第5話 遠慮とバニー
どうか親戚ということにしてください、と土下座した夜。
馨の帰りが遅くなる、と連絡がきた。
『悪いんだけど、二人で何か適当に食べておいて。お金はいつものところに置いてあるから』
「いーよ、叔父さんは?」
「僕は会社の人たちと食べてくるから、心配しないで」
「はーい」と電話を切る。
さて、子ども二人で夕飯は初めてだ。最近は作るのも手伝っているにはいるが。
基本的に、「子供はそんなこと気にしなくていい!」と、家の手伝いは最低限だ。
私たちは二人とも自分の部屋の掃除、お風呂・食器洗いくらいしかしていない。
ここに来ての、突然の自炊は荷が重い。
結局、二人で牛丼チェーンに行くことにした。
冬の日暮れは早い。
もうすでに真っ暗になった道を二人で歩く。
最初は車道側を歩いていたのに、車が通ると陽が愛羽を歩道側に誘導した。
なんだかんだ言って、陽は女である愛羽には、やり返さないし、強く言い返さない。風呂の後に会おうものなら、なるべく視界に入れないように最小限のやり取りで済ませる。そういう所もモテる要素なんだろうな、と愛羽は思う。
「陽ってちょっと叔父さんに似てる。やけに紳士的な所とか」
「そうかな?まあ、そうかも。おじさんには結構色々仕込まれた気がする」
そして二人の内なる声が重なる。
なんであの人バニーなんだろうね…と。
「でもおじさんに姪がいるのは初めて知った」
「私も。お母さんに弟がいるの、知らなかったもん」
「じゃあ、今まで会ったことなかったん?」
「うん。」
陽はふうん、と考える素振りをする。
「意外。あの人、子供好きなのに。姪っ子居たらめちゃくちゃ可愛がりそうだけど」
「ウチの親とあんまり関わりたくなかったんじゃないかな?」
「それ、オレ聞いてもいいん?」
「いいよー。ウチの親はね、計画性がないの。今、借金まみれで怖い人に追われてる」
愛羽は初めて陽に家庭の事情を話した。
「ウチも似たようなもんだな。親父が浮気して、家がめちゃくちゃ」
「そっか」と返す。
もう一か月以上一緒に住んでいるのに、お互い踏み込む機会がなかった。
なんだか、ふわふわする。寒い夜の湯気みたいに、距離がまだ掴めない。
牛丼を小盛で頼もうとすると、陽が言った。
店内にはスーツ姿の人たちが黙々と丼をかき込んでいた。
その中で、私たちだけが世界の端っこにいるような気がした。
「並みにしてよ」
「なんで?そんなに食べれないよ」
「余ったら、ちょうだい」
「陽、自分の分を大盛にしたらいいじゃん」
「だって、養ってもらってるのに…」
そうか。気が付かなかった。
血がつながっている叔父と姪の関係でも、お金を使わせるのは気を遣う。
陽がそのことを気にしない訳がなかった。
「分かった。残ったら食べてよね」
もしかしたら、いつものごはんも足りないのかも。
明日から、ごはんは大盛にしてあげよう。
私たち、叔父さんにとてもお世話になっている。
とても感謝している。
でも、あの人バニーなんだよな、と、ふとよぎってしまうのは何故だろう。




