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カレンの静かなる攻撃

雪見がカメラバッグを担いでスタッフにお礼を言い、スタジオを出ようとした時、

後ろから「ちょっと待ってよ!」と声がした。

まだモデル五人でおしゃべりしていたカレンが、一人その輪から抜け出して

雪見の元にツカツカと歩み寄る。


「お久しぶり。お元気そうで何よりだわ。

最近は随分と派手にご活躍のようだけど、あなたって結構根性あるのね。見直したわ。

健人も相変わらずのイケメンなのに、台無しよねぇ!こんなおばさんが彼女なんじゃ。

せいぜいファンを減らさないように頑張ってね。じゃ。」


カレンは一方的にそれだけ雪見に告げると、他の四人のモデル仲間と一緒に

楽しそうにおしゃべりの続きをしながら、スタジオを出て行った。


それぐらいの 事を言われる覚悟は出来ていた。

だが、最後にカレンが言った言葉がいつまでも耳の中でこだまする。

『せいぜいファンを減らさないように頑張ってね…。』




今野に送ってもらって、『どんべい』前で下ろしてもらう。

雪見が降りる間際、「今野さんも良かったら一緒にどうですか?ここ、

何食べてもすっごく美味しいんですよ!お世話になったお礼に私がおごりますから!」

そう言うと、健人がジロッと雪見を見た。


「あははっ!心配するな、健人!行くなんて言わないから。

雪見さん、今日は健人と二人で打ち上げなよ。また今度一緒に飲もう。

二人とも明日はグラビア撮影があるって事をお忘れなく!」

今野は軽く手を上げ「じゃ、お疲れ!」と言い、車を発進させた 。


「今野さんって、いいマネージャーさんだよね!

健人くんは今野さんのあとをついて行けば、何の心配もいらないよ。」

雪見は今野の車のテールランプを見送りながら、健人の顔を見る。


「そうだね。俺たちの仲を邪魔しないんだから、いいマネージャーに違いない!

さっ、腹減った!マスター、注文しておいたもん作ってくれたかな?早く入ろ!」

健人は帽子のつばをグッと下げて、店の暖簾をくぐって行った。



「マスター、久しぶり!元気だった?」

雪見が笑顔で、カウンターの中にいるマスターに声をかける。


「おぅ!元気よ!ほんと、しばらくご無沙汰だったな、二人とも。

ま、あれだけ忙しいんじゃ、しゃーないわ。

頼まれた料理はすぐ運ぶから、いつもの 部屋に入ってな!

あ、取りあえずはビール二丁ね。」


店の奥に進み、マスターが二人のためにいつでも空けてくれてる小上がりに入る。


「あー、やっぱり落ち着くね、ここは!

でも、いつから来てないんだろ?あ、しまった!

沖縄から買ってきた泡盛、まだマスターにあげてないんだった!

今日もここ来ること、突然決めたからなぁー。まぁ、いいや。腐るもんじゃないから。」

そんな話をしていると、マスターが「入るよ!」と、料理やビールを運んできた。

ここで一息付いていこうと、自分のビールまで持ってきたらしい。


「じゃ、お疲れ!乾杯!うんめーっ!仕事中のビールは旨いわ!

さぁさ、温かいうちに食いな。健人に食わせようと思って、新作も作ってみたから。

どうだい?美味いか?」マスターが健人の顔を覗き込む。


「マジ、うめぇ!なにこれっ!マスター天才だよ、ほんとに!」

健人は本当に幸せそうな顔をして物を食べる人なので、作る者にとっては

それが何よりの労いの言葉代わりであった。


「じゃ、ゆっくりして行きなよ!」そう言ってマスターはまた仕事に戻る。


やっと二人きりになって、改めて健人と雪見は乾杯をした。

「本当にゆき姉は二ヶ月間、よく頑張ったよね。

だってその前までの生活とは、180度違う暮しになったわけでしょ?どうだった?」


「うーん、やっぱ想像以上に大変な世界だなぁと思った!

そんなとこで活躍してる健人くんは凄いよ!今回一番の収穫は、

健人くんを尊敬の眼差しで見れるようになっ たことかな。」

雪見がビールをグイッとあおりながら、頬杖ついて健人を見た。


「その目が尊敬のまなざし?俺には、『こんなに料理注文して、誰が食べんのよ!』

って眼差しに見えるんだけど…。」


「それもある!」


二人は久しぶりに心から笑いながらおしゃべりをし、食事とお酒を楽しんだ。

だがお互いに、先ほどカレンに言われた言葉だけは話題にするまいと、

自分自身に言い聞かせる。

雪見と同様、健人もカレンから声を掛けられていたのだ。


健人らが何テイク目かの撮影のあと、メイク直しに小休憩を挟んだ。

カレンがそれとなく健人の後ろに立ち、一言ささやいて離れる。

「あんな彼女でいいわけ?斎藤健人も大したことない男ね。」

健人は素早く振り向き カレンの顔を見たが、カレンは小首を傾げてにっこり微笑み、

メイクさんのもとへ歩いて行った。


またカレンが行動を開始する!直感的にそう健人は感じてしまった。



「ねぇ!当麻くんたち、どうしてるかな?」


「当麻くんたち、って、まだ当麻と愛穂さんが付き合ってるかどうかもわからないんだよ?」


「だったら当麻くんに聞いてみれば?ね、電話して!メールでもいいや!

あの後どうなったのか、早く知りたいっ!」

雪見は興味津々で早く早く!とせっついたが、健人はまったく乗り気ではない。

愛穂といいカレンといい、同じような時期に二人続いて現れたことに、

健人は違和感を覚えていた。


「あのさぁ、当麻なら、もし付き合い出したら必ず俺に言ってくる って!

それに、あれからまだ二日しか経ってないんだよ?

いくらなんでも、付き合うには早過ぎるでしょ!」


「へーっ!健人くんって意外と恋愛に関しては慎重派なんだ。

恋愛だけじゃないよね。割と何事に置いても慎重派かな?

当麻くんは反対に、直感で動くタイプに見えるけど…。」


「まぁ、当たってなくもないけど。それにしたって、出会ってすぐには

付き合わんでしょ!さすがの当麻くんでも。」

そう言いながらビールを飲み干し、ジョッキをテーブルに置いたところでメールを受信した。


「あれ?誰からだろ。え?当麻からだ!噂してたのがバレたかな。

えーっとぉ…。え?愛穂さんと付き合うことにしたぁ?!マジでぇ?」


当麻からのメールは、『愛穂と付き合うことになったから、今度ダブルデートしよう!』

という内容だった。

健人は、当麻のメールに久々のハートマークを見てビックリ!



前の年上彼女に振られて以来こなかった春は、こんな秋の初めにやって来た。


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