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三人の課題曲

「うそっ!俺たち三人で歌うの?しかも、こんなに難しい曲を?」

当麻が言う通り、絢香×コブクロの『WINDING ROAD』は、綺麗にハモれば

格好良く決まるが、三人の息がピッタリ合わなければ全てが台無しになるような、

とても難しい曲でもあった。


「十月は健人くんも当麻くんも、新しいドラマがスタートするんだよ!

どう考えたって忙しいのに、三人集まって練習する時間なんてある?」

雪見が無理じゃない?と、当麻に聞いた。


「無理でも何とか頑張るのが、このコーナーの意義なの!

俺はやれると思うよ。今までも忙しい中、どうにかしてきたんだから。

健人!健人はどう?多分俺と同じようなスケジュールだろうから

忙しいに決まってるけど、どうする?

もし二人が無理だって言うなら、元々は俺だけの企画なんだから課題曲を

変更してもらって、また俺一人で歌ってもいいんだけど…。」

ラジオの向こうの健人に話しかける。


「やるに決まってんでしょ!こんな面白そうなチャレンジ、当麻だけに

楽しまれたら悔しいもん!歌の練習が、仕事の丁度良い気分転換になりそうだし。

ゆき姉!もちろんゆき姉もチャレンジするよね?俺たちと一緒に。」

顔こそ見えないが、健人の声は嬉しそうにウキウキと弾んで聞こえた。


「健人くんと当麻くんがやるって言ってんのに、私がやらないなんて、

言えると思う?やります。やらせていただきます!」

雪見の力強い宣言に、当麻とラジオの向こうの健人が同時に「やった!」と叫んだ。


「じゃ、決まりだね!来月の課題曲は『WINDING ROAD』に決定!

みなさん、一ヶ月後をお楽しみに。

では、今日最後の一曲、この『WINDING ROAD』を聴きながらお別れです。

この歌、凄く元気が出る曲で、俺も大好き!

一ヶ月間一生懸命練習して、みんなにも元気があげられるように頑張るからね。

では、また来週をお楽しみに。

『当麻的幸せの時間』この番組は三ツ橋当麻と、」


「浅香雪見がお送りしました。」


「みなさん、良い週末を。バイバイ!」


『♪曲がりくねった道の先に 待っている幾つもの小さな光

まだ遠くて見えなくても 一歩ずつ ただそれだけを信じてゆこう♪』


絶妙なタイミングで曲がかかり、当麻たちの出番はこれで終了。

雪見も取りあえずは大きなミスもせず、何とか最後までこぎ着けた事を

心から安堵した。

だが今度は、今かかってる曲に耳が釘付けになり、果たして本当にこの歌を

自分が歌えるのかが心配になってくる。


「歌うって宣言しちゃったけど、マジで相当練習しないとヤバイよ!

キーも、原曲のままだと当麻くん達がきついから、少し下げた方がいいね。」そう言いながら雪見が、流れる曲と一緒に歌い出した。


「さっすが、ゆき姉!すでにほぼ完璧じゃないの?

こりゃ、俺と健人が必死に練習しないと、追いつけないや!

健人、まだ電話繋がってる?」


「おぅ!お疲れ!ゆき姉はまた自分の世界に入って歌ってるな?

俺のインフルエンザが治るまでは当麻に近づくな!って今野さんに言われてるから、

しばらくはお互い自主練だね。治ったら三人でカラオケ行って特訓だ!

なんか俺、すっげーワクワクしてる。だって、この三人の歌がCDになるんだよ?

メチャ嬉しいんだけど!」

健人の熱も、とうに下がったようだ。

この勢いで今カラオケ行きたかったなぁー!と残念そうに言う。


「健人は明日も仕事休まなきゃならないんでしょ?いいなぁー!

俺もうつしてもらおっかな?」


「何言ってんの!この後が大変なんだぞ!仕事に穴開けたんだから…。

とにかく俺治ったら、一度カラオケ行こうね!じゃ、電話切るよ。

みんなによろしく言っといて!

あ!ゆき姉に、寄り道しないで帰ってこい!って伝えて。じゃ!」

そう言って健人は電話を切った。


「寄り道しないで帰ってこい!って…。まるで夫婦じゃないか…。」

まだ歌ってる目の前の雪見を見つめながら、当麻がつぶやいた。


「あーあぁ、やっぱり難しいわ、この曲!一人一人が完璧に自分の歌

仕上げた後、相当三人で歌合わせしないと…。

あれ?健人くんは電話、切っちゃった?」

最後まで歌い終わった雪見が当麻に聞く。


「あ、うん。みんなによろしく!って。それより、これ終ったら飯でも

食いに行かない?二人で反省会しよう!俺おごるから。」

健人からの伝言は伝えたくなかった。

いつもはそんな意地悪絶対にしないのに、なぜか今は、このまま雪見を

健人の元に帰すのが嫌だった。


二人きりで話したいことが山ほどある。二人でご飯を食べながらお酒を

飲んで、いろんな事を語り合いたい。

今までも健人と三人で、たくさんおしゃべりはしてきたけれど、今日は

どうしても雪見と二人になりたかった。こんなチャンスはもう無いかも知れない。だが…。


「ごめん!やっぱ今日は真っ直ぐ帰るわ。

カレー作って置いてきたけど、なんか健人くん一人で食べさせるのは可哀想で。

それにあの人、家事がまったく出来ない人だから、もしかしてカレーも

冷たいまま食べちゃうかも!なんか心配になってきた。」


「そんな、子供じゃないんだから!適当にやってるから大丈夫だって。

俺、ゆき姉を連れて行きたい、めっちゃお洒落な店見つけたんだ!

そこ行こ、そこ!」

当麻がどんなに誘っても、雪見がうん、と返事をする事はなかった。

どうやっても、ゆき姉は健人だけのものなのか…。

心に冷たい氷を抱かされたまま当麻は、健人の元へ帰ってゆく雪見の

後ろ姿を見送った。



「ただいまぁ!健人くん、カレー食べたぁ?

ちょっと!なんで三時間位しか家空けてないのに、こんなに散らかってるわけ?」

居間のありさまを一目見て、雪見が案の定だった!と嘆く。


「お帰り!だってゆき姉、遅いんだもん。一人で飯食うのは寂しいから

ラッキー達と遊んで待ってたんだよ!こいつ、チラシ丸めて投げたら

犬みたいにくわえて持ってくんの!凄いと思わない?」

健人はすっかりラッキー、めめと仲良くなったようで、まるで自分の

実家の猫とくつろいでいるかのように、穏やかな目をしてラッキーの頭を撫でた。


「良かった!もうすっかり元気になったね!安心したよ。会いたかった!」

そう言いながら雪見は健人に抱きついた。


「おーっと!珍しいこともあるもんだ!ゆき姉から抱きついてくるなんて。

今日のラジオ、良かったよ!頑張ったね。一生懸命が伝わってきた。

益々ゆき姉のこと、大好きになった!」

健人がそっと雪見に唇を重ねる。


「さー、腹減った!カレー食べよう、カレー!」

また一瞬で賑やかな声が広がり、チラシが散乱した部屋にはカレーの

美味しそうな匂いが漂う。



その頃、外には雪見のマンションを見上げる一人の男が立っていた。


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