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学の思い

「どうして?どうして学がここにいるの?」

立ち止まったまま動かない雪見の元に、学がゆっくりやって来た。


「よぉ!また会ったな。」

「また会ったなじゃないでしょ!どうしてここにいるのか聞いてるの!

偶然?それとも大学に呼ばれて来たの?」


「だとしたら、偶然ここでこの時間に雪見に会える確率はどれぐらい?

お前なら解るよな?偶然なんかじゃないって。」

学は、写真を撮られていることなどまるで気にも留めず、昔と変らぬ熱い瞳で

雪見の目をじっと見つめた。


「じゃあどうして?なぜあなたが私と対談なんかすることになったの?

今日はグラビアの撮影としか聞いてなかったのに…。」

雪見はいつまでも解けない問題を、学にぶつけてみる。

「俺だよ。俺が対談させてくれって頼んだの。

今度、ここの出版社から本を出すことになったんだ。

で、この前打ち合わせで出版社に行った時、偶然雪見が載ってた雑誌を目にして、

編集長に昔話をしたら、食いついてきてさぁ。

それじゃあ対談なんてどうですか?って言ったら二つ返事で『お願いします!』って。」


「昔話って、いったい何を話したの!ねぇ、なに言ったの!」

雪見がニコリともせずに学に詰め寄るものだから、カメラマンからダメ出しされる。


「雪見さんも梨弩さんも、何年振りかのご対面っぽい笑顔でお願いしますよ!

じゃ、二人並んで握手して下さい!顔はこっちです!

はい、もうワンショット!今度は雪見さんが梨弩さんを見上げて微笑んで!

はい、OKです!じゃ、場所を学食に移して対談シーンの撮影をします。」


学の案内で、撮影スタッフがぞろぞろと学食まで行進した。

目立つ学と雪見には、学食までの道のりであちこちから声が掛かる。

学には、「おめでとうございます!一緒に撮ってもらえますか?」

と女子学生からケータイを向けられ、一方の雪見には「『ヴィーナス』

見ました!写真集必ず買いますから!」と、握手を求められた。


「やっぱ、学はこの大学の誇りだよね。すっかり日本の有名人になっちゃった!」


「そう言う雪見だって、人気雑誌のグラビアを飾るんだから有名人だろ?

しかも超人気アイドルの写真集まで出すんだから、大したカメラマンに

なったじゃないか。」


「お互い、昔の夢を叶えたってわけね。」

雪見が、並んで歩く学を見上げて微笑むと、学はいきなり雪見の肩を抱き寄せ

「そのお陰で、俺はお前を失ったけどね。」と小声で言った。


「ちょっと!こんなとこでやめてよ!みんなが見てる!」

慌てて雪見が学の隣りから離れ、スタスタと先に行ってしまった。

後ろからその様子を目にした撮影スタッフはビックリ!

大学時代の同級生としか聞かされてないので、先程からの会話も何か

おかしいと思って聞いていた。


「なになに!あの二人、どういう関係?」 「さぁ…。」



対談場所は大学側の好意で、中庭が見渡せる窓側の一角が確保されている。

「うわぁ!ここ、懐かしい!みんなが特等席って呼んでたとこだ!

ここに座れたらその日一日ラッキー!みたいな、滅多に座れなかった場所。

いいのかな?私達が座っちゃって。みんなも座りたいだろうに…。」


「相変わらず雪見は優しいね。いいんじゃない?大学から俺への受賞祝いだと思えば。

さ!じゃあ始めましょう。俺もまだこのあと仕事が残ってるもので。」



雪見と学の対談は、『今話題の人に大接近!』という人気コーナーに掲載されるもので、

毎月旬の人を取り上げて、みんなにもっと深く知ってもらおう!というコンセプトで構成されている。


ライターさんが二人の前に座り基本の質問はしていくが、あとは二人の話の流れに任せた。

話が途切れたら話題を振る役割なのだが、まったく

その出番もなく、対談は流れるように進んでゆく。

「ほんと、久しぶりだね!」という会話から始まり、二人の出会った時の第一印象や

大学時代のゼミの話、今現在の仕事の話に至っては二人とも熱く語り過ぎ、

予定時間を大幅にオーバーしたが無事対談は終了した。


「お疲れ様でした!ありがとうございます!

凄くいいお話を聞かせて頂きました。だけど、このままでは字数をオーバーしちゃうんで、

結構削ることになると思います。ごめんなさい!」

ライターさんが二人に頭を下げて先に詫びる。


「いや、僕らの方こそ雑誌の対談と言うことを忘れて、話し込んでしまいました。

雪見がゼミの女の子達に、仁王立ちになって僕をかばう啖呵を切った話だけは

切らないで下さいね!あ、あとは今の仕事の話も。

これがなくちゃ僕なんて、『一体誰?この人。』って事になっちゃいますから。」

そう言って学がライターさんに笑いかけると、まだ二十代とおぼしき彼女は

頬を染めて嬉しそうに微笑み返した。



雪見は乗ってきたワゴン車まで戻り、衣装から私服に着替えて撮影スタッフを見送る。

「うーん、終ったぁ〜!」と清々しい気持ちで伸びをしてたら、後ろから学が

「まだ時間ある?」と声を掛けてきた。


「うん。あと二十分ぐらいなら大丈夫だけど…。」

「じゃ、少しそこで話そう。」と、近くのベンチを指差す。


二人は昔みたいに並んで腰掛け、空を仰いだ。

「あー、なんかここからの景色が変ってなくてホッとする。」

雪見は平静を装っていたが、内心は学が何を言い出すのかと怯えていた。


「俺、雪見が昔の 彼女だったとか、一言も言ってないからね。

健人くんって言ったっけ?彼氏。

本当はこの前雪見んちに行ったのは、俺の今の気持ちを伝えたくなったからなんだけど、

あいつの雪見に対する真っ直ぐな思いを聞かされたら、すっかりそんな気も失せちゃったよ。

まぁ、あんな若造に負けたかと思うと悔しい気もするけど、あいつなら

雪見を任せてもいいかなって思った。

あれだけの人気者を彼氏に持ったらさぞかし大変だろうけど、

俺はいつでもお前の味方だから。

あいつに泣かされたら俺んとこに来い!あいつを説教してやる!」

そう言って学は笑っていた。


雪見はその言葉がとても嬉しく、いつまでも心の中が温かかった。

「ありがとう!私も学の幸せを祈ってる。

まぁ、これだけ有名人になったんだから、若いコがほっとかないでしょう!

私なんかより素敵な彼女を見つけて、早く結婚しちゃいなさい!」


二人はまたの再会を約束して握手を交わし、雪見はタクシーに乗り込んで

ラジオ局へと急いだ。



学は、車が見えなくなるまで立ち尽くし、「ずっと好きだから…。」と一人つぶやいた。


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