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雪見の歌声と起死回生トーク!

当麻が三上からの指示に驚いてる。

「いいんですか!そんなことして!」


「大丈夫だ!責任は俺が持つ。じゃ、二番の歌詞からオンエアしろ!

本人には気づかれないようにな!」

三上は、有名アーティストも手がける音楽プロデューサーでもあった。

その敏腕プロデューサーが、雪見の歌声を聞いて即座にそう決断した。

きっと何か考えがあるに違いない!

そう理解し、当麻は指示通りに動くことにする。


雪見は目をつぶったまま、すっかり自分だけの世界に浸り歌っていた。

心をこめて、まるでこの歌が雪見のために作られた歌であるかの様に。

周りの雑音など、一つも耳には届いてなさそうだ。


当麻はタイミング良く、スーッとオンエアのレバーを切り替えた。

全国に雪見の歌声が流れる。

目をつぶって聞き入ると、沖縄の風と香りを全身に感じることができた。

雪見の歌には不思議な力があると、以前から当麻は思っている。

声の質も表現力も聞く人の心に深く染み、いつの間にか癒やされた。

三上はこの後、どうするつもりなのか。



曲が終わった。目を開けた雪見はすっかり落ち着きを取り戻している。

当麻は何事も無かったかのように、話を再開させた。


「えー、『涙そうそう』の三線バージョンをお届けしました!

いいねぇ、沖縄。また行きたい!

やっとサプライズゲストの浅香雪見さんが落ち着いたので、改めて紹介

しましょう!猫カメラマンの浅香さんです!ようこそ来てくれました!

って、猫カメラマンより動物写真家って紹介した方が格好良くない?」


「いいの!猫カメラマンで。だって猫以外の動物は撮ったことないもん。

あ、お聞きの皆さん、初めまして!浅香雪見と言います。

ごめんなさいね!いきなりお邪魔して。みんな、健人くんと当麻くんの

おしゃべりを楽しみにラジオの前で待ってただろうに、余計な私が参加

しちゃって…。本当はガラスのあっち側で撮影の仕事中だったんです。

それがいきなりマイクの前に座らされたもんだから、お聞き苦しい場面

があった事をお許し下さい!」

雪見がスムーズに話し出したので、一同ホッと胸をなで下ろす。


「ごめんごめん!でも、せっかく沖縄の話をするんならゆき姉も一緒の

方が、楽しさがみんなにも伝わるかなぁーと思ってさ。

知らない人もいるだろうから改めてお話ししますと、

俺たち三人で沖縄行って来たんだよねっ!」


「当麻!そう言う言い方は誤解を招くでしょ!三人だけじゃないです。

スタッフやカメラマン合わせて総勢十名の、ちょっとした団体でした。

二泊三日の仕事だったんだよね。『ヴィーナス』のグラビアと、俺の

クリスマスに出る写真集の撮影を兼ねての旅行だった。」


二人が撮影の様子や泊まった石垣島のプチホテルの話などをしていると

続々とリスナーからメールやファクスが届きだした。

そのほとんどは、「さっきの歌は誰が歌ってるのですか?」という

問い合わせであった。

当麻は、もう少し雪見に喋らせてからこの事を伝えようと考える。


「でさ!竹富島でとんだハプニングが起きたんだよね、健人!」

いよいよ肝心な話に移る。三人の間に緊張した空気が漂った。

だが、さらっと話さなければ意味が無い。

ここは俳優、斎藤健人と三ツ橋当麻の本領を発揮せねばならない重要な

ポイントだ。


「そうなのそうなの!みんなに話したくてウズウズしてたんだ!

あのね、ゆき姉が…、あれ?ゆき姉が俺のはとこだって話したっけ?

言ってない気もするし、知らない人もまだいると思うから説明しますと

俺と雪見さんはおばあちゃん同士が姉妹なわけ。

で、俺が生まれた時からずっとお姉ちゃん代わりで、自転車の練習とか

ドッジボールの練習とか、この人の鬼特訓のお陰で今日の俺がいるって感じ?」


「なのに、本人は自転車が乗れなかった!という事実が今回の沖縄で

発覚しちゃったわけですよ!もう、あの時の健人の顔をみんなに見せてやりたかった!

鳩が豆鉄砲を食らうって、こういう顔を言うんだ!って思ったもん、俺。

イケメン健人の豆鉄砲顔、今度グラビアでやってもらえば?」

「おめぇ!人ごとだと思って言いたい放題言いやがって!

違うだろ!自転車の話もそうだけど、もっと凄い事をやらかしたでしょ

ゆき姉さんは。」


「そう!俺が言っちゃってもいい?なんとゆき姉は、石垣島に戻る船の

最終便の時間を勘違いしてて、俺たち三人石垣に戻れなくなっちゃったのですよ!

ひどくない?財布とケータイとカメラしか持ってないのに。

あの時は卒倒しそうになったよ、俺。」

当麻がわざと大げさに言ってみせた。


「だって、仕方ないじゃない!わざとじゃないんだから。

私だって泣きそうになったわよ!」


「いや、本当に泣いてました、この人。

で、どうにもホテルに戻る手段が無かったんで、やむを得ずそのまま

レンタサイクル屋さんの民宿に泊まらせてもらったんだけど。

結構イカした民宿だったよね、当麻!」


「うん!俺、幼稚園の時以来だった!ああいうとこ。

トイレもシャワーも共同っていう、昔懐かしい正統派民宿っていうの?

でもって運悪く、おじさんがその日予約が一件も入ってなかったから、

って部屋のペンキ塗りをしたばっかで、一部屋しか泊まれるとこが無くて…。」


「で、仕方なく三人一緒の部屋に泊まったという、ここだけ聞くと凄い

話なんだけど、めちゃ楽しかったよねぇ〜!修学旅行みたいでさ!」


「まぁ、女子と同じ部屋に泊まる修学旅行はないだろうけどね!

けど、ゆき姉は女子って俺たち根本的に思ってないから。」

と、当麻が笑いながら雪見を見る。


「えーっ!女子じゃなかったらなんなの?もしかして、おばさん?」

雪見が恨めしそうな目で二人をにらんだ。

すると当麻が、

「誰もそんなこと、言ってないでしょーが!ゆき姉は俺たちにとって、

良き姉貴と言うか気の合う仲間と言うか…ドジなお母さん?みたいな。

そんな感じ?」


「お母さん!?おばさんを通り越してお母さんなわけぇ?

まぁいいけどさ。どうせ私は君たちより一回りも年上だし…。

お母さんでいいです!こんなイケメン息子が二人もいて、お母さんは

嬉しいよ!って、そんな事言ったら本物のお母さんに叱られるでしょ!

ほんとにもう!」


三人が楽しげに一晩の事を語ったお陰で、リスナーからは

「流出動画を見た時はショックだったけど、今三人の仲良しぶりを聞き

いい関係の三人なんだなぁーと、微笑ましく思いました。」とか、

「今度この三人のトーク番組をやって欲しい!もっと二人のいろんな話

をゆき姉から聞きたいです!」と言ったメールが多数届いた。


どうやら当麻たちの作戦は成功したようだ。


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