その内の大きな方のスタジオで雪見と三上を待っていた。


雪見が到着後、間を置かずに三上も到着。

「どれどれ、早速出来上がったものを拝見しようか。」

二人に、歌詞を書いた手書きのB4用紙を差し出す雪見。


目を通してもらってる間は、生きた心地がしなかった。

が、しばらくすると二人は揃って「これ、いいんじゃない!?」

と、笑顔で言った。


「ほんとですか!?あの、これ、歌ったらもっとよく歌詞が伝わると思うんです!

今歌わせてもらってもいいですか?」


「え?もう歌えるの?それは是非とも聞いてみたい!頼むよ。」


デモテープを用意していると、ガチャンとドアを開け、誰かが入って来た。

それは健人と当麻だった!今日だけ何とか早くに上がらせてもらったらしい。


「間に合った?まだデビュー曲、発表になってない?」

二人はそれが気になって気になって、仕事が手に付かないらしい。


「大丈夫だよ!これから雪見ちゃんが歌ってくれるのを聞いて、決定するとしよう。」


「えっ!ゆき姉が歌うの?」健人の言葉に、雪見は笑顔を返事代わりにした。


呼吸を整え、気持ちを集中させる。

一度だけ天井を見上げ、その後視線を真っ直ぐにした。

印象的なイントロのあと、静かに雪見は歌い出す。



   はるか遠くに忘れた日々を 

きみと一緒に取りに戻ろう

    

   記憶の糸をたぐり寄せ 

僕が最初に見たものは

   きみの笑顔と 差し出す右手

   なのにどうして僕らの右手は

   あの時 くうをつかんだのだろう


   今なら並んで歩いてゆくのに  

今ならもう離さないのに

   夢に出てきた きみのくちびる

   「ゴ・メ・ン・ネ」って動いたのかな


   まだ間に合う? もう遅い?

   引き返せない道なんて 

この世に存在しないから

   勇気を出して一緒に戻ろう 

遠くに見える あの日の始めに



   

   夢は強く願えば叶うから 

怖がらないで 目を閉じて

   きみのまぶたに写った景色を 

どうか忘れないでいて

   いつか同じ景色が見えたなら 

ためらわないで手を伸ばそう


   きみの夢は 僕の夢  

きっといつか叶えてあげる

   記念の写真を 二人で写そう


   未来は誰にもわからないけど

   ひとつ確かに言えるのは 

きみの隣りに僕がいること


   緑の風に二人で吹かれて 

今より遠くへ飛んで行けたら

   きっと つないだ手の中に 

夢のかけらが入っているはず


   

それは、雪見が健人と当麻に捧げる、愛の歌であった。  


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