表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怨叉の響  作者: 猫まんぢう
1/9

プロローグ──鬼女の伝説

平安時代、信濃国。


霧深い山々に囲まれた鬼無里の地に、一人の女が立っていた。


紅葉──かつて京の都で美しき女官として名を馳せた女性。しかし今、その瞳には人ならざる炎が宿っている。


「……許さない」


夜風に乗って、低く呟く声。


都での日々が脳裏をよぎる。宮廷での嫉妬、根も葉もない讒言、そして理不尽な追放。何も悪いことなどしていないのに、ただ美しく、才があるというだけで──。


紅葉の背後で、古い祠が不気味に軋んだ。


「力を……もっと力を……」


彼女の手が震える。鬼の力を得てから、どれほどの時が経っただろうか。復讐を誓ったはずなのに、気づけば彼女は山の民を守る存在となっていた。


飢饉の時には獣を狩り、盗賊が来れば追い払い、病が流行れば薬草を集めた。


鬼となった自分が、人を守っている。


その矛盾に、紅葉は苦笑する。


「私は……一体、何者なのだろう」


だが、朝廷はそんな彼女を許さなかった。


鬼は鬼。善も悪もない。ただ、討つべき存在──。


遠くから、松明の灯りが近づいてくる。討伐軍だ。


紅葉は静かに怨叉を取り出した。音叉の形をしたそれは、月光を受けて鈍く輝く。


「せめて……この村の人々だけは」


カァン──と、澄んだ音が夜の闇に響き渡った。


その音色とともに、紅葉の姿が変わっていく。美しい女性の面影を残したまま、角が生え、爪が鋭く伸びる。


最後の戦いが、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ