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胸騒ぎの的中

「当麻がゆき姉を連れてったって、一体どういう事!?

なんで当麻がここに来たの?」


健人は何が何だか訳がわからず、マスターに詰め寄った。


「俺にもわからん!ただ、雪見ちゃんがビールを持ってここに戻ろうとした時に、

後ろから当麻が声を掛けて、ビックリした雪見ちゃんが『当麻くん!』

って、大声を出しちまったわけ!

それで二人が客にバレちゃって騒がれたもんだから、当麻が雪見ちゃんを連れて

店を出て行ったんだ。今もみんなが大騒ぎしてるよ!」


「そうだったんだ…。でも、二人でどこに行っちゃったんだろ…。」


健人が視線を落として考え込む。

でも、思い返すと昨日の夜、当麻に対してなんとなく胸騒ぎを覚える瞬間があった。

その胸騒ぎがこれだったのか…。




昨日の夜は当麻と二人、雪見の家で酒を飲んだ。

カレンと和解したことによって、久々に心から笑い合って飲んだ楽しい酒であった。


二人とも、次の日は朝からドラマの撮影が入ってたので、

三時間ほど飲んで雪見のマンションを後にした。

外へ出ると、冷たい風が火照った頬に気持ち良い。

少しこのままブラブラと歩くことにする。


「あー、なんかスッキリした!

カレンと和解した理由は腑に落ちないけど、まぁ理由はどうであれ

これでカレンにビクビクしなくて済むんだから…。」

当麻がうーん!と歩きながら伸びをした。


「ほんと、良かったよね!

ゆき姉がカレンと二人でどっかに行った!って当麻から連絡来た時には

マジで俺、心配で泣きそうになったもん。」


健人は何時間か前を思い出し、また涙ぐみそうになるのを堪えた。

そして、さっき飲んでた時から気になってたことを、当麻に聞いてみることにする。


「あのさぁ。当麻、さっきメチャクチャ嬉しそうだったよね。

ゆき姉がスタジオまで、残業途中で投げ出してすっ飛んで来てくれた!って。」


「あ、あぁ。そりゃ嬉しいに決まってんだろ!

今やゆき姉は、俺の第二の親友みたいなもんだから。

その親友がタクシー飛ばして来てくれたら、もし健人が俺の立場でも嬉しいだろ?

もちろん第一の親友は、健人に決まってるけどね。」


当麻は、健人が何かを感じ取ってそんな質問をしたのだと、内心冷や汗をかいた。

だが、本当に嬉しかったのだから、自分でも気が付かないうちに

相当テンションが上がっていたに違いない。


事実、もしも健人が一緒にいなければ、確実に雪見を抱き締めていたことだろう。

あの日、猫かふぇのトンネルで、雪見を抱き締めたのと同じように…。

親友なんかじゃなく、大好きな人を抱き締めるように…。



当麻は、上手く自分の心をだませたと思っていたが、健人はなんとなく

感じてしまった。

それは今までに何度も何度も、考えては打ち消し、考えては打ち消ししてきた

一番健人が恐れている感情だ。


やはり当麻は雪見に対して、それを持ち合わせているのではないか…。

当麻と二人夜道を歩きながら、嫌な胸騒ぎが健人をかすめて通り過ぎた。





昨日の事を思い出しているところに、ケータイのメールが着信した。

雪見からだ!『秘密の猫かふぇ』に向かってると書いてある。

いつもは夜の十二時に一旦閉店するが、土曜の夜だけは二時間延長されて

午前二時に閉店であった。


「俺も行かなきゃ!ゆき姉を取り返さなくちゃいけない!」


健人はとっさにそう口走った。

それを聞いてたマスターは、深くを追求せずに健人を脱出させてやろうと、

いつも他の従業員とシミュレーションしている手はずを、健人に説明する。


「いいか?これからうちの若い奴が、店の入り口に立ってジャンケン大会を始める。

客の視線を集めておくから、その隙に健人は非常口から出るんだ!

非常口は店の真ん中の右奥にある。しっかり顔を隠して行けよ!

じゃ、俺は若い奴に伝えてくるから、呼びに来るまでじっとしてろ!」


小上がりを出かかったマスターに、健人が声を掛ける。


「マスター、ごめんね!俺たちが迷惑かけちゃって!

今度必ず恩返しするから…。」


「いいってことよ!気にすんな。

こんなに騒がれる大スターが、二人もウチの常連さんなんだから、

これしきの事、想定内なんだって!じゃ、待ってろよ!」



マスターがまだ騒がしい店内に戻り、一番近くにいた従業員に指示を与える。

それを聞いた若くてこれまたイケメンの従業員が、素早くマイクを手にし

入り口をふさぐようにして、立ちはだかった。


「はーい、みなさん!本日もようこそ、『どんべい』へ!

これからちょっと早いけど、毎週土曜日恒例のどんべいじゃんけん大会を

始めたいと思いまーす!

みんな、なるべく前の方に集まってくださーい!」


俳優にもいそうなタイプのイケメン従業員が、笑顔と大きな声で客を手招きすると、

酔っぱらい達は先を争うようにして、少しでもイケメンくんのそばへと集まってきた。


「じゃあ本日の優勝賞品のご紹介!

まずは生ビール無料券五枚!か、ハイボール無料券五枚!か、

僕からのおでこにチュー券一枚です!みんな、頑張ってね!」


客が一番反応したのは、おでこにチュー券だった。

この従業員対客全員でじゃんけんをし、最後に従業員に勝ったら商品を

もらえる、ってわけだ。


「健人!出るから靴を履いて!」


「ごめん!料理、食べきれなかった。」


「いいから 、そんなこと!

最初のジャンケンが始まったら、すぐに非常口に向かえよ!

ちゃんと雪見ちゃんを取り戻してこい。離すんじゃないぞ!」


マスターが笑顔で健人の肩を、ぽん!と叩いた。


「いつもありがとね。俺たちを応援してくれて…。

じゃ、また来るわ!ご馳走様、マスター!」


健人も笑顔でマスターに礼を言う。



さぁ!ちゃんと当麻と向き合って、雪見を取り返して来よう!


健人は、客の賑やかな声を背中にして非常口を飛び出した。

雪見と暮らす明日を頭に思い描いて…。


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