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インフルエンザ?

「帰りたくない、って…。ダメだよ、帰らなきゃ!

明日も仕事だし、もし万が一ここに泊まった事が週刊誌にでもバレたら

大変な騒ぎになっちゃうよ!」


「やだ!ゆき姉と一緒にいたいんだ…。今日は帰らない。」


疲れた身体にワインが効いたのだろう。頬を赤くして目は潤み、

どこかぽわんとした今日の健人は、やけにわがままを言ってくる。

雪見だって、健人と一緒にいたいに決まってる。

だが、今はこれ以上週刊誌を騒がせる訳にはいかない。

ここまでは、なんとか一つずつ取り繕ってこれたが、この先も

上手くいくという保証はどこにもないのだ。


「健人くん。明日も一日、ずっと一緒に仕事だよ!

明日は金曜だから、また当麻くんのラジオの仕事もあるじゃない。

あ、もう日付が変ったから今日がラジオかぁ。また緊張するなぁ!

健人くんと当麻くんのフォローがないと、私無理だからねっ!ヨロシク!」


二週間前に健人と二人でゲスト出演した当麻のラジオ番組が、あまりの

大反響を受けてプロデューサー直々に二人の事務所と交渉が行なわれ、

結局健人と雪見は、隔週で当麻のラジオに出る事になってしまったのだ。

雪見は渋々だったが、健人と当麻はハイタッチをして喜び合った。


「そうだ!明日はラジオ終ったら、久しぶりに三人で飲みに行こうか!

だから今日は帰って身体休めないと。最近、相当疲れが溜まってるよ。

カメラ覗いてると、よくわかるもん。さぁ、帰ろ帰ろ!」

そう言いながら、雪見は健人と手をつなごうとした。

手を握った瞬間、しまった!と思った雪見。


「ち、ちょっと!健人くんの手、異常に熱いんだけど!もしかして熱があるの!?」

おでこに手を当てた雪見が驚いて、すぐに手で健人の頬を挟んだ。


「うそでしょ!凄い熱だよ!なんでもっと早く気が付かなかったんだろ、私。

あんなに赤い顔してたのに。ごめんね、健人くん!

帰りたくなかった訳、今頃気づくなんて…。

とにかく、ここに座って!今、体温計持ってくる。」

雪見が救急箱と毛布を持ってきた。

熱が上がり出した健人は寒気がするらしく、ガタガタと震え出す。


「いやだ!39.4度もあるじゃない!どうしよう!ええと、まずこの解熱剤飲んで!

飲んだ?そしたら私のベッドに寝てて。今、湯たんぽ入れて来る!」

雪見がキッチンにお湯を沸かしにすっ飛んで行った。

お湯が沸くまでの間、今野に連絡を入れなくちゃ!と思いつく。


「今野さん、こんな夜中に怒るだろうなぁ。なかなか出てくれないや。

あ!今野さん?雪見です。ごめんなさい、起こしちゃって!

健人くんが大変なんです!私の家で凄い熱出しちゃって。39.4度もあるんです!

えーっ!嘘でしょ?今野さんも39度も熱あるんですか?

えっ?そうだったの。じゃ、インフルエンザの可能性が高いですね。

私?私は予防接種受けてます。けど健人くんは受けてませんよね?

はい、はい、ええわかりました!じゃ、今野さんもお大事に!」


「今野さん、なんだって?」うとうとしながら健人が聞いた。


「どうやら今野さんからインフルエンザ、もらったっぽいよ!

今野さんの息子さんが今、インフルエンザで幼稚園休んでたんだって。

それを今野さんと健人くんが、お裾分けしてもらったみたい。

今野さん、健人に申し訳ない!って謝っておいて、って。

明日の仕事はキャンセルしておくから、病院に行ってゆっくり寝てろ!

って言ってたよ。」


「ホントに?明日休んでいいって?やった!ありがとう!今野さんの息子よ!

あ、でも当麻のラジオも出れなくなっちゃった。残念だな。

ゆき姉だけでも出てね!当麻、めちゃめちゃ楽しみにしてたから。」


「うん。それは今野さんにも言われた。最初から二人で穴をあける訳に

いかないから、って。健人くんファンには申し訳ないけど、私だけで

勘弁してもらうよ、明日だけは。」

雪見は気が進まなかったが、健人や当麻、事務所の為と思って我慢だ。


「じゃあ、今晩は安心してゆっくり眠ってね!もう、帰れなんて言わないから。

私は隣の部屋で写真整理してるから、何かあったらすぐ呼んで。

じゃ、お休みなさい!」

そう言いながら、雪見がベッドサイドの電気を消そうとすると、突然

健人が雪見の腕を掴んだ。


「ねぇねぇ。俺が寝るまでここにいて。」

健人は自分に掛けられた布団をめくり、雪見に隣りに来るよう、

熱で潤んだ瞳でお願いした。


「えーっ!もう幼稚園児だってそんなお願いしないよ!困った子供だ。

仕方ない!お母さんが子守歌でも唄ってやるか。」

雪見は笑いながら健人のわがままを聞き入れ、ベッドの中に潜り込む。


「うわっ!まだめちゃくちゃ熱いよ、健人くん!早く薬が効くといいけど。

明日は病院行こうね!私が車に乗せて行くから。」


「ゆき姉とこうしていられるなら、熱なんて下がらなくてもいいや!」

そう言いながら、健人が素早く雪見にキスをした。


「ちょっと!私にも確実にうつるでしょ!いくら予防接種してたって、

完全にうつらないって訳じゃないんだから!

健人くんが治った頃に、私が熱出したらどうすんのよ!」


「そしたら今度は俺が看病してあげる。一晩中ゆき姉の髪を撫でて、

子守歌を唄ってあげるから。

俺、今思い出した!ずーっと子供の頃の夏休みに、

一人でゆき姉んちに泊まりに行って、夜中に熱出したこと。

母さんもいなくて心細くて布団の中で泣いてた時、

ゆき姉がそっと隣りに寝てくれて、子守歌を唄ってくれたんだ。

もう子守歌って年でもなかったけど、妙に安心していつの間にか眠った

記憶がある。

もしかしたら、あの時から俺はゆき姉を好きだったのかも知れない。」


健人が熱い唇で、何か言おうとした雪見の唇をふさいだ。

もうインフルエンザがうつってもいいや!と、雪見が健人を抱き締める。

と、その時!二人の布団の上にドスン!と、めめとラッキーが飛び乗った。


「重っ!重いって!お前達、なんでいいとこで邪魔しに来んだよ!

腹の上じゃなくて、足元に寝てくれよ!」

健人が、めめの重しをお腹に乗せてるあいだに、雪見がぴょんとベッドから飛び降りた。


「はい!じゃあ後はめめとラッキーに添い寝してもらってねっ!

私は仕事の続きがあるから。じゃ、本当にお休みっ!また明日。」


雪見はパチンと部屋の明かりを消し、ドアを閉める。

おやすみなさい、かわいい人よ…。


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