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CDデビュー決定!

「よしっ!じゃあ決まりだなっ!三上さん、あとはうちの三人を全面的に預けますので、

どうかよろしくお願いします!」

小野寺が隣の三上の方を向いて、深々と頭を下げる。


「いや、こちらこそ、こんなに凄い三人を私に任せてくれて、本当にありがとう!

この事務所において、いや日本の芸能界にとって、健人と当麻が

どれほど大事な存在であるかは、重々承知しているつもりです。

もちろん雪見くんの才能も、決して潰すようなまねだけはしたくない。

だから私も、全力を注いで三人をプロデュースします。


しかし、いかんせん時間がない。

1月5日CDデビューとなると、あと二ヶ月半後だ。

と言うことは、遅くともあと一ヶ月でレコーディングして、

発売までに一回でも多く流さないと。」


「あと一ヶ月でレコーディングぅ!?それって無理じゃないっすかぁ!?」


「無理です!絶対無理!だって健人くんと当麻くんは、いつも歌のレッスン

受けてるからいいけど、私はド素人ですよ!!無理に決まってます!」


健人と雪見が必死になって訴えたが、三上はニコニコして聞いてるばかり。

そして自信と確信に満ちた、落ち着いた声で二人に言って聞かす。


「大丈夫!俺がそれで行けると思ったから、デビューをそんな早くに設定したんだ。

このメンバーじゃなかったら無理だよ、もちろん。

でも、お前達なら行けるんだよ。もっと自分に自信を持て!

一体、俺様を誰だと思ってんの?」

それだけ言うと、三上はニヤッと笑って白い歯を見せた。


「けど自信を持てって言われても…。

私には、どこからもそんな自信なんて出てきません…。」

さっきの勢いはどこへやら、雪見は一気にへこんでいる。


「自信はなくても、やる気はあるんだろ?だったらそれで充分だ!

その代り、かなり厳しい一ヶ月にはなるけどな。

よし!決まったからには時間がもったいない!

まずはここのレッスンスタジオを借りて、軽く声を聞かせてもらおうか。」

三上がソファーを立ち上がった時、健人が待ったを掛けた。


「ちょっと待って下さい!あのぉ、デビュー曲って、もう決まってるんですか?」


「おぉ!肝心な事を忘れてた!すまんすまん!

曲はすでに何曲か出来上がってはいるが、まだ決定はしていない。

バラードっぽいのがいいか、アップテンポなのがいいか、もう少し考えさせてくれ。

それと歌詞がまだ付いてないから、それも急がないとならん。」


「えーっ!じゃあ本格的にデビュー曲の練習を開始するのって、まだ先じゃないですか!

ホントにそんな短期間で、上手く歌えるようになるのかなぁ…。

俺も当麻も、ドラマの撮影が毎日みたいにあるし、合間に他の仕事も入ってるし。」


健人は、この先の超人的忙しさを想像し、段々と元気がしぼんでくる。

一方雪見は、さっきから隣で何か考え事でもしてる様子だ。


「あのぅ…。」雪見が三上に小さく声をかける。

「あの…、そのデビュー曲の歌詞、私に書かせてもらえませんか?」


「ええっ!?」全員が一斉に雪見の顔を見た。

雪見は、他の誰も視界に入れずに真っ直ぐと、三上だけを真剣に見据えてる。


「時間が無いのは解ってます。でも、せっかくのデビュー曲なんだから

少しは思い入れのある曲にしたいんです!

私に三日間時間を下さい。必ず三日で書き上げます!お願いします!」


隣で健人は、『あの時と同じ瞳だ!』と思いながら雪見を見つめていた。


『俺の写真集のカメラマンを、自分にやらせてくれ!って、この場所に

直談判しに来たあの時と、まったく同じ目をしたゆき姉がここにいる…。

この人は、また俺のために突っ走ろうとしている…。』


困ったことに、雪見の姿が徐々にぼやけてきてしまった。

『ゆき姉がそんなこと言うから…。』


すると、雪見の真剣な表情をじっと見ていた小野寺が、サッと膝の向きを変え、

隣りに座る三上に突然頭を下げた。


「三上さん!僕からもお願いできますか!

僕も出来ることなら三人のうちの誰かに、歌詞か曲のどちらかでも

オリジナルな曲を作らせたかったんです。

デビュー曲がまったくの他人が作った曲と、メンバーが作った曲とでは

ファンの反応が全く違う。

だが、どう考えても今回のデビューに間に合わせて、健人か当麻が曲を

作ってる時間など無いと諦めてた。

けど雪見さんが、もしデビュー曲にふさわしい良い歌詞を書けたなら、

それを使ってやって欲しいんです!」


「私に、その出来てる曲のデモテープを、貸していただけませんか?

時間がないので曲にピッタリと合う文字数で、歌詞を作っていきます。

三日後にここで聞いて判断して下さい!ダメだったら諦めます!」

雪見も必死に食らいつく。



しばらく腕組みをして考え込んでいた三上が、にっこりと微笑んで

GOサインを出した。

「いいでしょう!ただし、本当に三日間しかあげられませんよ!

こっちはこっちで、別の歌詞も用意させてもらいます。

あなたの歌詞がダメだった場合は、即、こっちの歌詞でレッスンを

開始しなければならない。三日後からレッスン開始です!

ここのスタジオに、仕事の終った者から駆けつけて指導を受けてもらう。

かなりキツイ毎日になるが、どうにか一ヶ月間体調管理をしっかりして

乗り切って欲しい!じゃ、皆さんもよろしくお願いします!」


そう言って三上は立ち上がり、全員と握手をする。

雪見には両手で手を握り、「期待してるよ。頑張って下さい!」と笑顔で言った。



そのあとはすぐにスタジオに移動し、健人と雪見は一曲ずつ、

一番得意な曲をみんなに歌って聴かせる。

健人はミスチルの『花火』を、雪見は少し考えてやはり歌い慣れた歌、

中島美嘉の『雪の華』を選択した。


健人の生歌は小野寺も今野も、レッスンやイベントで何度も聞いているが、

雪見の生の歌は今初めて耳にする。

カラオケのイントロが鳴り出した時、三上が二人に「感動的ですよ。」

と、小さくささやいた。



雪見が歌い終わった時、健人は勿論のこと、雪見の歌に対して無防備だった

三上、小野寺、今野の三人は、ただの涙もろいオッサンになって

必死に涙をこらえている。



雪見の声が、また魔法をかけた瞬間だった。


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