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決闘!

「ごめんなさい!私、急用を思い出した!悪いけど、今日はお先に失礼します!」


「えーっ!雪見さん!今日は帰りに飲みに行って、健人くんの子供の頃の話、

聞かせてくれる約束じゃないですかぁ!」

と、スタッフが最後まで言う前に、雪見はみんなの前から消え去った。


ビルを出てすぐにタクシーに飛び乗り、ラジオ局へ急いでもらう。

どうしようもない怒りだけが、雪見を突き動かしていた。

と同時に、つい一時間前には当麻の声さえ聞くのが嫌だったのに

今は当麻を『助けなくちゃいけない!』と言う強い思いに変わってる。

雪見はジリジリとした気持ちで、『早く!早く!』とタクシーの到着を願った。



ラジオ局に着くと同時に雪見は駆け出し、走りながら首にラジオ局の

身分証明書をぶら下げる。

受付嬢に会釈して、一気に当麻のいる放送スタジオ前まで駆け抜けた。


時計を見ると五時三十五分。

生放送が終了して五分が経過している。だが、まだ誰も出てきてはいないはず。

雪見は息を整えながら、廊下でカレンが出て来る時を待っていた。


少しも怒りなんて収まりはしない。

それどころか、今までカレンから受けた数々の仕打ちを、一つずつ思い出して行くうちに

怒りが怒りを呼んで、頂点にまで達してしまった。


『なんで今まで、あんな奴から逃げ回るだけしかしてこなかったんだろ!

バカだ、私って!もうどこへも逃げも隠れもしないから!

今日、必ず決着をつけてやる!』


普段は穏やかで、のんびりおっとり、いつも笑顔の雪見だったが

本気で怒らせた時には人格が変わる。

元々正義感が人一倍強いので、これは許せない!となると徹底的にやっつける。

どうやらその時が来たようだ。



「お疲れさまでしたぁ!また呼んでくださいねぇ!じゃ、お先に。」

カレンの甘ったるい声が聞こえ、一人でスタジオから廊下に出て来た。


「あれ?雪見さんだ!やーっぱり来てくれたんだ。必ず来ると思ったよ。」


「えっ!?」

雪見は予想外のカレンの言葉に、出鼻をくじかれた。

『必ず来ると思ったよ、って…。』


「まぁ、あの頭の悪そうな『ヴィーナス』の編集部員が、忘れずにラジオを

机の上に置くかが心配だったけど、そこまでお馬鹿さんじゃなかったようね。」


雪見は愕然とした。全ては計算ずくなの?またしても、まんまとはめられたって事?


「罠…だったってわけ。そう…。そこまでは気が付かなかった。

あなたって、相当なワルね。なら、私も手加減無しでいくわ。」


「どうぞ、ご自由に。私もそろそろこのゲームに飽きてきちゃったから、

もう上がりにしようと思ってたとこなの。

あなたもそう思ってここに来たんでしょ?」

カレンは、不敵な笑みをたたえて雪見の瞳を見据える。

雪見も視線を外すわけにはいかなかった。


「こんな所で立ち話もなんだから、どこか静かなところへ行かない?

また余計な邪魔が入る前にね。」


カレンが当麻の事を、「余計な邪魔」と言った。


「それ以上当麻くんを侮辱すると、ほんとに私、何しでかすかわからないわよ。

私を怒らせたら怖いんだから。」

そう言って雪見はにっこりと微笑んだ。


「そうなの?それはそれで楽しそうね。まぁ、いいわ。まずはここを出ましょ。」


カレンが先に、エレベーターホールに向かって歩き出す。

そのあとを雪見が付いていこうとした時、スタジオのドアが開いて

当麻が出てきてしまった。


「ゆき姉!なんでここにいるの!?」当麻の驚いた顔!


一足遅かった。できることなら当麻の顔を見ずに、この場を離れたかったのに…。

当麻に見られたと言うことは、健人にも話が行くと言うこと。

健人には余計な心配をかけたくはなかった。

幸いカレンはもうエレベーターホールの方へ行ってしまい、ここにはいない。


「あ、当麻くん!今 終ったとこなの?お疲れ様。

私は編集部に頼まれた届け物を、そこの制作部に持って行ったとこ。

今日も残業だから、大至急戻らなくちゃ!じゃあねっ!」


そう適当なことを言ってその場を立ち去ろうとした時、雪見の後ろから

「雪見さん!当麻くんに助けを求めて逃げ出すわけじゃないわよね。」

と、カレンの声がした。


「カレン!!

どういう事?ゆき姉!仕事で来たんじゃなかったの?

まさかお前、ゆき姉にまでなんかしようと思ってるんじゃ…。」


「当麻くん!大丈夫だから。

私、本当は当麻くんが思ってるような、か弱いお姉さんじゃないの。

もういい加減、色んな事から逃げ回るのは止めようと思って。

当麻くんからも、もう逃げないから…。

落ち着いたら電話するね!じゃ、また!」

雪見は一番の笑顔で当麻に別れを告げ、カレンと共に歩き出す。


後ろで叫ぶ当麻の「ゆき姉!!」と言う声に、もう振り向くことはしなかった。




タクシーに乗ったカレンと雪見。

カレンが運転手に告げた行き先は、なんと『秘密の猫かふぇ』が入る本屋であった!


「ふふふっ!驚いた?あそこなら誰も邪魔しないでしょ?

なんせ他人に干渉は御法度だから。

私もコマーシャルやドラマに出させてもらって、やっとあそこの会員になれたの。

さすがにあそこだけは、叔父さんのコネも使えなかったわ。

今度、ばったり会っちゃうかもね。

まぁ、あなたがそれまで、健人くんと繋がっていれたらの話だけど。」

どこまでカレンは計算ずくなのだろう。次々に雪見が思いもしない手を打ってくる。


『さすが、ハーバード大学出だけあって頭は良さそうね。

初対面の時に、頭がからっぽそうな女!と思ったのは、この人の演技だったってわけ。

あの時から私は、まんまと騙され続けてたなんて…。』

窓の外を眺めながら雪見は、静かに闘志をかき立てられていた。


『私だって、よくよく考えればそんなバカでもないのよ。

だって、世界の科学者、梨弩学と肩を並べて研究してた時期があったんだから。

見てなさい!必ず今日で決着をつけてみせる!』




カレンと雪見はネオンの街に、それよりもさらに明るい火花を散らして

タクシーを降り立った。


今日ばかりはこの入り口が、お化け屋敷の入り口にも見えている。


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