仕事でデート
一夜明け、今日は雪見たち写真集編集スタッフの休養日。
雪見だけは、午後から健人へのインタビューが仕事として入っているが、
それとて健人と二人きりでするのだから、休日デートのようなもの。
と言うか、インタビュー終了後は、そのまま本物のデートになだれ込もうという作戦で
あえて健人の一番最後の仕事後に、これを持ってきてもらった。
なので、雪見が家を出るのは午後八時半の予定。
それまではのんびりと音楽を聴きながら、洗濯や部屋の片付けをしたり、
猫の遊び相手をしたりして束の間の休日を満喫している。
昨日の夜は、本当に久しぶりに健人、当麻と三人で、笑いながらお酒を飲んだ。
一週間前の『秘密の猫かふぇ』以来気まずくて、少なくとも雪見は
当麻を避けるようにして暮らしていたが、昨日のカレンとの一騒動は、結果として
当麻と雪見をポン!と一瞬で元通りに修復してくれたかのように見える。
決してあの出来事が、二人の間で消えて無くなった訳ではないのだが…。
今日のインタビューをどこでするか二人で考えて、素の斎藤健人を引き出すには
行きつけの店がいいだろう、ってことで結局は『どんべい』に落ち着いた。
一応マスターに一言断りを入れておかなくちゃ!と二、三日前に電話で話したら、
なぜかメチャクチャ大喜び!
「…ってことは、健人の写真集にこの店の写真とか住所とか、載るんだろ?
クリスマスイブに発売だから、次の日は店にファンが押し寄せて、
大変な騒ぎになるぞ、こりゃ!健人のお陰で大繁盛だ!!」
「あのさ、マスター。店を仕事に使わせてもらって、こんなこと言いにくいんだけど。
今回はお店の名前、載せられないんだよね。」
「うそだろぉ!?せっかく天下の斎藤健人写真集に載るってのに、
店の名前を出せないなんて!そりゃ、あんまりだ!
ショックで立ち直れないかも…。」
「ごめん、ごめん!これはさ、事務所からもきつく言われてて…。
もしもお店の場所や名前がファンに特定されちゃうと、そのお店だけじゃなく
お店が入ってるビルにまで人が押しかけて、たくさんの人に凄い迷惑をかけちゃうの。
だから、宣伝してあげたいのは山々なんだけど、こればっかりはごめんなさい!なんだよね。
ほんとにごめんね、マスター!
それにさ、健人くんも、『どんべいはずっと通いたい、俺の大事な店だから。』って。
みんなにバレちゃうともう行けなくなるって、一度は健人くん、
そこでインタビュー受けるの反対したの。
でも私は、あの店のあの部屋だからこそ話せる話もあるだろうって、
健人くんを説得したんだ。
もしマスターが、それじゃあ御免だ!って言うなら違う店にするけど…。」
「そんなこと、俺が言うわけないだろ!
健人がこの店の事を、そんな風に思ってくれてるなんて…。
嬉しくって涙が出ちまうよ。
よっしゃ!土曜の九時頃だな?美味いもん、テーブル一杯に並べて待ってるよ!
あ、でも土曜の夜は多分満席になってるだろうから、店に入って来る時は
他のお客にバレないように、気を付けて入ってこいって健人に伝えて。
楽しみに待ってるから!って。」
「ありがとう、マスター!私も楽しみにしてる。
じゃ、土曜日に行くね!よろしくっ!」
電話を切ったあと、すぐに健人にメールした。
マスターからの伝言と、前の仕事が何時に終っても待ってるから、
慌てないで来てね!と伝える。
健人もとても楽しみにしている雪見のインタビュー。
そろそろ出掛ける時間となったようだ。
カメラバッグに、編集部から借りてきたマイクロレコーダー、
マスターへのお礼の手土産を持ってタクシーに乗る。
「マスター!来たよ!今日はお世話になります。
これ、部屋を使わせてもらうお礼と、すっかり持ってくるのを忘れてた
沖縄土産の泡盛!うちで熟成しといたから、美味しくなってるはず。」
「別に気を使わなくても良かったのに!でも有り難くもらっとくよ。サンキュ!
お!泡盛かぁ!ちょうど豚の角煮が煮えたとこだ。
この組み合わせは黄金コンビだぞ!
あとで持ってくから、部屋に入ってな。あ、ビール、持ってってね。」
「OK!健人くんは少し遅れるって。撮影が押してるみたい。
じゃ、先に準備させてね!」
雪見はカメラバッグとビアジョッキを手に、そろりそろりと奥にある
いつもの部屋へと入っていった。
店内は、マスターが言ってた通りの満員である。
「誰にもバレないで健人くん、来れるといいけど…。」
独り言を言いながら重たいバッグを下ろし、まずはビールで喉を潤す。
よしっ!と自分に気合いを入れて、健人が着いたらすぐに仕事を開始出来るよう
インタビューの準備を整えた。
それから一時間ほど経った頃、健人からメールが入る。
ゆき姉、ごめん!
今やっと終った!
これから化粧落として
大至急向かうから、
俺の食いもん、頼んで
おいて。腹ぺこだぁ!
じゃ、もう少し待って
てね。飛んでくから!
アイシテル(^з^)-☆
by kento
あと少し。もうちょっとで健人に会える!大好きな健人に…。