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第二夜 再び、夜の中で

あれから数日が経った。

学校とバイトと、たまに自炊。それまで通りの、何も変わらない日々。

あの夜のことはなんとなく頭の片隅に残ってはいたけど、特に気にしてはいなかった。

……そう、気にしてるつもりはなかった。


「……不審者だった、よな」


口をついて出た言葉に、少しだけ苦笑いが漏れた。

いや、もう忘れようとしてたのに。なんで今さら。


変な出来事ではあったけど、誰かに話すほどでもない。

そもそも、なんて言えばいいのかもわからなかった。


美味しそうって言われて、動けなくなって、去っていかれて──

話しても、変な空気になるだけだ。


「……まあ、どうでもいいか」


そう思って、その日はちゃんとご飯を作って、風呂に入って、寝た。



この日も、バイトが長引いた。

時間は夜の十時。夕飯を作る気力は、とうにどこかへ消えていた。

財布とスマホだけポケットに突っ込んで、俺はコンビニへと向かう。


疲れていたはずなのに、気づけば足は前と同じ道を選んでいた。

あの夜と同じ、いや、いつもの帰り道だった。


あの路地を通りかかって、自然と横目で見た。

……いない。少しだけ、安堵する。


なのに。


「こんばんは」


後ろから声をかけられた。

一瞬ビクッとする。振り返ると、そこにいた。


暗がりに白く浮かぶような輪郭。間違いない、あのときの女の子だ。


「……また会うなんて、偶然だね」


前よりも穏やかな声だった。

でも俺は思わず一歩、距離を取る。


「……ほんと、あんた……何者なんだよ」


彼女は困ったように笑って、ほんの少しだけ視線を落とした。

どこか、寂しそうにも見えた。


「それ、夕飯?」


「……ああ、一応。」


俺がコンビニの袋を持ち上げると、彼女はちらっと中身に目をやった。

そして、静かに笑った。


「……やっぱり、今日も美味しそうだね」


「……は?」


また、それかよ。

思わず後ずさろうとする俺を見て、彼女は小さく笑った。


「あ、でも安心して。今日は我慢するって決めてたから」


その言葉は冗談に聞こえたけど、冗談にしていいのかもわからなかった。

俺はしばらく黙っていたけど、やがて少しだけ身体を引いて言った。


「……じゃあ、俺、そろそろ帰るから」


「うん。またね」


その言い方が、妙に自然だった。

あの夜の出来事は、やっぱり夢じゃなかった。

それは確かになったけど──


なぜか、胸の奥の違和感は、少しだけ薄れていた。

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