第7話 アオハルとバニー
「今日ありがと、ね」
陽が目で訴える。
こんな仕草で言わんとしていることが分かってしまう。
愛羽は微笑んで、続けた。
「カフェで叔父さんのタイプの話から、逸らしてくれたじゃん」
「何のこと?」
「私がタイプって嘘ついて…」
「あれ、嘘じゃないけど」
「はぇ?」と、今まで出したことがないような情けない声が出た。
理解が追い付かず、愛羽は迷子の子供のような顔をした。
「叔父さんと変な雰囲気になりそうだったから、気を使ってくれたんだよね?」
だって、そうじゃないと陽が愛羽を好きってことになってしまうじゃないか
「嘘だよね…?」
「嘘ってことにしたいなら、すればいい。けどオレは本気で言った」
陽が目を伏せた。
それが、照れなのか、諦めなのか、分からなかった。
彼が年相応の不機嫌な少年に見える。
あの時、教室で初めて見た時と同じ顔をしている。
遠い、手の届かない存在みたいだ。
朝、部屋から出ると、陽とばったり出会う。
「お、おはよ…」
「おはよう」
昨夜の気まずさを残したままの愛羽に対し、
陽はにっこり笑って挨拶する。
いつもは朝機嫌が悪いのに、今日に限って笑顔が眩しい。
その後も陽はなんだかいつもと違った。
争奪戦をしていた洗面所を愛羽に譲り、朝ごはんの目玉焼きは大きい方を渡す。
目が合うと陽は愛羽ににっこり笑う。
なんだかムズムズする。
恋ってこんなに人を変えてしまうものなのか。
そして――
「なんか二人、いつもと違う」
謎の鋭さを発揮するバニー、こと叔父・馨。
「そ、そうかなぁ?」
嘘が下手な14歳、愛羽。
「オレはおじさんの教えを忠実に守ってるだけ」
空気が読める14歳、陽。
学校でもその紳士っぷりは発揮された。
教科書を忘れた愛羽は、隣のクラスに来ていた。
けれど、運悪く友達は世界史の教科書を持っていなかった。
「今日、世界史の授業ないもん。」
にべもない。
「オレ、持ってるよ。貸そうか?」
え、救世主!と顔を上げると、陽だった。
愛羽は、固まった。「遠慮しとく」と言う前に、陽は教科書を取ってきてしまう。
ここで、いいと突っ返すのはおかしい。
愛羽は小さく「ありがとう」と呟き、教科書を受け取った。
陽が「どういたしまして」と優しく笑いかける。
「キャー!!」
教室に黄色い歓声が上がる。
オーマイガッ!なんてことを!このタイミングで!
愛羽は身の危険を感じ、一歩下がる。
「返すの帰りでいいよ。一緒に帰ろ」
また、教室に歓声があがる。今度は残念の「キャー」だった。
ああ、終わった。
私の平和な学校生活…
その後も陽は何かと愛羽に構い、他の子との差別化を図る。
愛羽は唯一の楽園を失いつつあった。
家にはバニーが居て、学校では陽が居る。
どこにも安息の地はない。
神は死んだ。




