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初歌合わせ

思いの外ラジオ局までの道のりが渋滞していて、集合時間の四時ギリギリに

雪見はスタジオに飛び込んだ。


「セーフ!なんとか間に合ったぁ!

あ、おはようございます!済みません、ギリギリになっちゃって。」

雪見は、ドアを開けてすぐにいたディレクターに焦って挨拶をする。


「相変わらず忙しそうだね。お待ちかねだよ!二人とも。」

指差された方を見ると、中のブースから健人と当麻が『早く!』と手招きしてる。


「ごめーん!待たせちゃった?でも集合は四時だよね。なんかあったっけ?」

雪見がブースのドアを開けるのと同時に、なにやら健人がリモコンを操作した。

部屋の隅に目をやると、なんとそこにあるのはカラオケセットではないか!


「早く!早く!」

当麻に引っ張られて訳の解らぬまま、三人でカラオケのモニター前に立つ。


「『ワインディング ロード』って!今歌うのぉ?」


「一回合わせてみるだけ!始まるよ!」

と健人が言ってすぐに歌い出しになったのだが、さすがにこれは失敗した。

なんせこの曲は、前奏無しでいきなり歌い出さなければならない。

しかも、一番の聞かせどころが曲の頭であって、三人が息をピッタリ合わせて

タイミングよく入らないと、曲のすべてが台無しになるという難度の高い曲なのだ。


「ストーップ!今のはいくら何でも無理だって!

心の準備無しには歌えないでしょ、この歌は!それならそうと言ってくれなきゃ!」

雪見がもっともな事を言う。


「ゴメンゴメン!いや、なかなか三人で合わせる時間が無いから、

打ち合わせ前に一回でも、どんな感じか歌ってみたかったわけ。

せっかくスタッフさんがカラオケ用意してくれたんだから、ちょっとだけ

練習させてもらおうよ!

あと十五分くらいなら大丈夫ですよね、水野さん!」

当麻が、ブースの外でモニタリングしているディレクターの水野に聞いてみる。


「いいよ!タイムリミットになったら声掛けるから。」

マイクで中の三人にそう伝えた。


「よし!じゃあ時間が無いから、今度こそしっかり歌おう!

準備はいい?ゆき姉。」

当麻の声に雪見は気持ちを整える。


「OK!そういう事なら本番だと思って、気合いを入れて歌うよ!

健人くん、いいよスタートして。」

雪見がそう言うと、健人がリモコンを送信した。

三人がお互いの目を見て、息を揃え歌い出す。


今度は三人の息がピッタリと合い、歌い出しは完璧だ!

モニター室の全員が、驚きの表情でこっちを見る。

「スッゲー!なにあの三人!あれで今日初めて合わせたって言うの?

ほとんど完璧じゃん!」ここさえ上手く歌えれば七八割は成功したようなもので、あとは気持ち良く

最後まで歌い切れた。


雪見が嬉しそうに、ニコニコしながら二人を見る。

「なんかいいんじゃない?初めて合わせたにしては。

健人くんも当麻くんも、結構自主練頑張ってるんだね!忙しいのに。

私ももっと頑張らなくちゃ!もう一度だけ歌う時間あるかな?」


プロデューサーの三上が、中の三人には聞こえないように素早くスタッフに指示した。

「次の歌、録音しとけ!」 「はい!」



「よし!ラスト一回、本番のつもりで歌おう!入れるよ!」


こうして初めての歌合わせが終り、急いで今日の放送の打ち合わせに取りかかる。

あっという間に放送直前になり、三人は慌てて椅子に座り直した。

カウントダウンが始まり午後五時、今日の放送スタートだ。



「みなさーん!一週間元気でしたか?今週も始まりました!『当麻的幸せの時間』。

今週は一ヶ月ぶりにこの三人が揃いましたよ!

斎藤健人と、ゆき姉です!やったねっ!

もう、みんなが首を長くして待ってたんだから。」


「いやぁ、この前の出番は電話で失礼しましたねぇ!

インフルエンザ、まだ流行ってるみたいだからみんなも気をつけてね!」

健人が二週間前のことを詫びる。


「私は、やっと健人くんの写真集の撮影が終了して、今は毎日編集作業で残業続きだよ。

忙しいOLのみんな!お互い今週も良く頑張ったよね!

一週間の疲労回復に、健人くんと当麻くんの甘〜い声をお楽しみ下さい!」

雪見はすっかりこの空気に慣れ、もういっぱしのパーソナリティーだ。


「はい!今日はこんな三人でお届けして行きたいと思います。

じゃ、今日の一曲目。

健人の復帰祝いに、ミスターチルドレンの『名もなき詩』をどうぞ。」


「サンキュ!俺の大好きな歌!」



曲に入りホッと一息つく当麻たち。

「ねぇ、今日このあとカラオケ行って練習しない?せっかく集まってんだから。」

「ごめん!私は今日も残業だから、これ終ったらすぐに戻らなきゃなんない。

二人で行って来たら?健人くんは仕事?」

「うん、俺もダメ。このあと取材入ってる。」

「なーんだ、つまんないの!」当麻が頬を膨らませた。


「じゃ、愛穂さん誘って行けば?多分今日は夕方で仕事終わりなはず。」

「いや、いいや。今日はやめとく。」

当麻の表情が気に掛った雪見。『なんだろ?ケンカでもしたのかな。』



「はい!歌終りまーす!」

その声を合図に姿勢を正す三人。でも、どことなく当麻の元気が足りない。

それに健人も気づき、さり気なく当麻をフォローする。

そうこうするうちに、今日もあっという間に三十分間が終ってしまった。


「お疲れ様でしたー!悪い!俺もう次の仕事行くね!またな。

あ!ゆき姉は仕事終ったらメールしてよ!じゃ!」

健人がマネージャーと急いでスタジオを出て行った。


雪見も、早く編集部に戻らなくてはと思うのだが、当麻の事が気になって

なかなか足がスタジオを出て行かない。

『うーん、どうしよう…。ええぃ、仕方ない!少し遅れて行くか!』


「当麻くん!一時間ならカラオケ付き合ってあげる。絶対一時間だけね。」

雪見がそう言った時の、当麻の嬉しそうな顔!


「ほんとに!?やった!じゃ、急いで準備するね!」

当麻のあまりの笑顔に雪見は、『さっきのは自分の勘違いだったのかな?』といぶかしんだ。



編集部に少し遅れる旨を連絡し、当麻と二人で街へ出かけて行った雪見。


街はまだまだ人混みの続く時間帯であった。


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