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寂しい一人の仕事先


今日は十月一日(金)、健人と二人『どんべい』で打ち上げをした翌日。


「明日はグラビア撮影があるから軽く飲もう!」と健人と約束して飲み出したのに、

突然送られてきた当麻からのハートメールのお陰で、やたら二人ともテンションが上がり

結局のところ、また飲み過ぎてしまった。


「あー、またやっちゃった!お風呂でむくみを取ってからじゃないと、

恥ずかしくて写真なんて撮られたくないや。

健人くんはちゃんと起きて仕事に行ったかなぁ…。」

めめとラッキーに餌をやりながらの独り言。


今日からは健人と別々の仕事場だ。

健人は今まで通り今野の車に乗り、その日の仕事先へ。

雪見は今日から当分の間、『ヴィーナス』編集部が仕事場だった。

いよいよ写真集の編集作業が開始されるのだ。


昨日までの生活パターンと、朝一番に健人の顔を見られない寂しさに慣れるのは

まだしばらく先のことになりそう。

だけど今日は午後から、健人と一緒のグラビア撮影がある。

以前はあんなに気乗りしない仕事だったのに、今日は違った。

健人と共に仕事が出来ると思うと、嬉しくて仕方ない。

少々の頭痛なんて吹き飛ぶ嬉しさだ。

さぁ、お風呂に入って編集会議に出る準備をしなくちゃ!



その頃健人は今野の車の後部座席で、隣の席がぽっかり空いてる寂しさと

昨夜の酒のせいで、虚ろな腫れぼったい目をして沈んでた。

朝から午前中いっぱい、新ドラマの番宣があるというのに…。


「おいおい、健人!大丈夫かよ?目が死んでるぞ!」


「ゆき姉だったらこんな日は、目に当てるアイシング用の氷を持って来てくれたのに…。

あと、野菜ジュースも…。」


「わかってんなら、自分で用意してくればよかっただろ?

いつまでもゆき姉を頼ってたんじゃダメだって!

二ヶ月前の生活に戻っただけなんだから、しっかりしてくれよ。

グラビア撮影までにシャキッとしとかないと、またゆき姉に怒られるからな!

ま、その前に、そんな顔で番宣でたのぉ?!って怒られると思うけど。」

今野の口調があまりにも雪見そっくりで、健人は思わず吹き出した。


「絶対言うね!言う言う!怒られんのヤダから、どっかコンビニ寄って

氷買って行きたいんだけど…。あと野菜ジュースも。」


「OK!もうちょっと行 ったとこで買ってくるよ。」

今野は、やっと元気になり出した健人にホッとして、車をコンビニへと走らせた。




午後二時。雪見は『ヴィーナス』編集部にいる。

午前中から健人の写真集の編集会議に出席し、そのまま作業に移った。

午後三時からは『ヴィーナス』十二月号のグラビア撮影があるので、

そろそろスタジオに移動し衣装に着替え、ヘアメイクをセットしてもらわねばならない。


「済みません!じゃ私、撮影の準備があるんで一旦抜けます。

終ったら大至急戻りますので、後はよろしくお願いします。」

雪見が申し訳なさそうに編集部員に告げ、頭を下げた。


するとみんなはニコニコして

「なに言ってんですか!雪見さんがうちの雑誌に出てから、めちゃくちゃ売り上げ伸びたんですよ!

問い合わせも殺到してるし、雪見さんが着た服なんて、あっという間に

在庫切れだって!稼ぎ頭なんだから、こちらこそよろしくお願いします!です。」


「そうそう!こっちは任せて早く行って。また格好いいの頼むよ!」

そう言って笑顔で送り出してくれた。

みんないい人ばかりで、これからの編集作業も楽しみながらできそう、

と心を明るくしながら十二階の撮影スタジオへと向かう。


メイク室にはすでにスタイリストの牧田と、ヘアメイクの進藤がスタンバイしていた。


「おはようございます!またお世話になります。」

雪見が笑顔で二人に挨拶する。

この二人と一緒にいると、とても安心して自分を出せると雪見は思っていた。

何回体験 してもドキドキするグラビア撮影だが、すべてを任せておけば

みんなが喜んでくれる姿に変身させてくれるので、徐々にそれも楽しむ

余裕が生まれてきた。


「今日のイメージはね、山ガールって感じにしたいの。

これが発売になるのが十一月の中だから、冬仕様の山ガール。

きっとこんな格好で雪見さんは猫を写しに行くんだ!ってみんなが思うような格好。」


「多分そんな可愛い格好じゃ、一度も撮影行ったことないと思うけど。」

そう言って雪見は可笑しそうに笑った。


雪見が着替え終りメイクをしてもらってると、ドアがノックされスタッフが顔を出す。

「斎藤健人さん到着です!お願いします!」


「了解!今行く。じゃ、健人くんの方やってくるね。

雪見ちゃん、 またしても可愛いよ!って言っとくから。」

牧田がポンと雪見の肩を叩いて、隣のメイク室へと走って行った。


雪見のメイクとヘアセットが完成し、進藤も慌てて健人のメイク室に飛び込む。

一人残された雪見は椅子から降りて、全身を鏡でマジマジと見つめながら、

「ふーん。こんな私もいるんだぁ…。なんか凄いな、あの二人って。」

と、魔法に掛けられ綺麗になったシンデレラの気分で、クルッと一回転して自分を観察した。


「でも、こーんなカラフルな格好で猫の撮影に行ったら、猫がみんな

びっくりして逃げてっちゃうよね!」

大きな独り言を言って一人で笑った。

そしたらなんだか肩の力が抜けてきて、撮影が楽しみになってくる。


「健人くん、どんな衣装かなぁ。 まさか二日酔いの顔なんてして来てないだろうね。」

健人と会える瞬間が楽しみでならない雪見。

たった半日会ってないだけなのに、何週間ぶりかの再会のような気持ちになって

ドキドキとその時を待っていた。



「雪見さん、準備ができたのでスタジオにスタンバイお願いします!」

スタッフから声がかかり、メイク室から移動する。

スタジオで挨拶していると、後ろから「おはようございます!」と健人の声がした!

振り向く雪見に、健人は嬉しそうに「おはよう!ゆき姉!」と、いつもの挨拶をする。


「おはよう!元気だった?二日酔いじゃない?

おっ!目は調子良さげだね、腫れてないや。どうしてるか心配だった。」

そう言ったあと、小さな声で「会いたかった。」と雪見がつぶやいた。


健人はにっこり笑って「今日も可愛くなってるよ!俺も会いたかった。」

と言いながら、帽子を被った雪見の頭をよしよし!と撫でてあげた。


その時、二人の後ろから声がかかる。

「もう感動のご対面は終了したかな?じゃあ、お二人とも今日はよろしくねっ!」


その声に驚いて振り向くと、なんとそこには、カメラを手にした愛穂が

笑顔で立っていたのだ!


「今日カメラマンを務めさせていただきます、霧島愛穂です。よろしく!」


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